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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。
17 集団移動時の謎解明
しおりを挟む時々目を覚まして水を飲みつつ、ちゃんと覚醒したのは、西の空が赤みがかり太陽が沈みかけた時間。
クリスの周囲を走る隊員さんがちょっと少なくて、どうしたんだろうと思っていたんだけど、もう少し走ったところで天幕の準備とかされていて納得した。
「今日はここで野営?」
「起きたか。ああ。明日も早いけどな。体調は?どこか痛むところはないか?」
「体調は大丈夫…だと思う。寝てたし。でも、腰と太ももがちょっと痛い…」
「寝る前に揉んでやる」
わざわざ耳元で言われたことに、顔が熱くなった。
「もうっ」
「アキ、可愛い」
「っ、も、いいっ」
くすくす笑うクリス。
野営地について、上機嫌のままヴェルをとめて、先に降りてから俺に向かって手を伸ばしてきた。
俺はすぐにその手をとって降りようとしたんだけど、足腰に踏ん張りがきかなくて、落ちるように抱きつく始末……。
「うわぁぁ…」
足がプルプルしてる。多分、腰砕け状態だとも思う。
「これじゃ歩けないな」
楽しそうに言わないでほしい。
結局、この野営でも抱っこ移動ですよ…。歩けないんだから仕方ない。クリスのせいってわけじゃないから、文句なんて言いません。諦めが肝心だよね。
野営では天幕を張る。今回は三つ。一つはクリスと俺用で、あと二つに隊員さんたちが入る。夜間の見張りは交代制。焚き火は三箇所。火を絶やしちゃいけないんだって。まあ、セオリー通りだから、そこはわかる。
この辺りに出る魔物なら、隊員さん一人でもどうにかなるレベルなんだそうだ。けど、万が一手に負えなさそうなのが出たら、連絡用の笛を鳴らす。うんうん。無理しちゃだめだよね。
ゲームで必須のヒーラーはいない。だから、怪我はできるだけしないほうがいい。治療道具は結構たくさん用意されているけど、対処できるのは浅い切り傷くらい。
だから、やばい怪我するくらいなら一旦退く。その決断も大事なことで、なにより、命より大切なものなんてないんだから、自分の命を優先して悪いわけがない。俺は、自分のことよりクリスのことを優先しそうだけど。
夕食は皆で大鍋料理。何も手伝うことなく(そもそも立てないので手伝えない)、具だくさんスープの器を渡されて、食べ始めた。ん、美味しい!
なんとなく空を見上げた。
星が綺麗。
人工的な明かりがないからか、本当に飲み込まれそうになるくらい綺麗。早回しのないプラネタリウムそのものかもしれない。
食べ終わって、抱っこで天幕に移動する。
用意されていた簡易ベッドに降ろされて(大荷物なんだけど…)、ブーツを脱がされた。そのまま強くはない力で押し倒される。ベッドが低く軋んだ。いつものスプリングが軋む音とは違うもの。
生身の移動だから、荷物が大変だよね。
ん?でも、こんな大荷物、持ってる人いなかったよね?
「何か気になるか?変な顔してる」
って、頬をムニムニされたよ。
「や…、大荷物だよなぁ、って思って。天幕とか、このベッドとか、机とか……。運んでるように見えなかったから」
「ああ」
納得…って顔でクリスが頷いた。
「個人が所有するのは難しいんだがな、各騎士団に一つずつ収納魔法のかけられた箱が配置されてる」
「収納魔法……!!」
やっぱりあるんだ。その手のやつ!
驚きとかで飛び起きた俺に、クリスは苦笑。
「収納魔法ってことは空間属性とかかな!?それ、俺にも使えるかな!?」
「んー…、アキなら、もしかしたら使えるかもしれないな。ただ、それを教えたくても、今は使い手がいないんだ。今使っている物も、かなり昔に魔法付与された物だから」
「昔……。あ、そしたら、文献とか残ってるんじゃない?城に戻ったらそれ探してみていい?」
絶対便利魔法じゃん!!覚えて損なし!!
すごい意気込みだったんだと思う。クリスが笑い始めて、興奮しすぎてた自分が恥ずかしくなってくる。
落ち着こう。とりあえず。
でも、魔法って、イメージ…自分の想像力が大事で、想像できないものは生み出せない。効果、範囲、方向性、仕組み。
なんとなく、クリスのウエストポーチを腰から外して手に取った。中身を確認したら、透明な液体の入った綺麗な細工の小瓶が二つと、他にもよくわからないアイテムが、全部で10コほど。とりあえず、中身は全部ベッドの上に出した。
仮に、だ。
範囲は、このウエストポーチ内、効果は……そうだな。アイテム100個分くらいのスペース、大きなものも長いものも収納には関係なくて、入れる瞬間には小さくなり、出す瞬間にもとの大きさに戻る。中に入れたものは取り出しやすいように横一列がいいな。あ、あと、同じアイテムは重ねて入れる。馴染み深いところで、99個まで一スタックに収まる感じ。時間停止とかもできると、食べ物も安全だけど、それは、とりあえずいらない。でも、中身の重さは感じないのがいい。中に入れば重量無視!で。
「んー…」
どうだろう。
俺は、正式な手順も詠唱も知らない。必要ない。だから、魔力を流せば、もしかしたら――――
「アキ」
クリスの焦った声。
手に持っていたウェストポーチがほんのり温かい。ついでに、酷い脱力感。
「……あれ?」
座ってられなくて、俺はベッドに倒れ込んだ。
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