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第5章 王子サマからの溺愛は甘くて甘くて大変です。
8 冒険者ギルド再び
しおりを挟む「おう、待ってたぜ」
西町の暁亭のドアを開けた途端、ギルマスからそんな声がかかった。
久しぶり…って程でもないか。
「こんにちは!」
気持ち的には駆け寄ってたんだけど、なんせクリスの腕の中だったので、気持ちだけ。
午前中にお兄さんの執務室で打ち合わせをして(胃の痛くなる場だった…)、なんかクリスによくわかんない理由で抱かれて(別にいい、俺も嬉しかったし…)、お昼ごはん食べて(物凄くいいタイミングでメリダさんが現れた…)、少し寝て(そりゃ、色々したので…体力は戻ってない)、時間的には多分15時位にギルマスに会いに来た。
俺が襲われてからまだ数日しか経ってなくて、クリスは躊躇っていたみたいだけど、クリスの傍にいるのが俺の仕事って言ったのはクリス本人だから、一緒に行くって駄々こねた。
だって、来たかったし。
そりゃ、気にしないわけじゃないけど、今日はしっかりと仕事で来てるから、オットーさんもザイルさんも、制服着用で、最初からかなりの警戒モード。
王子が王都に出るってことだから、本当ならもう少し護衛がつくはずなんだけど、これでいいらしい。
二人はむしろ、俺の護衛だって。
クリスは、俺が自分で歩かないことを条件に、俺を連れ出してくれた。なので、部屋からここまで、ずっと片腕抱っこ。これ、横抱きとどっちが恥ずかしいんだろうか。
「……子供」
「ギルマスなんて嫌い」
「いや、だってなぁ。…なぁ?」
ギルマスがくつくつ笑いながら、クリスの後ろにいる護衛コンビに同意を求めたら、苦笑する気配が伝わってきた。
やっぱり二人もそう思ってたんだ!
「クリス、おろして」
「駄目」
即答で断られた。
「むむ…」
眉間にシワを寄せていたら、片腕抱っこからすんなり横抱っこ(お姫様抱っこ)され、額にちゅって音を立ててキスされた。
「クリスっ」
「可愛いな」
そう言って笑うクリスは格好いいよっ。ほんとっ!
「んで?わざわざいちゃつくために来たのか?」
「ああ、すまない。ちょっと面倒なことを依頼に来た」
あえて『面倒』とクリスが言葉にする。確かに面倒事だろうから、間違ってない。
それを隠さないクリスに、ギルマスはニヤリと笑うと、カウンター奥の扉を指さした。
「向こうで話そうぜ。――――オットー、ザイル」
「はい?」
「もう少しで来客があるから。相手しててくれ。お前らと南に行くことになる奴だ」
「わかりました」
あ、専門家の人。
どんな人だろう。
「クリストフ」
ギルマスはクリスを促して店の奥に入っていった。
クリスもギルマスの後について部屋に入る。
そこは更に奥の方に部屋がある少し広めの部屋。よくみたら、キッチンらしきところもある。
「もしかして、この部屋って、ギルマスの住居?」
「そうだ。通いより楽なんだよ」
クリスはソファに座ると、俺を膝の上におろした。隣に座るという選択肢はないらしい。
ギルマスは俺たちのことは気にせず、キッチンの方に向かって行き、手に小ぶりのジョッキのようなものを三つ持って戻ってきた。
「ほら、飲め」
「ありがとうございます」
一口飲んだら、キンキンに冷えた果実水だった。
「うま…っ」
ある程度冷えたものとかは今までも飲んできたけど、ここまでキンキンなのは初めてかもしれない。
「こんなのどうやって…」
「氷魔法の応用だ」
「俺もやりたい」
夏はやっぱり冷たい飲み物だよね!?
って、思ったんだけど。
「「駄目」」
………って、二人から同時に拒否られた。
解せぬ。
今度こっそりやってやる。
「アキ」
「なに?」
「隠れてやってもわかるからな?」
「うぐ」
「もしアキの魔力が減っていたり魔法の痕跡を見つけたら、ベッドから起き上がれなくしてやるからな」
「………………ぁぃ」
クリスが怖い。
口元は笑ってるのに目が笑ってない。これ、ほんとにやるからな、って、顔。
「ごめんなさい……しません……」
「そうしてくれ」
ほんと、クリスは俺の思考を読むのがうまい……。うますぎる……。
ちょっとため息混じりでちびちび果実水を飲んでいたら、ジョッキ?を持ってない左手で、俺の腰をぎゅっと抱き寄せてきた。
俺は横向きに座ったまま、クリスの身体にされるがまま体重を預けた。落ち着く。恥ずかしいけど。
「さてと」
ジョッキ?を置いたギルマスは、テーブルの上に一つの魔導具を置いて起動させる。そうすると、部屋の中はやたら静かになる。例の遮音魔法の魔導具だ。
「で?」
「とりあえず、これを」
クリスは収納魔法付きのウェストポーチから書類一式を取り出すと、ギルマスの前においた。
「レヴィの意見を聞きたい」
ギルマスは黙ってそれを手にして、ものすごい速さで中身を確認していく。速読法みたいなものがあるのだろうか。
「腐ってんな」
読み終えたギルマスの一言目。眉間に深い溝を作りながら。
「駐屯の方には、兄上が直接手を入れる。芋づる式に商人と冒険者宿も粛清対象になるんだが、商人はともかく、冒険者宿には手を出しにくいんだ」
「だろうな」
「なんで?」
国の中の組織なんだから、国のトップが動くなら、従わざるを得ないんじゃないの?
「冒険者宿は、ある意味国とは別の機関になるからだ。組織系統も命令形等も、国に属してはいない。独立した存在なんだ。国が関わるとしたら、宿を出す土地くらいかな」
「へえ……?」
「だから、冒険者は基本、どの国にでも入ることができる。冒険者の身分証みたいなものがあるからな。その身分証には、名前と出身地と、登録した宿の名前が記されているんだ」
クリスとギルマスから、冒険者宿についての説明が重なる。
ギルマスは懐から金属製の薄い板のようなものを出して見せてくれた。
丁度、名刺くらいの大きさかな。
「触ってもいい?」
「もちろん」
恐る恐る手にとって見ると、意外に軽い。
ひんやりした銀色の金属板には、名前とか所属とか、そんなものが書かれていた。
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