112 / 560
第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。
11 健全な精神は健全な肉体に宿る…?
しおりを挟むクリスから魔力暴走の経緯を聞いて愕然とした。
「……あ……、うん。そうだ。あの人が、来たんだ」
なぜ忘れていたんだろう。
昨日のお茶会に乱入してきた彼女――――ヘルミーネさんの、俺やティーナさんに向けられた侮蔑の言葉と視線。俺を庇ってくれたティーナさんの強さ。
真っ赤な口が弧を描く様が、異様に歪んで見えた。
その不気味な口が、クリスの子供を生むと告げた。国のためになると告げた。俺がクリスの枷になっているとも言われた。
酷く気持ちが揺れたことは覚えてる。……いや、思い出した。けど、そこまで。どうしてもその先は思い出せない。
「強制的に眠らせたんだ。覚えていなくても仕方ない」
「クリスが?」
「そう。…あのまま放出を続けていたら、アキが危険な状態だったから」
クリスの表情がこわばった。俺をまた、胸に抱き寄せる。
「その後部屋で目覚めてからも、様子がおかしかった。以前の暴走とは全く違っていたんだ。…覚えてるか?」
「…何も覚えてない。多分、思い出せない。夜中に水が飲みたくて起きたところからは覚えてるけど……」
「覚えてないなら、それでいい。無理に思い出そうとすることもないから」
「そう……?」
でも、ほんとにそれでいいのかな。
俺、ちゃんとわかってないと、これからも同じこと繰り返すんじゃないのかな?
「…クリス」
不安とか疑問とか、色んなものが綯交ぜになって、変な顔をしてたんだと思う。
それは声音にも表れていて、胸元に抱き込んでいた俺に、クリスは触れるだけのキスをしてくれた。
……あったかい。
「アキが悩む必要はないから」
「でも」
「無理に思い出そうとしなくていい。…思い出したときは、必ず俺が抱き締める」
多分、だけど。
暴走した直後の俺はかなり酷いことになってたんじゃないかな。原因がヘルミーネさんから言われた言葉だと言うなら、恐らくメンタル的なところで。
というか、魔力暴走…って、メンタルにひきずられすぎやしませんか。だとしたら、俺、自分で思ってるより、メンタル弱い?
……だめじゃん。クリスを支えたくて、クリスの力になりたくて、クリスを守りたくて、クリスの傍にいたいから、ここにいるのに。
でも、メンタルの鍛え方なんて、俺知らない。人によっては「気合だ!」とか、「周りを気にしすぎない」とか言う人いるけど、ちょっとね…違うと思うし。
あ、あれか!?「健全な精神は健全な肉体に宿る」とかいうやつか!ん?魂だっけ?でも、つまり、身体が資本ってことだよね。
「クリス」
「ん?」
「俺、身体鍛える!インドア派だから、運動なんて体育の授業くらいしかしなかったけど、とにかく鍛える!なにしたらいい?あれかな、まずは走り込みとか!?」
「いや、まて、落ち着け」
待てと言うなら待ちますとも。
でもクリスは肩を揺らして笑い始めてしまった。
「とりあえず、何がどうなってそうなった?」
「え?んー、ティーナさんが格好良くて」
「ん?」
「それで、すごいな、って。俺、あの人に何も言い返せなくて。だから、精神……心?を、鍛えなきゃ、な、って。そしたら、感情とかもコントロールしやすいんじゃないかな、って」
「それがどうして身体を鍛えることにつながるんだ?」
「健全な精神は健全な肉体に宿るから!」
「………」
あ、クリスがこめかみを押さえた。
ふぅ、って、一度息をついてから、俺を抱きしめたままクリスが起き上がったから、俺はクリスにしがみつくような形になって、伸ばした足の上に向かい合うように座らされた。
「アキの国の言葉?」
「うん」
「………まあ、否定は、しないが」
「でしょ?そしたらさ、魔力暴走とかも、しなくなるかもでしょ?」
暴走しなかったら、クリスに怪我させることもないんだよ。
なんとなくクリスの寝間着の合わせを開いた。包帯はやっぱり痛々しい。
多分、一番ひどいのはお腹のところ。包帯の下のガーゼのようなものの量が多いのか、少し膨らんでいるから。
胸にも包帯が巻かれている。それに、よく見れば、身体のあちこちに大小様々な切り傷のようなものができていた。
…最初の暴走のときも、クリスは全身で俺を止めてくれた。あちこちに怪我をしながら。
どんな状況だったのかは、俺は全く覚えてなくてわからない。
でも、クリスは、自分が怪我をすることなんて厭わずに俺を抱きしめてくれていたんだろうなってことは分かる。
俺のせいでクリスに怪我をさせたくない。かすり傷だ、すぐ治る、…って言われても、俺が怪我をさせた事実には変わりない。
正直、メンタル強くすれば、魔力暴走が起きなくなるのかは…わからない。
でも、俺がクリスを傷つけないためには、魔力暴走を抑えるか、俺が治癒魔法を使えるようになるかの二択しかないわけで。
「アキ」
胸元の包帯の上から唇を押し当てた。
167
お気に入りに追加
5,496
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる