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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
53 王都散策 ◆クリストフ
しおりを挟む王都に行く予定は立てたものの、昼過ぎからアキの熱が上がっていて、予定を変更しようと思っていた。
けれど、本人はとても楽しみにしていたし、大人しく寝ていたかいもあって、夜には熱も引いたので、明日の予定はそのままにすることにした。
アキの嬉しそうな顔は、俺も好きだから。
翌日は晴天。
暑くなりすぎないように衣服を調整しつつ、薄い羽織物を例のウエストポーチの中に収納しておく。
「アキ」
支度を終えてから、額に俺の額を重ね合わせる。
「…ん」
「熱、ないよね?」
「大丈夫だな」
「へへ」
楽しそうに笑う顔が可愛らしくて、つい触れるだけの口付けを落としてしまう。
「あまりはしゃぎすぎては駄目ですよ?アキラさん」
「はーい!」
「坊っちゃんが気遣ってくださいね?」
「わかってるよ」
心配顔のメリダ。
昨日アキが熱を出したからだろうけど。
「休憩は挟むし、水分も取らせる。適当にお昼を食べたら帰ってくるから」
「それなら…」
「え。やだ。もっといたい」
メリダが納得しかけていたのに、今度はアキが納得しない。
「…それなら、昼を食べて、アキの体調が問題なければ、もう少し散策しよう。暁亭のある西町はそれなりに広いから、見飽きることはないだろうけど、アキの体調が優先。それはわかるよな?」
「……わかってる」
ほんの少し口元を尖らせる。
この表情は……、理解してても納得してないものだな。
まあ、仕方ない。いざとなれば眠らせてでも連れ帰ればいいだけだし。
「――――じゃあ、そろそろ行こうか」
「うん!」
「坊っちゃん、アキラさん、行ってらっしゃいませ」
「はい!行ってきます!!」
アキを抱き上げ、部屋を出る。
部屋の外では、私服に愛剣を佩帯したオットーとザイルが待っていた。
「おはようございます、オットーさん、ザイルさん。今日はよろしくおねがいします!」
「はい、おはようございます、アキラさん。少し離れてついていきますから、私達のことはあまり気にせず、殿下とお楽しみくださいね」
「何かあれば私達が前に出ますから。何も心配されませんように」
「有難うございます!」
護衛…とは言っても、恐らくなにもないはず。二人にとってもいい息抜きになるだろう。
王都まで馬車を使う手もあったが、目立ちすぎるから嫌だとアキに言われた。
それほどの距離でもないし、歩くことにする。王都が近くなってから、アキを下ろす予定だ。
「…太陽の光が強い気がするけど、滅茶苦茶暑いこともないんだね…。不思議」
「アキのところの夏は暑かった?」
「うん。半袖着てても暑くて、汗ダラダラかいてたよ」
「そんなに暑いのか…」
「うん。…こっちの夏は今が一番暑い?」
「そうだな……。三の月の中頃までが暑いと思う。その後は少しずつ日も短くなるし涼しくなっていくな」
俺の腕の中でアキは頷きながら聞いていた。アキの世界のことと照らし合わせているのだろう。
他愛ない会話を楽しみながら、西町の入口近くまでそのまま移動した。
「歩くか?」
「うん」
正直、歩かせたくはなかった。まだそれほど体力は戻っていないし、立っていられる時間も長くはない。
出来れば俺の腕の中にいてほしい。
でもアキは、自分の足で歩きたいという。
「クリス!」
下ろせば、嬉しそうに俺の左手を握ってきた。指を絡めるように繋ぎ、身体を寄せてくる。
歩く速さは少し落とす。
アキは周囲をキョロキョロ見ながら、楽しそうだ。
「このあたりって、民家?」
「そうだな。この辺はまだ民家が多いが…、ほら、向こうの通りに出れば露店が並んでる。大通りには普通の店舗もある」
「おおお……。異世界!って感じがする……!!」
わくわくしたアキの表情が可愛い。
このまま露店が並ぶ通りにアキを誘導した。最初の目的地は暁亭だ。
露店が並ぶ通りには、やはりそれなりに人出があった。一旦、繋いでいた手をほどき、アキの左肩を抱き込む。アキは右手を俺の腰に回していて、なんだか抱き合うような形になった。
「あ、いい匂い」
アキはそのことを気にしていないのか気づいていないのか、甘い匂いをさせている露店の方を気にしている。
「食べる?」
「いいの?」
「ああ。もちろん」
アキは甘いものを好む。ケーキなんかを食べているときは幸せそうな顔をするくらい。
一口サイズの菓子を袋一つ分買い、アキに渡した。
アキはそれを一粒口に入れると、やっぱり美味しそうな顔をする。
「はい、クリス!あーん!」
……と、俺にも一粒を差し出し、唇につけてきた。
駄目だ。可愛い。
その可愛さに抗えず、口の中に入れる。入れた途端、それはじゅわっと溶けた。甘すぎず、美味い。
「ああ、美味いな」
「だよね!」
嬉しそうにまた一粒口に入れるアキを改めて抱き寄せ、こめかみに口付けた。
そんな寄り道をしながら暁亭についたときには、俺とアキの手の中には、食べ物の袋が山となっていて…、思い切りレヴィに笑われた。
「なんで食べ歩きになってるんだよ…。しかもほとんど菓子って……!!」
「だっていい匂いしてたから……」
笑われて口を尖らせるアキ。可愛い。
アキは手に持っていた荷物をテーブルの上に置くと、宿の中をキョロキョロと見始めた。
「……リアル冒険者ギルド……!!」
そう興奮しながら歩き回り始めたアキを、なんとなく見守る。
「依頼掲示板がある……!!」
頬が少し赤い。目がキラキラしてる。
「薬草採取……、魔物討伐、遺跡探索………!!!」
アキの興奮する元がわからない。定番の依頼内容だろう。
そんな様子を見ていたら、宿の扉が開いた。
「アキラさま!殿下!」
「あ、ラルフィン君」
ラル達だった。
久しぶりの再会でもないのに、二人共嬉しそうに話し始める。
それから、見知った冒険者達が宿に集まり始めた。
俺は少し離れたテーブルに付き、アキの様子を見る。
西の遠征の際に共に戦った冒険者達。彼らはアキが酷い怪我を負ったことを知っている。
だからなのか、怪我の様子を心配する者や、泣き出すような者までいた。
アキも目元に涙をにじませながら、楽しそうに嬉しそうに話をしている。…あんな顔をされたら、妬くに妬けない。
「殿下……アキラさんとられましたね」
オットーの笑い声に、俺も笑ってしまう。
「悪いな。アイツらから散々聞かれてたんだよ。坊主のこと。ほら、オットーとザイルたったか?二人も飲んでけ。果実水だけどな!」
レヴィはグラスを4つテーブルの上に置いた。
アキの分かと思えば、自分も同じテーブルに付き、グラスに口をつける。
オットーとザイルは礼と一緒にグラスを受け取り、俺の近くのテーブルについた。
「……あまり時間はないな」
アキを見たまま、レヴィはぼそりと言葉にする。
……心臓が、嫌な音をたてた。
「レヴィ」
「もってあと三……四ヶ月ってところだ」
「っ」
「俺も急ぐから。お前は……、これ以上あいつに魔法を使わせるな。暴走なんて…以ての外だ」
「……っ、わか、った」
心臓が、痛い。
「クリス!」
嬉しそうに俺のところに駆け寄ってきたアキを両腕で抱きしめ、その唇を塞いでいた。
来年の春の二の月には、アキと婚姻式を挙げるのだと……、何度も自分に言い聞かせながら。
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