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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
18 隊員さんと
しおりを挟む俺の逡巡は、すぐに伝わってしまう。
でもエアハルトさんは、微笑みを崩さない。
「声に出せばいいんですよ、アキラ様」
「……声に?」
「ええ。不安に思っていることがあるなら、聞きたいことがあるなら、殿下を通してではなくて、ご自分の言葉で。……聞きたいことが、あるのでしょう?」
目を細めて微笑むエアハルトさんは、ちらりと隊員さんたちの方を見る。
…ほんと、なんなんだろ、この人。なんでそんなこと、わかるんだろう。
クリスも何も言わない。クリスを見たら、優しい目で俺を見てた。その瞳を見つめ返したら、頭を撫でて、頷いてくれる。
クリスの腕の中は、俺にとっての安息の場所。全てのものから俺を守ってくれる場所。
だから、出なきゃならない。
クリスの腕の中から逃れ、まだちょっとふらつくけど、自分で立ち上がる。
いつもは過保護なほどに俺を構うクリスだけど、今だけは見守りに徹してくれている。
近くに来ていたオットーさんが、少し慌てたような、微妙な顔をした。
「アキラさん、どうしました?何かあったなら――――」
「えと……俺、皆に……聞きたいことが、あって」
オットーさんはちらりとクリスの方を見たけど、すぐに俺に視線を戻してうなずいてくれた。
簡易日よけから出る。
陽射しが、少し強い。
体のだるさは、今は少し落ち着いてる。
クリスとエアハルトさんは、日よけのあたりから俺を見てるだけ。遠くはないけど、近くもない。けど、視線は、ちゃんと感じられる距離。
俺とオットーさんが歩いていると、隊員さんがみんな、集まってきてくれた。
「アキラさん、歩いて大丈夫ですか」
「あ、果実水飲みましょう?」
「えーと、日よけになるようななにかなかったっけ?」
「というか、殿下のそばにいてくださいよ!」
「魔物の処理は終わりましたし、もう大丈夫ですよ?」
……なんだか、次から次に、そんな言葉をかけられて。
「やっぱりアキラさんの感知はすごいですね。ウォーウルフはともかく、森の中でヘルハウンドに奇襲かけられたら、いくらなんでも嫌ですから」
「殿下がだれより頼りになると思いますけど、俺達だってアキラさんの指示はちゃんと実行しますからね?」
「西の店主も殿下ならアキラさんの指示を実行できるとか言ってましたもんねぇ」
「そんなに俺らって頼りないですかね?」
「いや、殿下が強過ぎなんでしょ」
「違いないわ」
……って、なんか、ね。
クリス、そこで聞いてるけど。
なんていうか、えと、どうしよう。
「あの……」
案外小さな声になってしまったのに、みんな、一斉に黙った。じっと、俺を見る。
「……みんな、俺のこと、迷惑とか、思ってないの?」
「はい?」
俺が発した言葉に、みんなぽかんとして。
それから、一斉に、オットーさんの方を見て。
オットーさんは、苦笑して。
「……アキラさん、とりあえず座りましょう」
そう言ってきたのは、ディックさん。
肩をポンポン叩かれて、俺はその場に腰を下ろした。
「迷惑って何なんでしょう~。これ、果実水です、はい、飲んで」
コップを手渡してきたのは、隊員の中でも珍しい双剣を使うリオさん。
コクコク飲んでいたら、俺の好きなぶどうもどきが目の前に。
「はいこれ。アキラさん好きでしょう?」
だしていたのは、この春入隊したユージーンさん。
もぐもぐ食べ始めたら、頭にマントのようなものを被せられた。
「頭、あっつくなっちゃいますからね」
マントをかけてくれたのは、ケインさん。
「とりあえずみんなもすわろーか」
ブランドンさん……は、一番年上だったっけ?
「……自分、殿下の視線が怖いんですが……」
乾いた笑いを見せているのはミルドさん。
「それじゃあ、改めて。迷惑って、何の話ですか?」
みんな座って、もぐもぐしてる俺に、改まって聞いてきたのはネイトリンさん。
「あんまりにもくだらないことだったら、怒りますよ?」
………って。ちょっと怖く笑ったのは、ヘイデンさん。……貴族の凄みがある……。
オットーさんとザイルさんも、俺の後ろに座った。
「……あの」
みんな黙って、聞いててくれる。
「……俺、前回の西の遠征で、怪我をして」
少し、息をついて。
「まだ、身体が全然、前のように動かせなくて」
左腕をさすってたのは、無意識。
「体力も、食欲も、全然、なくて、クリスから魔法も禁止されてるから、俺、本当に、何もできなくて」
どくんどくんって、心臓が強く打つ。
「足手まといになる、って、わかってても、どうしても、クリスと一緒にいたくて、ついてきちゃったけど」
怖い、な。
「俺のせいで、予定より早く休憩になっちゃったし、行程が、遅くなってしまうから、だから、みんなに、迷惑とか、面倒とか、思われてるよね………って、おも、って」
……もう、みんなの顔見てられなくて、体育座りのように膝を抱えて、顔を突っ伏してしまった。
みんなからの反応がなくてどうしようって思っていたら、「はぁ」って、なんか大きなため息が聞こえてきて、びくりと肩が震えてしまう。
「ほんとにくだらないことだった……」
ぼそりと言ったのはヘイデンさんだった。
こんなこと、わかれ、ってことだろうか。迷惑って思われてるの当然だろってことだろうか。
目がじわっと熱くなったとき、大きな手に頭を撫でられた。
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