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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。
40 聞きたくない、でも、聞かなきゃならない
しおりを挟む夜も更けた頃、宣言通りギルマスが俺たちのところに来た。
天幕に入って早々に、遮音の魔導具を発動させる。
それから俺を見て、ため息をつくギルマス。
「………アキラ、毛布巻いとけ。昨日のより裾短いから」
「うぁっ」
って、ベッドに座ってる俺を見て開口一番だよ。やばいよ。ごめんなさい。顔熱い……。大急ぎで毛布にくるまりました。はい。
「見ていたかったのに…」
「お前も大概にしろ」
呆れた口調でそうクリスに言い放ったギルマスは、俺の頭を何度もなでた。
「?」
「身体はどこもおかしいところないか?」
……ああ。ギルマス、めちゃくちゃ心配してくれてたんだ。目元が娘を心配するお父さんみたい。俺、女の子じゃないけどね?
「クリスに沢山魔力もらったし…、ずっとくっついてたから、もう大丈夫です」
「そうか。よかったな」
魔力も、精神的にも。
心を落ち着けるためにはクリスにくっついてるのが一番いい。
「クリストフ、お前はもうちょっと早く行動しろ。あんな挑発に簡単に乗るな。アキラを貶められて怒る気持ちはわかるが」
「……わかって、いる」
クリスの表情がこわばった。
少し唇を噛んでて、後悔したような、悔しそうな表情。
それから、ぎゅって抱きしめられた。なんか、俺よりクリスの方が弱ってそう。包まってた毛布が落ちちゃって、裾がまた心許なくなってるけど、仕方ない。
何度かクリスの背中を撫でる。
大丈夫だよ。俺は無事だし。大丈夫、大丈夫。
「あと……、アキラが話してた『勝手に入り込んできた何か』ってのは、なんだ?」
「えと……、俺にもはっきりわからなくて。なんか、あの人と目があった瞬間、ざわざわーって、身体の中気持ち悪くなって」
「それで旦那にキスをせがんでたのか」
「ううう…。はい…。クリスの魔力もらったら落ち着くかな…って」
「そんなのいくらでもやるが…、気になるな。魔力でも流されたか?」
「触れてないし…、多分違うと思うんだけど…」
正直なとこ、はっきりとわからないから、説明の仕様もなくて困る。
「それにしてもあれだな。お前らのキスを見て、魔法師の奴ら勃ってたな」
「うぇ」
「魔法師長なんざ、蕩けきったアキラの顔を穴が空くほど見てやがった」
なにそれ、気持ち悪いんですけどっ。
「アキラも面倒なやつに目をつけられたな」
「魔法師長は確かに面倒だが…。どういうことだ、レヴィ」
ギルマスの顔から、笑いが消えた。
俺とクリスを見て眉間にシワを寄せる。
「ありゃ、アキラを殺したい目じゃねーよ。アキラのことを犯してやりたい、っていう目だ」
「え」
「あいつん中はアキラを犯すことで一杯になってやがる。気分が悪い。森の中でもそのことばかり言ってやがった。ついてきたあの三人も、何をどう言われてるのか、ニタニタ笑ってたな。それを俺に自慢気に話す時点で、色々終わってるんだってことにも気づいていない小者だがな」
あの視線はそういうことだったのか…って思ったら、悪寒に身体が震えた。思わず自分の身体を抱きしめたら、俺を抱きしめてたクリスの腕に力が入る。
「……アキ、大丈夫。そんなことには、絶対にさせない」
「ん……うん……」
他人からそういう目で見られる…って、すごく、気持ち悪い。
「なぁ、クリストフ、知っているか?」
「何を」
「レイランド魔法師長の噂だよ」
「自分より有能な者たちを不慮の事故に見せかけて殺しているというやつか」
なにそれ。
「それもあるがなぁ。魔法師として認められた者の中で、有能で見目のいいやつは、レイランドに散々犯され、体を開くだけの愛玩動物にされる、って話だ。…精神が崩壊しても生きてたやつは、性奴隷として貴族に引き渡されてる。中には自害する者もいるそうだ」
「……似たような話は兄上から聞いていた。だからアキを軍属にしないように手を回したが…事実なのか」
「俺が調べた範囲じゃ、事実だな。……あー、アキラには聞かせないほうが良かったか」
できれば聞きたくなかった。
でも、きっと、俺も知っておかなきゃならないことで。
嫌だよ。とても。だけど、聞かなきゃ…。
「…大、丈夫」
目をそらさないように。
俺自身の決断のためにも。
指先はなんだか冷たい。
「アキ」
クリスが触れるだけのキスをしてくれた。
ほっとする。
「その辺りの粛清はお前と王太子の仕事だな。期待してるぜ。……『息子を探してほしい』って依頼を受けて、見つけ出したときには廃人…なんて、もう真っ平御免だ」
ギルマスは苦々しい表情で呟いた。
……それじゃ、増々軍属魔法師に対する不信感は強くなるわけだ……。
やだな…。
「魔法師団の手入れについては兄上と話を進めている。昨日も話したとおりだ。――――それで、レヴィ、森で何があった」
「本題、だな」
ギルマスが面白そうに話し始めた。
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