180 / 560
第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
20 やりなおしお茶会②
しおりを挟む「ふぇ!?」
「アキラさん……よかった……!」
ええええ、これどうしたらいいの。
だって、お兄さんもいるよ?クリスだって俺のすぐ傍にいるわけで。
でも、ティーナさんは泣いてるようで。なんか、俺も泣けてきて。
いいのかな…って思いながら、右手をティーナさんの背中に添えた。
「ティーナさん……怖い思いさせてごめんなさい……、心配かけてごめんなさい……っ」
「アキラさん……私、ずっとずっと、後悔してて、あの時、私がもっと守ってあげてたら、アキラさんはあんなことにならなかったのに…」
「や、俺も、ティーナさんに頼ったままだったし…、俺自身のことなのに、俺一人じゃ何もできなかったから。ティーナさんが沢山言ってくれて嬉しかったから」
だから、泣かないで。
「ティーナさん、花嫁さんになるんだから、泣いてちゃダメだよ」
「アキラさんも泣いてます」
「えーと、もらい泣きだから!」
手を離して、二人でくすくす笑う。
「どうしても、もう一度ちゃんとお茶会がしたくて。アキラさんの記憶にも、ちゃんと、楽しいお茶会を残してもらいたくて。なので、私、どうしても」
「うん、ありがとう、ティーナさん」
俺のこと、すごく考えてくれてたんだ。
嬉しくてそのままもっと話そう…としたら、身体から力が抜けていく感じがした。
「アキ」
クリスの腕が俺を抱き上げた。
「限界。話なら座ってできるだろ?そもそもお茶会なんだから」
「う」
「ティーナも、嬉しいのはわかるけど、席につこう?中々お茶を出せなくてみんなそわそわしてるよ」
「すみません…私ったら……」
俺とティーナさんは、また二人で顔を見合わせて笑った。俺たちを見て、クリスとお兄さんは苦笑い。
俺はちゃんと、椅子に座らされた。クリスが見て限界だと感じたら、膝の上に移動させるって。
ティーナさんもしっかり着席したら、お菓子とお茶が運ばれてくる。
オットーさんは、入口近くに待機。メリダさんは俺のすぐ傍。
そこからは、すごく楽しい時間だった。
お兄さんからクリスの小さい頃の話を聞いたり、ティーナさんから兄弟エピソードを聞いたり。
婚姻式がもうじきあるから、最終確認とかで滅茶苦茶忙しい、とか。ドレスを何度も直される、とか。
それから、遠征での話も少しした。俺の怪我の具合とか。もちろん、詳細は省いたけど。女性に聞かせる内容じゃないよね?
時間を忘れるくらい楽しかった。
メリダさんが取り分けてくれたお菓子を、クリスが食べさせてくれる。たくさんは食べれないけど、どれも美味しかった。
幸せな時間。
いつの間にか、俺はクリスの膝上に移動させられてた。僅かに速くなった鼓動を感じていたけど、とにかく楽しくて。
俺の中から、赤い記憶が薄れていくようだった。
それと同時に、いつもいつも俺を蝕む赤い口が紡ぐ呪いの言葉の正体もわかった。……と言うか、思い出した。
「兄上、フロレンティーナ嬢、そろそろ」
クリスの手が頬に当たる。
…冷たくて、気持ちがいい。
「…ああ、そうだね。アキラも疲れただろう。いいかな、ティーナ?」
「はい!ありがとうございました、アキラさん、クリストフ殿下」
「俺もありがとう。あのティーナさん」
「はい?」
「結婚おめでとうございます…。たくさん、幸せになってくださいね」
「っ!はい……ありがとうございます、アキラさん!!」
ティーナさん、嬉しそうに笑ってくれた。
「また今度、お茶をしましょう。今度こそ、二人で」
「うん。楽しみ。それじゃ」
「はい。ゆっくり休んでくださいね」
それが合図のようになって、クリスが俺を抱き上げて立ち上がった。
軽く会釈をして、そのまま庭園を出る。
「クリス」
「楽しかったか?」
「うん」
比較的早足で戻っているようだった。
オットーさんとザイルさんは、特に問題なくついてきてる。それから、メリダさんも。すごい。
「メリダ、タオルと氷水を」
「はい。用意いたします」
「オットー、すまないが、暁亭へ。ラルに登城してほしい旨を伝えてほしい」
「すぐむかいます」
「ザイルはこのまま護衛に」
「はい」
…何だか慌ただしいんですが。
「クリス?」
「苦しくはないか?」
「………え、と、少し」
ほんのちょっと、胸が苦しい気がする。
「少し無理をしたな」
「?」
部屋につくなり、俺はベッドに降ろされた。すぐに服を脱がされて、クリス服ではなくて甚平さんタイプの怪我人服を着せられる。
……妙にベッドが冷たく感じた。
「あ……れ?」
息が苦しくなる。それに、寒い?
「くり……す」
「大丈夫。ラルを呼んだ」
なんでラルフィン君…って思ってるうちに、キスをされる。いつもの舌を絡ませるやつじゃなくて、すぐに唾液が流し込まれた。
それを何度かにわけて飲み込むと、全身に感じていた嫌なものが、少し軽くなる。…息も、しやすくなった。
「……おれ…?」
「すまない。もう少し早く切り上げればよかった。お前が楽しそうで、つい油断した」
「えと…?」
「無理しすぎたんだろう。かなりの高熱だ。息苦しさはないか?」
「熱………、うん、息苦しいのは、ちょっと、とれた」
あー、そっか。
感じていた鼓動の速さは、体調が悪くなってきてたからか。
「あの、くりす」
「ん?」
「てぃーなさんに、いわないで」
……ろれつが回らなくなってきた。
「しんぱい、かけたくない。たのしかった、から」
「……ああ。わかった。伝えないよ。彼女は気づいてないだろう。アキがなんともなさげに振る舞っていたから」
「ほんとう?」
「ああ。だが、兄上には伝えるからな?」
「ん…」
話してる間に頭がぐらぐらしてきた。
自分の息が熱いなぁ…って思い始めた頃、色々持ってきたメリダさんが戻ってきた。
すぐに額に冷たいタオルが置かれる。
「くりす……さむい……」
体は熱いのに手足が冷たくて寒い。
ベッドには薄い肌掛けしかなくて、それにくるまっても寒さは変わらない。
「メリダ」
「はい、お持ちします」
メリダさんが出たあと、クリスはまた俺に口づけて唾液を流し込んだ。それを飲み込むと、寒さはほんの僅かに楽になった。
「…くりす」
「ん?」
「あの……ね、おれ、おもい、だした」
「なに?」
「……おれ、あのひとに、まものに、くわれてしまえばいい、って、いわれた」
これだけはクリスに伝えなきゃならないと思った。なんでだろう。
「そんなことを…」
「おれのあたまのなかで、ずっと、その、ことば、ばっかり、くりかえされてて……」
「アキ…」
俺に体重をかけないように、クリスが抱きしめてくれた。
「でもね、なんか、ね。もうだいじょうぶな、きがする」
「……ああ」
「きょうがね、すごく、たのしかったから」
「そうだな。久しぶりに沢山笑ったな」
「へへ…」
結局熱出しちゃったけど。後悔とかない。
その後は、メリダさんが持ってきてくれた厚手の毛布にくるまったり、何度もクリスに頭を撫でられたり、大慌てで部屋にラルフィン君が駆け込んできたり…、まあ、ちょっと大変だった。
でも、お茶会、楽しかったんだよ。本当に。
五日後は結婚式。
贈り物、考えなくちゃね。
158
お気に入りに追加
5,486
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる