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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。

54 西町食べ歩き

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 王都に初めて出向いた。
 いつも通り過ぎるだけで、満足に景色も見てなかった。
 資料とかで見た中世ヨーロッパとの町並みとも違う、異世界の町並み。石造りの家が殆どで、全体的に白っぽい色をしていた。
 大きな通りでは馬車が行き交う。
 お店らしき建物の前では、馬車が停車していた。貴族とか、商人の人なのかな。

 そんな町並みを、自分の足で歩いて楽しめることに、普段なら絶対に感じない達成感や、逆に焦燥感みたいなものを感じた。
 およそ2ヶ月が経っているのに、俺の体は俺の言うことを聞いてくれない。あの結婚式の間だけだって立っていられない。王都を歩いてる今だって、ゆっくりしか進めない上に、クリスに掴まっていないと、足元から崩れそうになってる。
 クリスはきっと、そんな俺に気づいてると思う。けど、いつもみたいに抱き上げたり、「これ以上は駄目」って言わない。
 ……ありがとう、クリス。





 いい匂いにつられて、あっちで買い、こっちで買い……ってしてたら、俺とクリスの手の中には、結構な食べ物の袋が溜まってた。後ろについてくれてるオットーさんたちにも笑われてしまった。
 クリスは笑ってくれる。俺がたくさん食べれるわけじゃないから、中々減らないんだよね。ごめんね。王子サマに荷物持ちさせちゃったよ…。
 一度行きたかった冒険者ギルドについたらついたで、今度はギルマスに爆笑された…。ううう。いいじゃん!!楽しかったんだから!!

 ギルドの中で依頼掲示板とか見て感動してたら、ラルフィン君と幼馴染さんたちが来た。それから、西で一緒にいた冒険者さんたちが、次々に。
 頭を撫でられた。
 褒められた。
 それに、「元気になってよかった」って、泣かれた。
 俺も嬉しくて、涙が出ちゃったよ。
 ちょっと離れたテーブルで待っててくれたクリスに駆け寄った。うん、少しね、駆け寄ることができた。
 そしたら、何故かクリスの表情が堅くて、どうしたの…って声をかける隙もなくキスされた。

「クリス?」
「………アキを取られた」
「んー!?」

 なんだかぎゅーって抱きしめられた。
 お腹のあたりにクリスが頭をグリグリつけてくる。

「え、なに、どうしたの」
「お前さんが他の冒険者の奴らと話して、なかなか戻ってこないから拗ねたんだよ」
「……いらないことを言うな、レヴィ」

 皆が笑い始める。
 …でも、なんだろう。
 何かを誤魔化されたような気がする。

「クリス」

 はっきりと、「これ」って言う確信が持てるわけじゃないんだけど。

「大丈夫だよ。俺、どこにも行かないから」
「っ」

 俺のこと抱きしめて、顔を見せないまま、クリスの体が一瞬震えた。
 …やっぱり、なんかおかしい。

「俺の居場所、クリスの傍だけだよ」
「アキ」

 顔を上げたクリスの頬に両手を添えて、少し身体を屈めて目元にキスを落とす。
 冒険者宿の中で、皆に見られてたけどね…。今更すぎてね…。

 冒険者の人たちからは温かい笑い声が漏れる。相変わらず、とか、愛されてるなぁ、とか。そんな、声も。
 みんな嫌な顔しないし。からかわないし!

 クリスの頭を撫でる。いつもと逆。
 何を思ってるんだろう。
 何を考えているんだろう。
 何を悩んでいるんだろう。
 何を耐えているんだろう。
 クリス、俺はそれを聞いてもいいのかな?俺には教えてくれるのかな?

 何度か頭をなでてたら、クリスが俺を抱き上げて、足の上に座らせた。……定位置だね。

「クリス?」
「話はもういい?」
「うん」

 冒険者の人たちとはたくさん話したし。

「じゃあ、また散策に戻ろうか?」
「うん!」

 冒険者の方々は、俺達の話を聞いて、またそれぞれの仕事に戻っていった。「またな」って声をかけてくれながら。
 ラルフィン君も、今日は幼馴染さんズと、簡単な依頼をこなしてくるんだって。

「アキラさまのところには、明日伺いますね。いいですよね?店主さん」
「ああ。どうせ今日は疲れて爆睡するだろうし、明日のほうがいいだろう」
「じゃあ、頼むよ、二人共。明日は多分部屋にいるだろうから」

 それは、つまり、明日、ほぼほぼ、俺は寝込む系と言うわけですね…。まあ……、ちょっと、そんな気はしてるけど。

 クリスは俺の額に額をくっつけてきて…、うん、って頷いた。

「熱は出てないな」
「じゃあ、もうちょっと王都にいてもいい?」
「ああ。この後はどうする?あまり腹は空いてないだろ?」
「これだけ菓子ばかり食べてればなぁ…。腹は減らないよなぁ」
「……そんなたくさんは食べてないし」

 …って、むすっとしながら言ったら、ギルマスだけじゃなくて、オットーさんやザイルさんにも笑われた。

 でも、そうだなぁ。このお菓子の袋どうしよう。クリスのウェストポーチに入れちゃえばいいんだけど、みんなの目があるし。
 うーんって思ってたら、クリスが俺を椅子の上に座らせた。

「クリス?」
「預かってもらおう」

 そう言って、袋を全部持って立ち上がった。

「なら、こっちだ」

 って、ギルマスも立ち上がって、奥の方に向かう。
 あー、なるほど。
 カウンターの向こうに二人が入っていった。
 こっそり隠れて収納しちゃうのね。すごく自然だね、二人共。

「アキ、お昼はどんなものが食べたい?」
「……そう言われても、よくわかんないから、クリスのおすすめでいいよ?」

 カウンターから出てきて俺をまた足の上に座らせたクリスが、俺の髪をいじりながら聞いてくる。
 ここが日本なら、ラーメン食べたいとか、ハンバーガーがいいとか言うんだけど。正直、城のご飯か、野営でのご飯しか食べたことのない俺にとっては、どんなものがあるのか見当つかないんだよなぁ。
 どうせそんなに食べれないし。

「おすすめか…」
「振る舞ってやろうか?」

 って、ギルマスが。
 あ、そっか。ここ、食堂にもなってるんだ。おお……。さすが、冒険者ギルド…!

「ここで食べたら今日の散策はこれで終わりになるだろ」

 って笑うクリス。
 あー、それは、つまり、ご飯食べたら帰る的なやつですね。

「…まだ帰りたくない」
「我儘は駄目」
「むぅ」
「ま、それなら、もう少し歩いて腹空かせればいいさ。どっちにしろ、まだ昼には早いしな。いい運動になるだろ」
「なるほど。ギルマスの案採用で…!!」
「もう少し散策するって、さっき言ったばかりだと思うが…、まあいいか」

 クリスは楽しそうに笑って、俺を片手で抱き上げて立ち上がった。
 オットーさんとザイルさんも立ち上がる。

「行こうか」
「うん!」
「無理すんなよ、アキラ」
「もちろん!行ってきます!」
「おう」

 ギルマスに手を振ったら、手をあげてくれた。


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