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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
12 弱さ ◆クリストフ
しおりを挟むアキが眠っているときは、無理に起こさない。自然と目覚めるのをただひたすら待つ。時々果実水を飲ませながら。
ラルに指摘されたとおり、あまり体調が良くないのだろう。朝に少し目を覚ましたあとは、昏々と眠り続けている。
熱もない。呼吸も正常。……発作は、起きていない。
寝顔を見ながら、ついため息が出てしまう。あの触れ合いだけでこれほどの負担になってしまうなら、抱けるのはいつのことになるだろう。
「……少しでも元気な姿を見ると欲が出るな……」
生きてさえいてくれれば。
そう、思っていたのに。
「アキも抱いてほしいと思ってるんだから…いいよな?」
何度か頬を撫でる。
――――身体の関係だけが全てではない。
そんな綺麗事、言うつもりはさらさらない。愛しいから、心も身体もすべてが欲しくなる。当たり前の事だ。
前髪をかきあげ、あらわになった額に口付ける。少しずつ唇を移動させ、触れるだけの口づけを繰り返した。
首筋に唇を落とせば、はっきりとした拍動を感じる。
――――何度も止まった鼓動。
――――俺を映さない瞳。
――――青くなっていく唇。
……ああ。
「アキ……アキ……」
自分で思っているよりも疲弊しているようだった。目を閉じれば瞼の裏には鮮血の光景が広がる。
何度も逝こうとするアキを引き止めた。
何度も命を吹き込んだ。
引き止めて引き止めて、繋ぎ止めた。
「俺は弱いな…」
支えられないと立ってもいられない。
叩かれなければ動くことすらできない。
……本当に、俺はなんて弱いんだろう。
「アキ……」
頬に触れる。
触れていないと心配でならない。
何度も触れて生きていることを実感する。
目を覚まさないだろうか。綺麗な黒い瞳を見たい。
ふっくらした唇に指を這わせ、また、口付ける。
軽く、啄むように何度も。
その間にアキの瞼がピクリと動いた。
ごく近くで、ゆっくりと瞼が持ち上がる。
唇を離したら、目の前でふにゃっとした笑いを浮かべる。可愛い。
「くりす」
「ん…。アキ、おはよう?」
「おは……よ?」
ぼぅっとした顔は、どうしようもないほど可愛い。
「夕飯はどうする?食べるか?」
頬をなでながら問えば、アキは気持ちよさそうに目を閉じて首を横に振った。
「今日はいい……。もう夜なんだ」
「ああ。まあ…夜中に近いかもな」
「なのにおはようって言ったんだ?」
「目が覚めたら『おはよう』だろ?」
俺の手にアキの右手が重なった。
くすくす笑うアキは元気そうに見える。
「クリス……キス」
右手が俺の頬に伸びてくる。
望まれるままに覆いかぶさり、唇を重ねた。
何度か啄めば、誘うようにアキの唇が開いていく。その誘いに素直に応じる。舌を差し込むと、アキの熱い舌に迎えられた。
「は…ぅん」
気持ちよさそうに抜けていく吐息。
アキの舌に絡め取られる。
右手は俺にしがみついてくる。
「んん、んんぅ」
そっと、右手でアキの左胸に触れた。掌の下で、少し速い鼓動を感じる。
「んぅぅ、くり、す」
アキが唇を離した。鼓動のように少し速い吐息が溢れていく。
「どうした?」
「……もっと触って」
赤くなって唇を震わせて、そんなことを望んでくる。本当に、可愛い。腰にズクリと熱が溜まってしまう。
「少しな?」
「ん……」
左胸に触れていた手で、そのまま尖りをそっと押しつぶす。寝間着の下で尖りは硬くなり、刺激が強くならないように気にしながらそれを指先で摘んだ。
「んぁ……っ」
「気持ちいい?」
「ん……んぅ、きもち、いい」
アキの目元に涙が滲んできた。
それを唇で拭い、アキの右隣に横になり、自分の胸の中にアキを抱き込んだ。
「……くりす?」
「今日は終わり」
「……足りない」
ほんの少し、唇が尖る。終わらせたことにかなり不満があるようだ。
「もう駄目」
「なんで」
「明日、また寝込むぞ?…昨日のあれだけで、今日はほとんど一日中寝てただろ?」
「それは………そうだけど………」
「それにな、明日は左肩を動かし始めるから、無理はさせるなとラルに怒られた」
「………そう、なの?」
「ああ。だから、今日はもう寝よう。……眠くないか?」
アキはため息をついて首を横に振った。
「多分寝れる…」
「うん。それならもう寝よう」
「……クリスも?」
「ああ。俺も寝るよ」
「……抱きしめててくれる?」
「もちろん」
「ん……なら、寝る」
アキの口元にようやく笑みが浮かぶ。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
アキの背中をゆっくりと擦る。小さな子供にするように、軽くぽんぽんと叩く。
そうしている間に、アキの瞼が落ちていく。
おやすみ、アキ。
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