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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
18 嬉しい知らせが来ました。
しおりを挟む一日置きの肩のリハビリに、歩行リハビリが追加になった。
ラルフィン君とギルマスがこない日も、クリスにお願いしてなんとなく立ったり、足を動かしたりしてたおかげか、10日くらい経った頃には部屋の中を歩けるくらいまでに回復した。…もちろん、クリスの手を握ったままだけど。
そして、夏の二の月の頭。
椅子に座ってメリダさんが淹れてくれた紅茶を飲みながら、書類に目を通すクリスを眺めていたとき、部屋にお兄さんがやってきた。
「兄上」
「邪魔するよ。――――アキラ、随分顔色が良くなったね」
「はい。ありがとうございます」
クリスの隣の椅子にお兄さんが座る。
メリダさんはすぐにお兄さんの分の紅茶を淹れた。
それを綺麗な所作で飲み始めるお兄さん。
「直前で申し訳ないけど、やっぱり自分で確認しておきたくて」
なんのことだろう。
はてな…と首を傾げていたら、クリスが珍しく、「しまった」みたいな顔をした。一体なに??
クリスの様子に、お兄さんも呆れたため息をこぼす。
「まさか、忘れてた?」
「……いや、忘れていたわけでは……」
クリスの歯切れが悪い。
「まあ、アキラのことが心配で仕方なかったんだろうけど、だいぶ落ち着いたんだろ?できればちゃんと打ち合わせてもらいたかったなぁ」
「アキが出席できるか微妙なところだったから。…言えば、何が何でも出席すると言うだろうし」
「まったく……」
兄弟はお互いに呆れながらため息を付いて、紅茶を飲んでる。
そんなクリスを見て、メリダさんは「やれやれ…」って感じで肩をすくめて首を横に振っていた。
「えと……なに??クリス…」
なんか、俺だけが置いてけぼり。
いい加減教えてほしくてクリスの膝に手を載せて、じ…っと見上げた。
そしたら、クリスは俺の顔を見て、困ったような微妙な表情を浮かべる。
「……兄上の婚姻式があるんだ」
「へ?」
「…………10日後に」
「へ!?」
それって、かなり大事なことなんじゃないかなぁ!?
「忘れていたわけじゃないんだが…、アキの体調のこともあったし、話してから出席できないとなると、がっかりさせてしまうし…」
「素直に忘れてたって言おうか…クリストフ」
「ぐ……っ」
そうだね…。言い訳にしか聞こえない。
そういえば、タリカで初めて会ったとき、三ヶ月後に婚姻を控えてるとかなんとか聞いた覚えがあるような…。
そっか。俺がこっちに来て、もう三ヶ月経つんだ。
お兄さん、結婚するんだ。全然実感わかないけど、相手は当然ティーナさんなわけで………。
「プレゼント!!」
「アキラ?」
「結婚お祝いのプレゼント、用意しないと……!!」
ティーナさんに、何か贈りたい。おめでとう、って言いたい。幸せに、って言いたい。
何を贈ったら喜んでもらえるだろう。俺の気持ち、伝わるだろう。
「えっと、お兄さん、おめでとうございます」
ぺこりと頭を下げたら、お兄さんは嬉しそうに目を細めた。
「ありがとう、アキラ」
ティーナさん…、今忙しいんだろうな。花嫁さんって、色々準備が多いって聞くし、嫁ぎ先は王族で王太子…。普通の結婚式よりも、色々やること多そうだし…。
結局、最後に会ったのはあのお茶会。
手紙は、一度だけ。お兄さんに託した。返事はもらってない。
……もしかしたら、もう俺には会いたくないのかもしれない。
でも、お祝いはしたい。なにか、ないかな。ティーナさんが、嬉しく思ってくれるような。俺からの贈り物だってわからないようなものなら、受け取ってもらえるのかな。
「アキ?」
ちょっと胸が痛くて俯いていたら、クリスの心配そうな声が聞こえた。
「なんでもないよ」
むりやり、笑顔を作ってみる。
そしたら、クリスは少し困ったような顔をした。
「また何か考えすぎてるだろ」
「別に……。ただ、ちゃんとお祝いしたいな、って」
ちゃんと笑顔を作れているはずの俺を見て、クリスはため息をついて手を伸ばしてきた。
「クリス?」
その手は簡単に俺を抱き上げてきて、クリスの膝の上に座らされた。
「ええっと」
「アキは色々考えすぎなんだ」
「もしかして、アキラは、ティーナが君に会いたくないって思ってるかもとか、考えてる?」
ずばりなことをお兄さんに指摘されて、どうにも答えようがなかった。
だって、仕方ない。嫌な思いをさせたんだから。花嫁さんになるんだから、憂いも何もなく、その日を迎えてほしい。
……じわっと目元に涙が滲んだ。
この世界で、多分初めての「友達」って思えた人。
「……怪我をしてなんか弱気になった?ティーナは、そんなこと思ってないよ」
「でも」
顔を上げたら、目の前に封筒を差し出された。
「受け取ってくれるかな」
「え?」
それは俺宛のもの。差出人は………ティーナさん。
どきどきしながら封筒を開けた。
そこには、『招待状』って書かれてた。一瞬、結婚式の招待状かと思ったんだけど。そこには、『お茶会』って書かれてた。
「………え?」
「やりなおしお茶会への招待状。色々忙しい時期なんだけどね、アキラが少し元気になってきたって言ったら、どうしても婚姻式の前に会いたい、って。…ああ、遠征で怪我をしたことは話してあるんだ」
「っ」
「今回は私とクリスも招待されてるから、四人で、ってことになるけど。……どうかな?ティーナから、アキラの返事を聞いてこいって言われてるんだ」
「お茶会………いいの……?」
滲んでただけだった涙が、ぼろぼろ落ち始めた。……やっぱりまだ情緒不安定なままなんだと思う。
「楽しいお茶会にしよう?」
「アキが出たいなら反対はしない。……熱がなければ、だけどな」
お兄さんの手が、俺の頭を撫でた。クリスは、流れ落ちる涙を拭ってくれる。
「お茶会……したい。ティーナさんと、話、したいです」
「うん。そうティーナに伝えるから。五日後楽しみにしてて」
「はい」
「じゃあ、私はそろそろ戻るからね。アキラ、あまり無理しないように。私もティーナも、君が婚姻式に出てくれることを望んでいるから。体調だけは気をつけてほしい」
「はい。気をつけます」
「うん。クリストフ、お前は後でメリダにでも怒られなさい」
「……………それは」
「じゃあね」
お兄さんはもう一度俺の頭をなでて、部屋を出ていった。
クリスは盛大なため息をついていたけど、俺は手の中の招待状を、握りしめて何度も文字を目で追った。
やりなおしお茶会。
……嬉しい。
きっと、きっと、いい思い出になる。つらい記憶が楽しい記憶で書き換えられる。
頑張ろう。
お茶会と婚姻式に向けて、俺ができることをやろう。まずは、体調だよね。無理せず、休むときは休んで、あまり、後ろ向きなことは考えない。前を向いて頑張ろう!
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