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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

30 南遠征三日目。川についた。

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 目指す川は、王都から見て南。
 クリス隊のそれなりのスピードで走り抜けても、間に二晩は野営を挟む。
 三日目の移動。
 昼食後にしばらく走ると、水の音がし始めた。
 地理的なものが全く頭に入ってないから、位置関係が全くわからないのだけど、どうやらこの水音が、目的の大きめの川らしい。
 正直、川に巣を作るような大型の鳥系魔物は、全くわからない。
 大型鳥系魔物……で言うなら、ロック鳥とか思い浮かんだけど、あれは結構獰猛で、岩場とかに住んでいたはず。
 この世界に生息してる魔物が、全てゲーム知識で網羅できるかと言われれば、そんなことはないと思う。ここはゲームの世界じゃないから。
 だから、知らないことは知っていけばいいし、知っていることはどんどん出していけばいい。
 俺の婚約者は、なんでもちゃんと受け止めてくれる。
 これってすごいことだよね。大好き、クリス。





「あー…これは確かに水量減ってますね」

 件の川に到着してから、エアハルトさんが川面を見ながらそう断言した。
 そんなのすぐにわかるんだ?

「村は、まださきですか?」

 川下を指さして、クリスに確認する。

「そうだな。半日くらい走ればつくだろう」
「それで、魔物は?」
「上流域に更に半日というところか。ブランドン」
「はい、殿下。今はまだ見えませんが、あの曲がってるあたりを超えれば魔物の巣自体はすぐに目視できます。まぁ、でかいので」
「村の方には駐屯兵士団から数名出向いていたな」
「はい」

 クリスは上流と下流を見比べてから、隊の方に視線を戻した。

「リオ、ミルド」
「「は」」
「お前たちは村の方へ。前にも来ているから、お前たちのほうが話が通りやすいだろう。私達が到着した旨を伝えてくれ。村長にも下手に騒がないよう促してくれ。その後は、合流しろ。野営の組める場所は大体把握してるな?」
「はい、問題ありません」
「では、村の方は頼んだ。ブラントンは先頭に。オットー」
「はい。すぐに組み直します」
「ああ。任せた」

 ポンポン指示が飛ぶ。
 リオさんとミルドさんは、下流域の村……ってことは、今回、この川の水量が減ってるって報告を持ってきた村だよね。そこに一旦行ってから、俺達と合流か。

 確かに、上流の方は大きく曲がっている上に、森があってそのさきが見えない。ただ、なんとなく、何かの気配はしてるんだけど。よくわかんないな。
 俺たちの前には石造りの橋があって、向こう側に街道が続いてる。
 川岸に降りるには、ちょっと高さはありそうだけど、そこまでの高さでもない。
 河川敷の公園とかはもちろんないし、護岸工事?みたいなものもされてない、自然な川。釣りできそう。

「気になるとこがあったか?」
「ん?…や、こんな自然な川とかあんまり見たことないから、魚いそうだなって思って。釣りとか楽しそうじゃない?」
「釣りか」

 道具も餌もないけど。
 は。
 川の中には魚のような魔物もいるのかな…?
 下手に釣りしたら、そういうの、釣れちゃったりするんだろうか。
 や、でも、魔物の気配は感じないし……。

 色々考えてたら、いつの間にか腕組みしてた。そしたら頭上から、笑い声が。

「時間があったらしてみるか」
「釣り?」
「そう」
「でも道具は?」
「なんとかなるだろ」

 なるの?
 なるなら、少ししてみたい。

 多分わくわくした目でクリスのこと振り返ってたと思う。
 苦笑されて、頭撫でられて、ポーチの中から出したらしい小さめの焼き菓子を、俺の口の中に入れてきた。

「ブランドン」
「はい。出ます」

 どうやら俺との会話が終わるのを待っていてくれたみたい。
 ブランドンさんが、街道から外れて川に沿って東に移動を開始した。
 整備された道じゃないから、足はゆっくりになるし、隊列も組めない。今はほぼ一列進行。
 木が多いけど、それほど暗さは感じない。心地のいい木漏れ日が降り注いでる。
 川の近くだからか、心做しか空気も澄んでるように感じる。
 意外と魔物の気配もない。
 なんかなぁ。
 森林浴してる気分。
 足場も視界も悪いから、ここで魔物に襲われるのは、正直嫌だなぁ。

「怖い?」

 クリスが突然そんなことを聞いてくる。

「や、全然」
「なら安全だな。ここは」

 ……一体、なんのバロメーター……。
 俺の感情=危険度、とか認識されてます?
 確かに、ヤバそうな場所とかは、怖いなぁとか、嫌だなぁとか、進みたくないなぁとか、おもうんだけどさ。

「森林浴みたいで気持ちいい」
「そうか」

 クリスも力を抜いたみたいで、俺の頭にキスを落とした。
 それからまた、甘い小さなお菓子を俺の口に入れる。
 うん。うまい。

「……上流にいるらしい魔物の気配はするか?」
「ん……それが、あるようなないような感じで……、すごく、弱々しいのは、感じるんだけど……」
「弱々しい……か。もしかしたら、その魔物自体が弱っているのかもしれないな。魔物の持つ魔力が弱くなれば、恐らくアキの感知には引っかかりにくい」
「あ、そか。魔力に反応してるんだ。俺の感知って」

 え、俺知らなかった。
 てか、気づかなかった…。

「……俺自身のことなのに俺よりクリスが詳しいなんて……」
「レヴィの受け売りだがな」

 楽しそうに笑うクリス。
 そっか。ギルマスの助言だったか。

「魔力……ってことは、俺、もしかしたら、クリスの居場所、わかるのかも」
「ん?」
「だって、クリスって、魔力の塊みたいなものでしょ?」
「塊?」
「うん。なんだっけ。人間の体の70%は水分で出来てる、って。だったら、体液に魔力があるクリスは、70%くらい魔力でできている………、ん?」
「……そうか。俺は魔力でできていたのか……」
「うーん????」
「まるで魔導人形だな」

 可笑しそうにクリス、笑うけど。

「クリスは普通に人だもん」

 俺のクリスを人形とか言わないでよ。
 あ、でも、魔導人形なんてものがあるのか。見てみたい。
 俺のお腹を支えてた手が、ずいっと伸びてきて、俺の唇をいじり始める。

「人形じゃお前を愛せないな」
「んっ」
「今日はどうやって抱かれたい?」
「んんっ」
「朝まで挿れたままにしようか?」
「んー…っ!!」

 唇、つまんだまま、やめてっ。
 耳元で、低音のいい声で囁くのやめてっ。
 どーして何もできない馬上で、いっつもいっつもからかってくるのかなぁ…!!



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