【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

文字の大きさ
上 下
277 / 560
第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

38 階段完成

しおりを挟む



 総勢二十名ちょい。
 濃紺の制服を着たクリス隊、ラフな軽装備を身にまとった冒険者のエアハルトさん、灰色ぽい制服らしきものの上から革鎧…てか、胸当て?をつけた駐屯さんたち。
 巣を目の前にして、勢ぞろい。

「それにしても立派な巣ですね。これほど大きな鳥型の魔物、私は見たことないですが…」

 エアハルトさんは巣の状態や地面の状態を見ながら、そんな呟きを漏らす。

「誰も見たことないんじゃないのか」

 クリスもそんな相槌。

「殿下も?」
「ああ」

 俺も知らないし。

「……魔物かどうかもよくわかんないけど」

 そう言葉にしてはみたけど、魔物じゃないなら何なんだ、っていう原点に立ち戻る。
 だからこそ、実際見てみなきゃ駄目なわけなんだけど。

「ここまで近づいてもなんの反応もない。…確かにアキラ様が言うように、魔物ではない可能性もありますよね」
「うん、なので、よろしく、エアハルトさん」

 にこりと笑いかければ。

「もちろんですとも!!!私に、この私にお任せください!!!」

 うむ。
 やる気十分だ。

 改めてわかったのは、この巣は川の、今俺たちがいる川岸よりに作られて、反対側の方に支流のような流れができてるってこと。
 上流側はそこまで水が貯まってるわけではなくて、まだ多少、って範囲。
 この状態なら巣を一気に破壊したとしても、下流域への水の被害はそれほどないだろうけど、巣の残骸がどこかで引っかかるとそこでまた同じことの繰り返しになるので、流れてしまう残骸は少ないほうがいい、こと。
 巣が寄りのせいか、魔物はこちら側から襲ってきてる。向こう側には駐屯さんたちを配置させてないみたいだから、よかったというかなんというか。
 そもそも、魔物同士が食い合うのは、珍しいことじゃないから、放置でもいいと言えばいいんだけど、今回は未確認の魔物ということもあるから、ちゃんと調べなきゃならないわけで。
 だから、他の魔物とかに襲われるのは阻止したいところ。

「ん……と、北側から何匹か来る」

 少し弱いけどピリピリとした魔力を感じて、指さしながらクリスに言う。
 そしたらクリスは慣れたもので、ザイルさんに指示を出してザイルさんから他面子に伝達される。
 クリス隊の動きは早い。
 駐屯さんたちは、動かない。というか、おろおろしてる。
 魔物は普通、目視できるまで存在がわからないから。

「殿下、アキラ様、行きますよ」

 器具を使わずに色々な計算を終えたらしいエアハルトさんが、土系魔法を発動させていく。
 それは、魔物の死骸の下に大穴を掘るような大味なものではなくて、高さや幅とかを計算し尽くした綺麗なものだった。
 目に見えるわけではないけれど、魔力の動きがすごく整っている。
 その分、生成は遅い。想像以上に綺麗な階段になってはいるけれど。そこまでしなくても……と、苦笑してしまう。
 ただ、さくっと上がって降りれる階段が欲しかっただけなんだけど。
 まあ、いっか。

 エアハルトさんの作業を見守ってる間に、魔物討伐完了の報告も入る。
 後で処理するから、一箇所に集められた死骸はちょっとした山になってた。
 危険なやつはいなかったみたい。よかった。
 けど、なんだか、駐屯さんたちの俺を見る目の色がまた変わった気がして居たたまれない。

 階段づくり半分くらい終わったところで、エアハルトさんは一旦魔法を止め、水袋に口をつけた。
 あー、魔力の消費が半端ないんだろうな。額に汗が浮かんでるし、凄い疲れた顔してる。
 俺もだからわかるけれど、過度の魔法は身体的にも辛くなるし、使いすぎれば動けなくなる。
 じわりじわりと回復していくものだから、少し休憩挟めばまた使える。俺はクリスから分けてもらえるから、魔力不足はある程度すぐ補えるけど、普通は他人に渡したりや他人から受け取ったりはできないのが魔力だから、自分でどうにかするしかない。

「エアハルトさん…大丈夫?」

 そう声をかけてしまったのは仕方ないと思う。見るからに歩きやすそうな階段を作るのに、かなりの集中力も使っているだろうから。

 でもさぁ。

「あああアキラ様!!アキラ様が私を案じてくださった……!!!そのお言葉だけで私は……!!」

 感極まった!!って感じで叫ぶのはどうかと思う。
 目をランランとさせながら喜々と階段づくりを再開させるエアハルトさんに、胡乱な目を向けてしまった気がする。

 それから間もなくして、とても立派な階段が仕上がった。
 エアハルトさんはだらだら汗をかいてて、顔も真っ青。でも、やりきった!みたいな満足げな顔。

「さあ、アキラ様…!!お使いください…!!」
「よし。行くか」

 ……ん。
 俺がクリスの腕の中から降りることはなく、クリスは階段を上がり始める。
 俺が自分で階段を上がることを想定していたはずのエアハルトさんは、俺がクリスに抱かれたままなのを見て、その場に倒れた。……卒倒した、というか。

「誰か、天幕に運んでおいてやれ」

 やれやれ、って感じでクリスが指示を出す。
 エアハルトさん、俺が歩いて行くと思ってたからこその気合の入れようだったから、やっぱり最初から言わなくてよかったのか。言ってたらもうちょっと手を抜いてたかもしれない。
 後で目が覚めたら、ちゃんとお礼は言うからね。



しおりを挟む
感想 541

あなたにおすすめの小説

【完結】お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
第12回BL大賞奨励賞いただきました!ありがとうございます。僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して、公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…我慢の限界で田舎の領地から家出をして来た。もう戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが我らが坊ちゃま…ジュリアス様だ!坊ちゃまと初めて会った時、不思議な感覚を覚えた。そして突然閃く「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけにジュリアス様が主人公だ!」 知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。だけど何で?全然シナリオ通りじゃないんですけど? お気に入り&いいね&感想をいただけると嬉しいです!孤独な作業なので(笑)励みになります。 ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます

ふくやまぴーす
BL
旧題:平凡な俺が双子美形御曹司に溺愛されてます〜利害一致の契約結婚じゃなかったの?〜 名前も見た目もザ・平凡な19歳佐藤翔はある日突然初対面の美形双子御曹司に「自分たちを助けると思って結婚して欲しい」と頼まれる。 愛のない形だけの結婚だと高を括ってOKしたら思ってたのと違う展開に… 「二人は別に俺のこと好きじゃないですよねっ?なんでいきなりこんなこと……!」 美形双子御曹司×健気、お人好し、ちょっぴり貧乏な愛され主人公のラブコメBLです。 🐶2024.2.15 アンダルシュノベルズ様より書籍発売🐶 応援していただいたみなさまのおかげです。 本当にありがとうございました!

有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います

緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。 知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。 花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。 十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。 寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。 見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。 宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。 やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。 次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。 アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。 ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...