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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。

20 やりなおしお茶会②

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「ふぇ!?」
「アキラさん……よかった……!」

 ええええ、これどうしたらいいの。
 だって、お兄さんもいるよ?クリスだって俺のすぐ傍にいるわけで。
 でも、ティーナさんは泣いてるようで。なんか、俺も泣けてきて。
 いいのかな…って思いながら、右手をティーナさんの背中に添えた。

「ティーナさん……怖い思いさせてごめんなさい……、心配かけてごめんなさい……っ」
「アキラさん……私、ずっとずっと、後悔してて、あの時、私がもっと守ってあげてたら、アキラさんはあんなことにならなかったのに…」
「や、俺も、ティーナさんに頼ったままだったし…、俺自身のことなのに、俺一人じゃ何もできなかったから。ティーナさんが沢山言ってくれて嬉しかったから」

 だから、泣かないで。

「ティーナさん、花嫁さんになるんだから、泣いてちゃダメだよ」
「アキラさんも泣いてます」
「えーと、もらい泣きだから!」

 手を離して、二人でくすくす笑う。

「どうしても、もう一度ちゃんとお茶会がしたくて。アキラさんの記憶にも、ちゃんと、楽しいお茶会を残してもらいたくて。なので、私、どうしても」
「うん、ありがとう、ティーナさん」

 俺のこと、すごく考えてくれてたんだ。
 嬉しくてそのままもっと話そう…としたら、身体から力が抜けていく感じがした。

「アキ」

 クリスの腕が俺を抱き上げた。

「限界。話なら座ってできるだろ?そもそもお茶会なんだから」
「う」
「ティーナも、嬉しいのはわかるけど、席につこう?中々お茶を出せなくてみんなそわそわしてるよ」
「すみません…私ったら……」

 俺とティーナさんは、また二人で顔を見合わせて笑った。俺たちを見て、クリスとお兄さんは苦笑い。

 俺はちゃんと、椅子に座らされた。クリスが見て限界だと感じたら、膝の上に移動させるって。
 ティーナさんもしっかり着席したら、お菓子とお茶が運ばれてくる。
 オットーさんは、入口近くに待機。メリダさんは俺のすぐ傍。

 そこからは、すごく楽しい時間だった。
 お兄さんからクリスの小さい頃の話を聞いたり、ティーナさんから兄弟エピソードを聞いたり。
 婚姻式がもうじきあるから、最終確認とかで滅茶苦茶忙しい、とか。ドレスを何度も直される、とか。
 それから、遠征での話も少しした。俺の怪我の具合とか。もちろん、詳細は省いたけど。女性に聞かせる内容じゃないよね?

 時間を忘れるくらい楽しかった。
 メリダさんが取り分けてくれたお菓子を、クリスが食べさせてくれる。たくさんは食べれないけど、どれも美味しかった。

 幸せな時間。
 いつの間にか、俺はクリスの膝上に移動させられてた。僅かに速くなった鼓動を感じていたけど、とにかく楽しくて。
 俺の中から、赤い記憶が薄れていくようだった。
 それと同時に、いつもいつも俺を蝕む赤い口が紡ぐ呪いの言葉の正体もわかった。……と言うか、思い出した。

「兄上、フロレンティーナ嬢、そろそろ」

 クリスの手が頬に当たる。
 …冷たくて、気持ちがいい。

「…ああ、そうだね。アキラも疲れただろう。いいかな、ティーナ?」
「はい!ありがとうございました、アキラさん、クリストフ殿下」
「俺もありがとう。あのティーナさん」
「はい?」
「結婚おめでとうございます…。たくさん、幸せになってくださいね」
「っ!はい……ありがとうございます、アキラさん!!」

 ティーナさん、嬉しそうに笑ってくれた。

「また今度、お茶をしましょう。今度こそ、二人で」
「うん。楽しみ。それじゃ」
「はい。ゆっくり休んでくださいね」

 それが合図のようになって、クリスが俺を抱き上げて立ち上がった。
 軽く会釈をして、そのまま庭園を出る。

「クリス」
「楽しかったか?」
「うん」

 比較的早足で戻っているようだった。
 オットーさんとザイルさんは、特に問題なくついてきてる。それから、メリダさんも。すごい。

「メリダ、タオルと氷水を」
「はい。用意いたします」
「オットー、すまないが、暁亭へ。ラルに登城してほしい旨を伝えてほしい」
「すぐむかいます」
「ザイルはこのまま護衛に」
「はい」

 …何だか慌ただしいんですが。

「クリス?」
「苦しくはないか?」
「………え、と、少し」

 ほんのちょっと、胸が苦しい気がする。

「少し無理をしたな」
「?」

 部屋につくなり、俺はベッドに降ろされた。すぐに服を脱がされて、クリス服ではなくて甚平さんタイプの怪我人服を着せられる。

 ……妙にベッドが冷たく感じた。

「あ……れ?」

 息が苦しくなる。それに、寒い?

「くり……す」
「大丈夫。ラルを呼んだ」

 なんでラルフィン君…って思ってるうちに、キスをされる。いつもの舌を絡ませるやつじゃなくて、すぐに唾液が流し込まれた。
 それを何度かにわけて飲み込むと、全身に感じていた嫌なものが、少し軽くなる。…息も、しやすくなった。

「……おれ…?」
「すまない。もう少し早く切り上げればよかった。お前が楽しそうで、つい油断した」
「えと…?」
「無理しすぎたんだろう。かなりの高熱だ。息苦しさはないか?」
「熱………、うん、息苦しいのは、ちょっと、とれた」

 あー、そっか。
 感じていた鼓動の速さは、体調が悪くなってきてたからか。

「あの、くりす」
「ん?」
「てぃーなさんに、いわないで」

 ……ろれつが回らなくなってきた。

「しんぱい、かけたくない。たのしかった、から」
「……ああ。わかった。伝えないよ。彼女は気づいてないだろう。アキがなんともなさげに振る舞っていたから」
「ほんとう?」
「ああ。だが、兄上には伝えるからな?」
「ん…」

 話してる間に頭がぐらぐらしてきた。
 自分の息が熱いなぁ…って思い始めた頃、色々持ってきたメリダさんが戻ってきた。
 すぐに額に冷たいタオルが置かれる。

「くりす……さむい……」

 体は熱いのに手足が冷たくて寒い。
 ベッドには薄い肌掛けしかなくて、それにくるまっても寒さは変わらない。

「メリダ」
「はい、お持ちします」

 メリダさんが出たあと、クリスはまた俺に口づけて唾液を流し込んだ。それを飲み込むと、寒さはほんの僅かに楽になった。

「…くりす」
「ん?」
「あの……ね、おれ、おもい、だした」
「なに?」
「……おれ、あのひとに、まものに、くわれてしまえばいい、って、いわれた」

 これだけはクリスに伝えなきゃならないと思った。なんでだろう。

「そんなことを…」
「おれのあたまのなかで、ずっと、その、ことば、ばっかり、くりかえされてて……」
「アキ…」

 俺に体重をかけないように、クリスが抱きしめてくれた。

「でもね、なんか、ね。もうだいじょうぶな、きがする」
「……ああ」
「きょうがね、すごく、たのしかったから」
「そうだな。久しぶりに沢山笑ったな」
「へへ…」

 結局熱出しちゃったけど。後悔とかない。

 その後は、メリダさんが持ってきてくれた厚手の毛布にくるまったり、何度もクリスに頭を撫でられたり、大慌てで部屋にラルフィン君が駆け込んできたり…、まあ、ちょっと大変だった。

 でも、お茶会、楽しかったんだよ。本当に。
 五日後は結婚式。
 贈り物、考えなくちゃね。


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