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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

35 『例の』魔法師……………は?

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「……魔力……とも、違うのかなぁ」
「あれの周りは神殿と同じような空気なんだ」
「あー……そうなんだ」

 太陽が登った直後。
 俺はいつもどおりクリスの片腕に載せられて、巣に近づいていた。
 俺たちの後ろには、しっかりとオットーさんがついてきてる。

 そして気づいたことなんだけど、とにかく、巣、でかい……。

「なんで川なのかなぁ……」
「さあな……」
「ここまで巨大な巣を作る魔物……記憶にありませんね」
「俺もだ」
「……ねぇ」
「ん?」
「あれ、登れないかな?」
「え?」

 俺の提案?に、クリスもオットーさんも、巣を見上げた。
 二人が見上げるくらいにでかいんだよ…。ほんとに。

「なんか気になって。なんか、やっぱり弱ってる気がするし、ここまで近づいても何も襲ってこないし、………魔物とは思えないし……」
「まあ、登れるだろ」
「登れますね」

 あ、登れるんだ。
 流石。

「俺も登りたい」
「………無理だろ、それは」
「アキラさん、無理・無茶はだめですよ…?」

 二人から駄目言われた。
 くそぅ。




 巣の偵察を終えたら、朝ごはんができていた。
 クリス隊に加えて駐屯さんもいるから、結構な大所帯だ。
 食事担当は…ディックさんとリオさんだ。ディックさん、何気に料理担当してること多くない?
 そして、まぁ。
 わかっていたことだけど、視線が刺さる刺さる。
 もちろん、駐屯さんたちの、ね。
 クリス隊のみんなは普通に挨拶してくれて、昨日倒れた感じになってるから体調はーとか、食べれるーとか、そんなこと聞いてくれるし、なんだったら、昨日の魔法もすごかった!って笑ってくれるんだけど。
 んー、俺、自己紹介も何もしてないんだよね。昨日、ちゃんと合流する前に寝込んじゃったしな。
 だから、クリスにはしっかり挨拶してるけど、俺に対しては、微妙な雰囲気。よくわかんない子供がずっとクリスに片腕抱っこ(……)されて、座るときもクリスの膝の上で、しかもご飯食べさせてもらってる状況……。うん。言ってて俺も意味不明だと思う。
 ごめんね。駐屯さんたち。
 でも、冒険者さんたちのほうが、まだフレンドリーだったなぁ。

「アキラ様ぁ!!」

 色々考えながら飲んだり食べたりしてたら、クリス隊の天幕からエアハルトさんが駆け出してきた。みんなよりずいぶん遅い。そして、彼の後ろからは、にこやかなザイルさんも出てきた。
 どしたんだろ?

「おはようございます!お身体はどうですか!?」
「えー…おはようこざいます。大丈夫です。ご心配おかけしました?」

 なんか、エアハルトさん、やたらと腕…というか肩?ぐるぐる回す。あと、首も。肩こりの人がしそうなこと。

「どこか痛いです?」
「ええ、いえいえ。三日目ともなれば慣れましたよ…!今となっては縛られないと安眠できないくらいに――――」
「はい、そこまでねー。こっちで朝食にしてくださいねー」

 ………もう、あれか。
 ザイルさんに引っ張られて連行されるまでがセットなんだな、この人。
 しっかし、縛られないと、って聞こえたけど、エアハルトさん、やっぱりおかしな性癖の人だったんだろうか。
 今朝は比較的普通…………や、テンションは高めか。まぁ、いつもどおり、やらかしすぎてはいないと思うけど。

「アキ、エアハルトのことは気にしなくていいから。ほら、これ食べろ」
「ん」

 口の中に葡萄もどき一粒。季節の果物なのかようわからん。

「おいひい」
「飲み込んでから話せ」

 楽しそうにクリスが笑う。ん、いっか。美味しくて楽しいなら、何も問題ない。
 さて、二人からダメ出し食らったわけだけど、どうやってか巣に登りたいなぁ。
 クリスがタイミングよく口に入れてくれる果物を咀嚼しながら、あーでもないこーでもないと考えていたら、クリス隊の制服とは違う革鎧的なものを身に着けた男の人が俺たちに近づいてきた。

「何かありましたか?」

 オットーさんが俺たちの前に一歩出る。そしたら、その男の人はそれ以上近づかず、立ち止まった。
 ……すごいね。俺が怖がる微妙な位置を把握してるよ…オットーさん。

「失礼しました。今回、この班を任されたジェイド・ルデアックと申します」

 ……っていうのは、おそらく、俺に向かって。
 今朝のこのタイミングでクリスたちに自己紹介するはずがない。

「あ」
「アキラ・スギハラだ。私の婚約者に何か用か」

 ……うん。俺が答えるより早くクリスが答えた。しかもよそ行きみたいな一人称。……ん?仲、悪いの??

「やはり婚約者様でしたか…。では、殿下、不躾ながら、ご婚約者様は天幕で過ごしていただくわけには行きませんか」

 あ、これ、暗に、「邪魔なんだよね」って、言われてるやつ。

「この地は決して安全というわけでなく、昨日のような魔物の襲来があります。私達から護衛を出すにしても、守りきれるかお約束できません。ですので……」

 ルデアックさんの言葉を、クリスのため息が遮った。なんていうか、『びくっ』て強張るくらいの怖いため息なんだけど。

「必要ない。出過ぎたマネはするな。アキに対しての護衛は我々だけで十分だ。……それに、アキはここにいる誰よりも秀でているから何も心配はいらない」
「……それ、言い過ぎ。俺、ひ弱なんですけど……」
「キマイラの口に氷塊を打ち込むようなやつはひ弱じゃないだろ」

 くく…って笑われるけどさ。

「……あれが最適だと思ったんだよ……」
「確かに最適だとは思うが…」
「口に氷塊突っ込まれて身動き取れないキマイラとか…思い出すと笑っちゃいますね……」

 オットーさんまで口元押さえ始めたしね!?
 そしてあれだ。
 ルデアックさんがぽかんとした顔してる。

「………え?」
「アキラさんが魔法師ですよ」

 ……………『例の』って、なに?





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