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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
38 階段完成
しおりを挟む総勢二十名ちょい。
濃紺の制服を着たクリス隊、ラフな軽装備を身にまとった冒険者のエアハルトさん、灰色ぽい制服らしきものの上から革鎧…てか、胸当て?をつけた駐屯さんたち。
巣を目の前にして、勢ぞろい。
「それにしても立派な巣ですね。これほど大きな鳥型の魔物、私は見たことないですが…」
エアハルトさんは巣の状態や地面の状態を見ながら、そんな呟きを漏らす。
「誰も見たことないんじゃないのか」
クリスもそんな相槌。
「殿下も?」
「ああ」
俺も知らないし。
「……魔物かどうかもよくわかんないけど」
そう言葉にしてはみたけど、魔物じゃないなら何なんだ、っていう原点に立ち戻る。
だからこそ、実際見てみなきゃ駄目なわけなんだけど。
「ここまで近づいてもなんの反応もない。…確かにアキラ様が言うように、魔物ではない可能性もありますよね」
「うん、なので、よろしく、エアハルトさん」
にこりと笑いかければ。
「もちろんですとも!!!私に、この私にお任せください!!!」
うむ。
やる気十分だ。
改めてわかったのは、この巣は川の、今俺たちがいる川岸よりに作られて、反対側の方に支流のような流れができてるってこと。
上流側はそこまで水が貯まってるわけではなくて、まだ多少、って範囲。
この状態なら巣を一気に破壊したとしても、下流域への水の被害はそれほどないだろうけど、巣の残骸がどこかで引っかかるとそこでまた同じことの繰り返しになるので、流れてしまう残骸は少ないほうがいい、こと。
巣がこっち寄りのせいか、魔物はこちら側から襲ってきてる。向こう側には駐屯さんたちを配置させてないみたいだから、よかったというかなんというか。
そもそも、魔物同士が食い合うのは、珍しいことじゃないから、放置でもいいと言えばいいんだけど、今回は未確認の魔物ということもあるから、ちゃんと調べなきゃならないわけで。
だから、他の魔物とかに襲われるのは阻止したいところ。
「ん……と、北側から何匹か来る」
少し弱いけどピリピリとした魔力を感じて、指さしながらクリスに言う。
そしたらクリスは慣れたもので、ザイルさんに指示を出してザイルさんから他面子に伝達される。
クリス隊の動きは早い。
駐屯さんたちは、動かない。というか、おろおろしてる。
魔物は普通、目視できるまで存在がわからないから。
「殿下、アキラ様、行きますよ」
器具を使わずに色々な計算を終えたらしいエアハルトさんが、土系魔法を発動させていく。
それは、魔物の死骸の下に大穴を掘るような大味なものではなくて、高さや幅とかを計算し尽くした綺麗なものだった。
目に見えるわけではないけれど、魔力の動きがすごく整っている。
その分、生成は遅い。想像以上に綺麗な階段になってはいるけれど。そこまでしなくても……と、苦笑してしまう。
ただ、さくっと上がって降りれる階段が欲しかっただけなんだけど。
まあ、いっか。
エアハルトさんの作業を見守ってる間に、魔物討伐完了の報告も入る。
後で処理するから、一箇所に集められた死骸はちょっとした山になってた。
危険なやつはいなかったみたい。よかった。
けど、なんだか、駐屯さんたちの俺を見る目の色がまた変わった気がして居たたまれない。
階段づくり半分くらい終わったところで、エアハルトさんは一旦魔法を止め、水袋に口をつけた。
あー、魔力の消費が半端ないんだろうな。額に汗が浮かんでるし、凄い疲れた顔してる。
俺もそうだからわかるけれど、過度の魔法は身体的にも辛くなるし、使いすぎれば動けなくなる。
じわりじわりと回復していくものだから、少し休憩挟めばまた使える。俺はクリスから分けてもらえるから、魔力不足はある程度すぐ補えるけど、普通は他人に渡したりや他人から受け取ったりはできないのが魔力だから、自分でどうにかするしかない。
「エアハルトさん…大丈夫?」
そう声をかけてしまったのは仕方ないと思う。見るからに歩きやすそうな階段を作るのに、かなりの集中力も使っているだろうから。
でもさぁ。
「あああアキラ様!!アキラ様が私を案じてくださった……!!!そのお言葉だけで私は……!!」
感極まった!!って感じで叫ぶのはどうかと思う。
目をランランとさせながら喜々と階段づくりを再開させるエアハルトさんに、胡乱な目を向けてしまった気がする。
それから間もなくして、とても立派な階段が仕上がった。
エアハルトさんはだらだら汗をかいてて、顔も真っ青。でも、やりきった!みたいな満足げな顔。
「さあ、アキラ様…!!お使いください…!!」
「よし。行くか」
……ん。
俺がクリスの腕の中から降りることはなく、クリスは階段を上がり始める。
俺が自分で階段を上がることを想定していたはずのエアハルトさんは、俺がクリスに抱かれたままなのを見て、その場に倒れた。……卒倒した、というか。
「誰か、天幕に運んでおいてやれ」
やれやれ、って感じでクリスが指示を出す。
エアハルトさん、俺が歩いて行くと思ってたからこその気合の入れようだったから、やっぱり最初から言わなくてよかったのか。言ってたらもうちょっと手を抜いてたかもしれない。
後で目が覚めたら、ちゃんとお礼は言うからね。
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