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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。

19 実は暴君殿下?俺、少し復活!

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 びっくりして顔を上げたら、ヘイデンさんが呆れたような顔で俺の目の前にいて。

「くだらないこと言ったら怒るって言いましたよね?」
「ご、ごめんなさ……」
「ここの奴ら、誰か一人でも、迷惑だって言いました?」
「……言われてない。でも」
「まさか、団長か副団長に何か言われました?」
「言われてない……」
「殿下が言いました?」
「……クリスは言わないよ」
「なら、そういうことでしょ?」
「?」

 よくわからなくてじっと見てたら、あちこちからため息が。

「焦ったぁ。俺、カーラーさんに負けたから、鍛え直しとか、退団しろとか、戦力外とか、幻滅したとか言われるのかと思ってたぁ」
「え」
「……まあ、鍛え直しはしますけどね」
「ひぃっ」

 リオさんの言葉に、オットーさんのやたら低い声が返されて、みんな、顔が青褪めてる…。
 エアハルトさんに勝ったのって、オットーさんとザイルさんと……、ディックさんとミルドさんだけじゃなかったっけ?

「え……、えと……、が、頑張って……?」

 というか、俺の悩んでたことどこ行った。

「大体、アキラさんがいなかったら、多分みんなここにいませんよ」
「なんで?」

 思わずオットーさんを振り返った。

「前提として、カーラー殿が現状のように同行していたとして、あんな不甲斐ない結果を出した団員を、殿下がそのままにするわけないじゃないですか。私達はクリストフ殿下の元、剣の腕を買われてここにいるんです。周囲への牽制も含めて。なのに、他国の貴族とはいえ、現冒険者に半数も勝てないというのは、恥ずべきことです。私がしごくより先に、殿下直々に全員倒れるまで鍛え直されます。この団には必要なことなので。今までがそうだったように」

 ……恐怖政治というか、完全実力主義というのが腑に落ちたというか、もう、なんていうか。クリス、意外と暴君だったのか……?
 クリスを見たら、視線をそらされた。それ、肯定ってことですか……?

「なので、訓練所で死屍累々になるので、こんなところでのんびりと話をしてられる状況じゃなかったはずなんですよ、アキラさん」

 オットーさんの言葉を引き継いで、ザイルさんが穏やかな声で教えてくれた。
 ……死屍累々って。とんでもないですね……。

「でも、現実は違う。アキラさんに会って、殿下は変わられたので。以前の御自分を追い詰めるような厳しさは感じなくなりましたよ。……多少、ですけどね」
「殿下が柔くなった分、団長が厳しくなりましたけどね」
「殿下に比べれば、なんてことはないですよ」

 ………ほんとっ、クリス、どんな鍛え方してきたの……!

 内心わたわたしていたら、ちょっと距離のあったみんなが、俺の周りに集まった。

「今回の遠征は急ぐことないんで、何も気にしなくていいんですよ」
「魔物感知とか、アキラさんにしかできないことありすぎて、頼り切ってごめんなさい」
「とにかくずっと殿下のそばにいてください……。あんなしごき……もう嫌だ……」
「というか、アキラさん、もう団員でしょ?制服着てるの違和感ないし」
「どんなに体調悪くても、連れて行くのが殿下だから、気にしなくていいと思いますよ」
「あーでも、俺らの前で口付けとかは、それなりにやめてもらえると……。目のやり場なくて困ります……」
「微笑ましいんですけど」
「殿下の表情がやばい」
「アキラさんもやばいっすよ」
「やー、カーラーさん、夜に殿下とアキラさんの天幕に突撃かけなきゃいいんだけど……」

 がやがやと、俺の周りで話しながら、何度も頭を撫でられた。
 …俺、ちょっと子供扱い?
 でも、なんだか嬉しい。
 迷惑とか、思われてないってことだよね?そりゃ、本心はわからないけどさ。でも、今、笑ってくれてて、撫でてくれてるのは、俺を受け入れてくれてるってことだよね?

 嬉しくてにたにたしてたら、いきなり身体が浮いた。

「もういいだろう。いい加減アキを返せ」
「クリス」

 隊員さんの輪の中から、クリスに片腕で抱き上げられた。
 頬にキスをされて、また、口元がにまにまする。

「……殿下、心せまっ」

 呟いてしまってから「しまった」って顔をするリオさん。口元を手で抑えても、ばっちり聞こえちゃってるよ……。
 クリスは「ほう」と声を発してから、確実にリオさんを見た。

「リオ、次の魔物はお前一人で討伐してこい」
「ひぇ!?」
「森の中で、単独行動を許す。列に魔物を近づけるなよ」
「え、ま、待って、殿下……!」
「そろそろ出る。準備をしてくれ、オットー」
「わかりました。……じゃあ、リオ、先頭は単独一騎でよろしく。他の変更は特になしで」
「嘘でしょ……」
「リオ、懲りないなぁ……」
「ほんと、口が軽いというか、自滅型というか……」

 座り込んでた隊員さんたちは、みんな立ち上がって、俺にしたようにリオさんの頭を撫でて慰めていた。

「いい顔になったな」
「ん?」
「少し吹っ切れた?」
「……多分」

 クリスは皆から離れたら、そんなふうに俺に聞いてきた。
 クリスの腕の中はやっぱり気持ちが良くて、クリスの首に腕を回してきゅっと抱きついた。
 クリスの匂いを胸いっぱい吸い込んでから、顔を上げた。

「ありがとうございました、エアハルトさん」
「お役に立てたのなら、よかったです」

 キレイにお辞儀をしたエアハルトさん。
 変態さん……なんて、連呼しててごめんなさい。意外と周りをよく見てるいい人――――

「では、ではでは、アキラ様の悩み事を解消した手助けのご褒美に、是非入団許可を……!!!」
「却下だ」

 ………ん。いい人発言、やっぱり取り消そう。


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