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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。
16 最愛は腕の中に ◆クリストフ
しおりを挟む「アキラを遠征につれていくって…本気なの?」
「いくら彼が魔法を使えるからと言って、経験の浅い少年を討伐などに連れ出すことはあまり褒められたことではないだろう」
アキを今回の遠征に連れて行くと父上と兄上に報告した際、二人からそんな苦言を聞かされた。
「ティーナとの茶会だって控えているんだよ?出発はその翌日……、ティーナとの茶会は延期するのかい?」
「いや。それはアキも楽しみにしてるから」
「長期間にわたるものではないだろう?彼は城にいたほうが安全ではないか?お前がいない間、なにもないように護衛は十分につける。私もたまには将来の義理の息子と語り合いたいのだが」
「アキは俺のそばにいたほうがより安全ですよ、父上」
話がしたい、そっちが本音なのだろう。
「アキが傍にいないと俺のやる気が出ません」
「でも……、騎士でもない婚約者を同行させるというのは、士気にも影響するんじゃないかな」
「ああ、そうだな。お前の溺愛ぶりは城の中じゃ皆が知っていることだが、冒険者たちにとっては違うだろうし、大体、お前の兵団の者たちだとて、良い顔はしないだろう」
「俺のところは問題ないですよ。冒険者たちはレヴィが選んだ者たちですから。そちらも問題ないかと」
けれど、二人は頷かない。
「――――万が一、アキが魔力暴走を起こしたら、俺の他に誰が止められると言うんですか」
「「ぐ……」」
「止められないでしょう?……俺は、自分が傍にいない間にアキを失うようなことにはなりたくない。最も、目の前で失うことにも耐えられませんけど。守るためには常に傍にいないと駄目なんです」
魔力暴走を引き合いに出せば、二人が頷くことはわかっていた。
……最終手段ではあったのだが。
「わかった。彼を同行させることを認めよう」
「無理はさせちゃ駄目だよ。鍛えてるわけじゃないんだから。それに、魔物のことだってそれほど知らないのに」
「ああ、それなら、問題無い」
二人が不思議そうな顔をした。
「乗馬の練習はしているし、何より、この城の誰よりも、アキは魔物について詳しい」
「「!?」」
「実戦経験はありませんけどね。…兄上、タリカでのスライム討伐の際、魔法でスライムを倒したと報告したが」
「あ、ああ」
「あの時も、『スライム』と理解した上で、『剣での攻撃は決定打にかける』『魔法が有効』であると特性までを理解し、更に、『緑』から『火属性』が弱点になることを瞬時に判断し、無意識に魔法を発動してる」
兄上だけでなく、父上までも言葉を失っていた。
「大体、絵を見ただけで、名前と種別を言い当てる17歳など聞いたことがない」
二人とも、もう言葉はない様子だった。
「まあ、そういうわけなので、父上、兄上。アキは連れていきます」
「仕方あるまい…」
「しょうがないね。でも、絶対無理させちゃだめだよ?」
「わかっている」
これで話は終わりだ。
早くアキの元に戻ろうと踵を返したとき、「クリストフ」と、父上に声をかけられた。
「まだ何か?」
「彼を手放すな」
父上の表情は国王陛下のそれになっていた。
「――――私が、彼を手放すなど有り得ません。ですが、陛下。彼をこの国の道具として扱う気も私にはありません。彼は私の最愛です。この国の礎になるために存在しているわけでも、連れてきたわけでもありません。それをご理解いただきたい」
「もちろんだ。だが、彼がそれを良しとしたとき、その知恵を借りることになるかもしれん」
「アキの不利益にならないのであれば。アキが、この国を自分の国だと思い、自分から力を貸したいと願うなら、私は何も否定はしません」
はっきりと伝えても、『国王陛下』は不快な表情は見せなかった。
そうして、相好を崩し、『父親』の顔に戻る。
俺の肩からも力が抜ける。黙ったまま見守っていた兄上からも、息をつく音が漏れていた。
「すみません、父上。俺から一つ願いが」
「珍しいな?なんだ」
「……デリウス公爵家のヘルミーネ嬢についてですが」
俺がその名前を出すと、兄上の表情が消えた。
「彼女がどうした」
「ここ最近毎日のように俺のところに来るので、正直迷惑です。宰相に先程書状を回しました」
「そうか…」
「この件でもしかしたら、父上のご協力を仰ぐかもしれません」
「――――わかった」
これで、父の助力も得られる。娘を兎に角俺に嫁がせようとしているあの宰相も、少しは大人しくなるはずだ。
――――そんな自分の考えが甘かったことを、この翌日に理解した。
その結果、アキは魔力暴走を起こした。
俺の見通しの甘さがこの結果を引き起こした。
「……アキ」
馬上でもたれ掛かってくるアキの重みが愛おしい。
アキは俺を責めない。むしろ、俺に怪我をさせた自分を責めた。
「昨日のアキは可愛かったよ」
昨日はほぼ一日中、ベッドの上で過ごした。
舌を絡め、アキの体内で果てるたびに、魔力が流れ出ていく感覚があった。魔力が不足していたアキの顔色は徐々によくなり、注いだ俺の魔力はしっかりとアキの魔力として変換されていったようだった。
本来であれば、できないことだ。
アキの中で俺の魔力を作用させることはできる。『コトノハ』はある種の付与魔法だから。けれど、他者の魔力を己の魔力に変換させるなどということが、仮に誰にでもできることであったら、この世界は犯罪で溢れていたかもしれない。
「奇跡なんだよ…アキ」
穏やかな寝息を立て、俺の腕の中で眠るアキ。
頭に何度も口付けを落とした。
そうして一日目の野営地を決めた頃、アキが目を覚ました。
その後も、アキを腕の中に閉じ込める。どんなに恥ずかしがっても、逃しはしない。
「アキ…愛してるよ」
アキにだけ聞こえるように、小さく、そっと。
すぐ頬を赤らめるアキも、「俺も」と、小さく返してくれる。
それを聞いてしまえば、増々アキを離せない。
可愛い可愛い、俺のアキ。俺の最愛。
愛してるよ、アキ――――。
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