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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

42 すごいお礼をもらったよ!

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 異変に気づいたのは、クリスに抱かれて階段を降りていたとき。
 なんとなく、ふと、思って。

「クリス」
「ん?」
「歩く」

 簡潔に伝えた内容に、訝しげにクリスの眉間に皺が寄った。

「ここは安定しないから。下についたら少し歩こうか」
「ん、今がいい」

 この階段、手すりこそついてはいないけど、二人並んでも十分な幅があるんだよ。すごいよ、エアハルトさん。

「アキ」
「ちょっと確かめたくて」

 下にいるみんなの視線を感じる。
 階段途中で立ち止まってしまったから、心配そうな視線だ。

「下についてから――――」
「今」
「いくらでも散歩に――――」
「今!」

 俺のゴリ押しに、出てきたのは大きな溜息。

「駄目だ」
「やだ」

 また、深い溜息。
 俺の意固地さにクリスが負けた。
 階段の上っていう不安定な場所に、そっとおろしてくれる。

「ありがと!」
「……何がしたいんだ?」
「んー?うん。なんかね、ちょっと確認したくて」

 俺も確信はないからなぁ。
 すぐにクリスが手を出してくれたから、それはためらいなく握る。

「目眩は?」
「ないよ」
「足に力は入る?」
「大丈夫」
「肩は」
「クリス、心配しすぎ!」

 ぎゅっと握ったまま手を引いた。

「え」

 高くない段差を、前のように…とは言えなくても、今の俺からしたらかなり速く駆け下りる。

「アキっ」

 なんか、身体が軽い。
 ふらつくこともないし、足がもつれることもない。そのまま降りきって、足が地面についたら、妙な達成感があった。

「クリス!」

 手を繋いだまま振り返ったら、クリスもオットーさんも凄い驚いた顔してる。
 そんな驚くことなのか。

「身体は?息は…上がってないな。胸が苦しいとか、力が抜けるとかないのか」
「ない!凄い快調!!」

 うん、そうなんだよね。
 俺の身体に起きた異変。
 今まであった怠さのような力が入らないような、そんな不調が、綺麗サッパリ…とは言わずとも、かなり消えた。
 左肩に感じていた違和感とか引きつった痛みも、無くなってる。

 嬉しくて、思わずクリスに抱きついた。
 クリスも、躊躇ったのはほんの一瞬で、すぐに抱きしめ返してくれる。

「よかった…。…だが、何故急に」
「あの『鳥』さんがさ、嘴で俺の肩に触れたときに、クリスとかラルフィン君の癒やしの力と同じようなものが身体の中に巡ったんだ。それから、なんか、身体が軽い感じがして」

 そこまて説明したら、クリスは小さく「ああ…」と呟いて、俺を抱き上げた。

「間違いなく『聖鳥』だったんだな。アキに癒やしをかけてくださったんだ」
「へへ…。お礼だね、きっと」
「最上級の、な」

 額と額を合わせて、クリスと笑い合う。
 嬉しい。
 これならすぐ身体が悲鳴を上げる事が無いはず。

 駐屯さんたちはポカンとしてるけど、俺たちやクリス隊の皆にとっては、凄いことで。
 クリス隊の皆がいるところで降ろされてから、皆から「おめでとう」「よかった」「安心した」「無茶するな」って、滅茶苦茶声かけられて頭撫でられた。

「ア、アキ、アキラ様ぁ……!!」

 皆でガヤガヤしてるときに、目が覚めたらしいエアハルトさんが、天幕から這い出てきた。
 無意識にクリスの手を握って、まだぐったり気味のエアハルさんに気持ち駆け寄る。

「エアハルトさん!」

 俺の様子に、なのか、エアハルトさんの目が見開く。

「な……なんてまぶしい……!!!」
「エアハルトさん、土魔法の階段、凄く歩きやすかった!!ありがとう!!」

 って、結構笑顔全開で言った。
 なんというか、俺自身のテンションもかなり上がってたからね。

「そ、その笑顔……その笑顔が私に向けられている…!?しかも階段を使っていただけたと……!?で、殿下の腕に抱かれたままだったのでは……!?あああ、いや、そんなことより、何故私はそんな時に気を失っていたのか………!!!!」

 本当に物凄く悔しそうに地面を拳で叩くエアハルトさん。
 さすがに俺の上ってたテンションも落ち着いたわ。

「…はっ、アキラ様からこのようなお言葉をもらえたということは、私の殿下の騎士団への入隊が――――」
「うん、却下!」
「ないな」

 にこやかに「却下」を申し渡す俺と、呆れたように否定するクリスの声が重なった。

「なぜ………なぜぇぇ………!!」

 そのまま地面に突っ伏して、また意識を失くしちゃったよ、エアハルトさん。

「……でも、クリス」
「ん?」

 エアハルトさんの近くでしゃがみながら、クリスを見る。
 そしたら、ふわりと抱き上げられた。

「エアハルトさんの入隊の件、考えてもいいかもよ」

 俺のことを抜きに考えるなら、エアハルトさんの実力は十分だし、なんだかんだで、この数日でかなり隊に馴染んでるんだよね。
 なにより、魔法が扱えるのは大きいし、クリス隊の負担が減る気がするんだよ。

 クリスは俺のことをじっと見てから、またしても深いため息をついた。

「アキがそう言うなら、一応考えておこう」
「うん」

 クリス隊なら、魔法師は軍属っていう決まりに縛られることはないだろうし、魔法戦力は頼もしいと思うしね。





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