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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
28 絶好調!南遠征二日目!!
しおりを挟む「あ、前方、左手側、多分ゴブリン…かな、五体くらい」
「ん」
「あー……、それ追いかけるように、オーガ二体」
「……ん」
「そこ、頭上にクリーパーいるから注意ー」
「…………ん」
「あ、グリズリーさんもくるよ。人手足りる?それから――――」
「………………ちょっと待て、アキ」
「うんんん?」
なんか今日の俺、冴えてるんだよね。
朝の一件以来、こう、神経が研ぎ澄まされているというか、第六感が働きまくってるというか。
それなりな森に入ってから、それが顕著で、次から次に魔物の所在がわかる。
森と言っても、そんなに鬱蒼とした感じはないけれど、やっぱりそれなりの数の魔物はいる様子。
だから、魔物ホイホイ如く、あっちからーこっちからーってクリスに言い続けてたんだけど、止められてしまった。
クリスはその場で隊の進行も止めた。
森の中の道にしては広いし、馬車待機場なのか、やや開けた場所もある。
「オットー、ザイル」
「ええと……はい。班を組んで取り掛かります。アキラさん、ちなみに、一番早くここに到達するのは?」
「ゴブリンかな。もうすぐ視認できると思う」
馬上で聞いていたらしいオットーさんとザイルさんの行動は早かった。
一番数が多いゴブリン方面に多めの人数を配置する。クリスが指示を出さなくても動いていく隊っていいなぁ。クリスも口をださないってことは、それでいい、ってことだもんね。
「クリーパーは……」
オットーさんは俺が指さした方を凝視して、「なるほど」って小さく頷いた。
「で……殿下、団長……!クリーパーは私が落とします……!!!」
ちょっと高いとこにいるんだよねーどうしよっかなーって思ってたら、それまで大人しかったエアハルトさんが、滅茶苦茶息巻いて俺たちのとこに来た。
「…出来るのか」
クリスのなんだかとーっても嫌そうな声と顔。でも、あの高さには剣は届かないし、落とすとしたら弓矢なんだけど、魔法のほうが手っ取り早いよねぇ。
「火は駄目。出来るだけ周りの木を傷めないでほしいんだけど。エアハルトさん、できるの?」
「アキラ様…………!!!はい、もちろん、できます。やります。やらせてください……!!!」
すごい意気込みだ。
ちらりとクリスを見ると、やっぱり変な顔してるし、オットーさんも笑ってるのに怖い。
「………仕方ないな」
「殿下」
オットーさん、舌打ちしそうな勢いなんだけど。
クリスは、まぁ、隠さず舌打ちしたね。
「クリーパーを落とすのはお前に任せる。エアハルト。……オットー、その後の処理は任せた」
「……わかりました、殿下」
「ありがとうございます……!!!見ててくださいね…アキラ様!!一発で落としてみせますから!!」
「あー、はい。うん。期待してまーす」
自分で笑ってしまうくらいの棒読みだった。
「グリズリーは?」
「俺がやる。……アキは少し離れててくれ」
「ん……」
「護衛にザイルを残します」
「ああ」
クリスが額にキスしてくれた。ゆっくり降ろされたとき、「ギャギャ」っていう多分ゴブリンの声が聞こえてくる。
クリス隊の皆にとっては、ゴブリンは軽い。多分、その後ろにいるはずのオーガ二体の方がメインだ。
木々の間から、小さめの影が見える。
……ああ、本物、初めて見た。
「駆除開始!!」
クリスの声で、戦闘が開始された。
ゴブリンは、まぁ、予想通り敵じゃなかった。
オーガは、軽くいなせるような相手じゃなくて、みんな結構真剣な顔で向かった。
それから。
「エアハルト!」
「はい!いきます!!」
クリスの声で、エアハルトさんの魔法が発動。
ぼこりと地面が動いて、いくつもの小さな粒になる。
それを、確実に正確に、クリーパーの大きくはない本体や、細い触手に命中させていく。
精霊魔法みたい。土属性の魔法ってこういう使い方もできるのか…って、勉強になった。
ぼとりと落ちてきたのは二体のクリーパー。それを隊員さんが屠ってる間に、咆哮が聞こえた。
「来たか」
バキ、って枝を踏む音がする。
間違いない。グリズリーさん。まぁ……熊だけど。熊肉、食べれるんだっけ?
「殿下、私も」
「いい。俺一人で行く」
オットーさんが隣に並んだけど、クリスはそれを断って、俺の頭を一撫でしてから、地面を蹴った。
「はや……」
森の中で足場が悪いはずなのに、クリスはすぐにグリズリーの懐に入り込む。
そこからは、唖然としたというか、なんというか、鬼気迫るというか、あれだ。ストレス発散のような。
グリズリーさんって、一人で戦うような相手じゃないと思うんだよ…。ほら、でかいし、力あるし、体力的にもありそうだし。
けど、クリスはそんなことお構いなしで、爪をひらりと躱して二、三撃食らわせてる。
あまりにも一方的。
「………クリス………格好いい………」
格好良くてドキドキする。
熊の巨体が大きな音を立てて地面に倒れ込んだ。
すごいすごい……ってちょっと興奮しちゃってね。
歩くのだって物凄くゆっくりなのに、駆け出しちゃったんだよね。俺のバカ。
「あ」
「アキっ」
「アキラさん…っ」
「アキラ様ぁ!?」
そりゃね。よろけるしもつれるし、まともに前に進まない。ああ、もうほんとに駄目すぎる俺。
どうやっても崩れた態勢は戻らなくて。
ザイルさんとオットーさんの手も間に合わないし、そもそもクリスはもっと遠くて。
あ、これは駄目だ。転ぶ……って思っていたら、地面に激突する寸前、身体が一瞬ふわりと浮いて、ゆっくりと、地面に降りた。
「え」
無意識でなにか魔法でも使ってしまったかと思ったけど、そうではなくて。
「ま………間に合いましたぁ………」
……って、俺に片手を伸ばしながら、やたら肩で息をついてるエアハルさんがいた。
「アキ!!」
「クリス」
地面の上にへたり込んでた俺を、クリスが抱き上げる。
「怪我は?」
「全然。……ごめん。ちょっと調子に乗ってた……」
「全く……」
本気で心配かけてしまったらしい。クリスが俺のことをきつく抱きしめてくる。
「エアハルト」
「は、殿下…!」
「よくやってくれた。今のは風か」
「は……はい……!!」
「助かった。その魔力制御、見事だ」
「あ………ありがとうございます……!!」
珍しく、クリスが褒めた。
そりゃ、あのまま転んでたら、顔も肩も、あちこち打ち付けて大変なことになってたとは思うけど。
「ありがと、エアハルトさん」
お礼は素直に言っておこう。
「ア……アキラ様……!アキラ様に傷の一つもつかずに、私はそれだけで感無量で……!!!あああ!!!ですが、今の行為で許されるなら、是非入団を……!!」
「……懲りないな。却下だ」
……………安定のエアハルトさんだった。
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