【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。

26 『異世界人』 ◆クリストフ

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 レヴィは口元に笑みを浮かべた。

「妥当だろうな」
「それから、この国の魔法師に対する待遇も改善する」
「気の長い話だなぁ」

 口元に笑み。

「ほらよ」

 手にしたままだったウェストポーチを、俺に向かってレヴィが放り投げてきた。

「これのことを知っているのは?」
「俺とアキと、お前だけだよ。レヴィ」
「いい判断だ。お前んとこの奴らにも絶対に漏らすなよ」

 その言葉にはこめかみがピキリと動いた。俺が自分で集めた彼奴等の中に、レヴィの警戒網に引っかかった奴がいるということか。
 睨みつけても、レヴィはそれ以上何も言わなかった。ここまで、という、明らかな線引だ。

「オットーさんやザイルさんにも言ったらだめってこと?…信頼、してるよね…?」
「彼らのことはもちろん信頼している。だがな、秘密はやはり知る人間が少ないほうがいいんだ。どこから情報が漏れるかわからないから」
「……そ、か」

 アキは少しだけ俯き、うなずいた。

「坊主、この国にいたいのであれば、空間属性の魔法を行使できることは絶対に他国に知られるな。この遮音魔法だって、リーデンベルグの優秀な魔法師たちが何年もかけて編み出したものだ。収納魔法に至っては、過去の遺物を用いるだけで、この世界の誰も使うことはできない。俺が言いたいこと、わかるな?」
「……わかり、ます」
「これだけ言っても無茶をするなら、俺はお前さんを無理矢理にでもリーデンベルグに連れて行く。あそこの魔法機関にいれば、情報の遮断は完璧だからな。クリストフと離れるのは嫌なんだろう?だったら何が何でも俺が言ったことを守れ」
「はい」

 アキは神妙な顔でうなずいていた。
 アキが無茶しないように見守るのは俺の役目だな。

「さてと」

 レヴィはテーブルの上に用意されていた果実水用のコップに、持ち込んだ酒をわずかに注ぎ喉を潤した。

「坊主の魔力暴走について、だな」
「……はい。お願いします」
「単刀直入に言うが、坊主、お前は『異世界人』だな?」
「は?」
「え?」
「……なんだ。クリストフ、お前知らなかったのか」
「いや……、知るも知らないも、初めて聞いた言葉だから。異世界……って、どういうことだ?」
「どうもこうもない。まんまだよ。この国でも、他の国でもない。この世界にある国のどこでもない。全く別の文化を持つ、全く別の世界だ。異世界ってのは。アキラはそこの住人であって、この世界の人間じゃない。思い当たるだろ?恐らくかなり非常識なことばかりしたはずだ」
「非常識……」

 アキはそこのところにショックを受けたらしい。こんなときでも可愛い。

「俺の知らない言葉や、知識。こちらの常識を全く理解していないところ……。ああ…そうか。それなら、納得がいく」
「坊主はどうしてそのことを言わなかった?」
「……だ、って、説明の仕様がなかったし、言ったって信じてもらえると思えなかったし、拒絶、されると思ったから…。どこまで言ったらいいのかもわからなかったし…、『遠い国』から来たってことにしておけばいいかな、って」
「まあ、そうだよな。遠い国から来た、ってのは、あながち間違いじゃないしな」
「それより、ギルマスはなんでそんなに詳しいのか……、俺にはそっちのほうが気になります……」
「ギルマス……。俺の爺様が特殊なだけだ。もう亡くなったがな。俺の爺様は『エイタロウ』って名前だった」
「!!日本人だ……」
「爺様の話は、子供の頃に何度も聞かされていたよ。突然この世界にいた事、魔力が高かった為に事件に巻き込まれていたこと、おかしな知識を持っていたこと。まあ、大体お前に当てはまるだろうさ。その爺様な、この世界に来た当初は魔力が安定せず、何度も暴走を繰り返したらしい」

 アキの状況と似ている。アキもそう感じているのか、レヴィの話を聞く表情は真剣そのものだった。

「だが、ある時、暴走は終わった。魔力が安定したんだ」
「それは……どうやって?」
「すべてを思い出した、と、爺様は言っていたよ。たったそれだけのことだったと。アキラ、恐らく、お前にも思い出せないことがあるはずだ」
「………うん。あります」
「それを思い出せ。お前の魔力を安定させるために」

 レヴィから指摘され、アキは顔を伏せた。
 思い出せないことがあるなんて…今まで知らなかった。

「坊主が知りたかったことはこんなところか」
「はい……。ありがとうございます……ギルマス……」
「お前なぁ。ギルマスギルマスって、いい加減説明してくれよ」

 レヴィの言葉に、きょとんとした顔を見せたアキ。

「ええっと、冒険者宿って、冒険者ギルドで、店主だから、マスターで、ギルドマスターだから、ギルマス……」
「むこうの言葉か。ギルドねぇ。寄り合いみたいな意味か。まあ、わかったわ。呼びたいように呼んでいいぞ坊主」
「ギルマス」
「クリストフ、お前は普通に名前で呼べ。『ギルマス』はアキラ専用だ」

 ニヤリと笑うレヴィ。それは俺に嫉妬しろとでも言っているのか。

「そういや、もう結構な時間過ぎたなぁ。坊主はそろそろ寝ておけ」
「え、でも」
「……そうだな。アキ、横になって」

 ちらりとレヴィを見れば、一応気を遣っているのか、俺達に背中を向けていた。

「アキ」

 ベッドに無理やり引き倒し、下肢に手を這わせながら唇を重ねた。

「ちょ…っ」

 真っ赤になるアキ。まだ話したいのか、顔を背けようとするが、それは許さない。
 手触りのいい足に触れ続ける。内股の弱いところも、念入りに。

「ん……っ」

 口の中を舌でかき回す。
 抵抗していたアキは、諦めたのか、俺の首にするりと腕を回してきた。
 舌を絡めながらたっぷりと唾液を注ぐ。それを数度にわけて飲み込むアキが愛しい。

 ……ああ。抱きたい。まだ、二日目なのに。

 アキの吐息を感じながら、また唾液を流し込み飲み込んだのを確認してから唇を離した。

「眠れ」

 耳元で低めに囁く。
 アキは非難めいた瞳で俺を見てきたが、抗うことなく俺の魔力に身を委ねた。
 穏やかな寝息を聞きながら、毛布を肩までかけ直す。

「……相変わらずお前さんの魔力ってえげつないのな」
「アキに馴染みやすいだけ。それで?わざわざアキを眠らせてまで、何の話だ」

 椅子をベッド近くに引き寄せ、腰掛けた。
 アキの頬をなでていると、目の前に酒の入ったコップを出された。

「まあ、飲めよ」
「まったく……」

 悪態は付きつつも、一口口をつけた。……ああ、これは美味い。アキにも飲ませてみたい。

「まあ、話しておきたい……というか、伝えておきたいことはいくつかあるんだがな。まずはアキラのことだ」


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