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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。

31 幻惑魔法

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 報告連絡相談のための本部待機。戦闘面の火力だけで言うなら、多分、クリスとオットーさんとギルマスの三人で、かなりのものになると思う。しかも、範囲回復のできる神官のラルフィン君がいる。多少魔物が襲撃してきても、全く揺るがない本部野営地の布陣。ラルフィン君の幼馴染ズも、多分、それなりの使い手なんだと思う。多分ね。

 今回の遠征は期限が未定。俺達城組は、長期化する場合、王都から補給物資などが届くみたい。そのあたりは、お兄さんと打ち合わせ済みだって。
 冒険者さんの方々は、それはできないから、精々が一週間。それ以上にかかる場合は、一度戻り、食料や装備を改めてからまた参戦するとのこと。

 ちなみに、魔物から取れる魔物素材については、ギルマスが収納魔法のかけられた小さな木箱を持っているので、そこに保管されているらしい。あ、進化系クリーパーは残骸しか残ってなかったと思ったんだけど、魔力が結晶化した『魔晶核ましょうかく』ってのが取れたらしい。使用用途はわからない。ただ、冒険者さんたちが喜んでいた。補足だけど。高く売れるのかな?





 鳥の鳴き声も、動物の気配もない薄暗い森を、少し離れたところから眺める。

 隊員さん9人と、冒険者さんたち16人が入った割には、静か。…魔物と遭遇しなければ、早々音なんてないか。

 ちらりと空を見上げる。二つの太陽が中天にかかる頃――――昼頃に、一度、報告のために戻ることになっている。太陽の位置から考えれば、10時頃って感じかな。
 時計欲しい。切に。

 調査の進行具合とかによるだろうけど、本部を移すことも考えなきゃ駄目じゃないだろうか。
 クリスから聞いた分には、この街道をまっすぐ突っ切ったとしても馬車で半日。街道を、だ。てことは、徒歩で森を抜けようとするなら、一日ほどはかかる計算になる。
 だとしたら、やっぱり、昼頃まで――――と言っても精々4時間、徒歩圏内でできる調査には限界がある。
 ある程度手前側の調査が終わったら、森の反対側に本部を設置して、今度は向こう側からの調査をしないと。

 今回は街道を進んてるわけじゃない。3~5人で編成された班が、各個で森の中にいる。クリスの隊員さんたちは皆強いし、鍛えてることを知ってる。冒険者さんたちも、多分、鍛えてるし、こういう森の中の行動は熟知してるはず。
 魔物の痕跡を見逃さないように、魔物と下手な遭遇をしないように、怪我をしないように。そういうのは、とても精神を疲労させるはず。
 だから、どうしたって調査範囲は狭くなっちゃうよなぁ。

 森の左右に視線を流す。どこまでも森が続いているように見える。…街道沿いばかりを気にしてても駄目だろうし。まあ、街道沿いの森の中に、巣とかなければ少しは安全…かもしれないけど……。
 できれば、森の端から端までを、一列になって歩く方がまだ効率がいいのかもしれない。
 こうやって考えると、多いと思っていた19人の冒険者さんはそんなに多くなかったし、クリスの部隊だけじゃなくて、もっと兵士さんを入れたほうが良かったのかもしれない。

 んー……と考えながら伸びをした。……その瞬間、視界の端っこで、森が動いた気がした。

「ん?」

 すぐに視線を戻してみたけど、そこには変わらない薄暗い不気味な森がひろがるだけ。
 見間違えか。色々考えすぎて疲れたのかも。だってね。ゲームは好きだけど、俺は戦略的なところはあまり得意じゃないから。一般的なセオリーくらいしか知らない。
 冒険者の心得はわかるけど、戦闘の心得なんてしらないよ、そんな感じか。
 なのにあれこれ考えすぎて疲れたんだ。きっと。

 考え事に耽っていたら、金属がぶつかる音が聞こえた。まさか魔物が、って思って音の方を見ると、ギルマスと幼馴染ズがやりあってた。あれ?なんで!?

「え、喧嘩?」

 ぼそっと出た声に、俺の椅子になってたクリスが、笑い出した。

「喧嘩はないな。暇だったんだろ。稽古中だ」
「稽古……って、でも、あの剣本物じゃないの?」
「ラルもいるし、問題ないんだろ。…それにしても、あの二人、太刀筋がいいな…」

 あ。クリスの目が光った。
 そういえば、クリスって、自分で実力を認めた人を隊員にしてるんだっけ。じゃあ、あの二人は合格ってことかな。大剣使いと双剣使い。うお。双剣とか格好いい!!かたや筋力全振り、かたや敏捷と器用さ上げ、みたいな!?

 って、間近の真剣を使った模擬戦を見て浮かれていたら、いきなり背筋に悪寒が走った。

「!?」

 すごい鳥肌。

「アキ?」

 なんか身体がガタガタ震えだしてとまらない。なんだこれ。
 聞こえてくるはずの剣戟が聞こえなくなる。俺の肩を掴んで心配そうな顔でクリスが何かを言っているのに聞こえない。
 タラリ、と、こめかみを汗が流れる。
 ゆっくり、ゆっくり、視線を森に向ける。
 その、瞬間、森が動いた。
 ぞぞぞ……って地面を這うように、形がブレるように。

「っ」

 でも、それは、本当に一瞬。

「アキ!!」

 強く肩を掴まれて、名前を呼ばれて、ようやく我に返った。
 森は、昨日と変わらない。今朝とも変わらない。不気味な姿のまま。
 クリスに力いっぱい抱きしめられて、クリスの匂いとか、体温とか、鼓動とか、感じることができて、ようやく震えが止まった。
 気がついたら、俺とクリスの周りにみんな集まっていて、心配してくれてる。

「……クリス、幻惑とか、えーと、幻系の魔法ってある?」
「アキ?」
「ある。まんまだ。幻惑魔法」

 答えてくれたのはギルマスだった。

「だったら、今すぐみんな呼び戻して。あの森、森じゃない。あ、いや、森だけど、森じゃない。えーと」
「幻惑魔法がかけられてる可能性があるってことだな」

 俺の言いたいこと、ギルマスがまとめてくれたよ。流石です。


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