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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
47 クリスのお仕事
しおりを挟む今日は、このまま執務室で昼食になる。
いい時間だったのか、メリダさんとザイルさんが、昼食を受け取りに部屋を出ていった。
「少し横になるか?」
「え?いや、大丈夫だけど」
基本的にクリスの膝の上に座ってただけだし。
次の書類の一番上にあった魔物被害って言葉を見て、そういえば…って、クリスに聞いてみた。
「遠征のときの村の魔物被害ってどうなったの?」
俺の髪をいじりながら紅茶を飲んでいたクリスが、ああ、と、声を出す。
「すまない。すっかり伝えるのを忘れていた。あれは、アキの指摘通りゴブリンの被害だった。調査と殲滅にあたってくれた冒険者には、既に報酬も支払い済みだ」
「殲滅…ってことは、どこかに巣があった?」
「ああ。まだそれほどの規模はなく、繁殖も僅かだったからな。家畜の骨が至るところに転がっていたようだ」
「そっかぁ」
繁殖…って、女性を拉致して…とかじゃないよね?今のクリスの言い方なら、多分、そうじゃなさそうだけど。
「でも、よかった。もっと増えてたら、家畜だけじゃなくて村の人も襲われてたかもしれないよね?」
「そうだな。……うん。そういえば、これもアキの功績だな」
「功績なんていらないんだってば…」
口だけなんだし。
クリスは相変わらず笑う。
なんだか恥ずかしくなってきて、邪魔にならない程度に書類を手に取った。
目で追って読んでいたら、頭にクリスのキスが降ってきた。
「どう思う?」
俺が手にした書類を指差して、クリスが聞いてきた。
どう思う…って、言われても。
王都から北の比較的国境に近い村で、魔物被害がでているというもの。
クリスによれば、村から王都までは、不休で馬を走らせて5日。……5日。いや、ここまでこういう陳情みたいなものが来てるんだから、やっぱり困ってる?……いや、でも、5日。5日、かぁ。
不休で5日。実際にはそんなことできないから、馬での移動でも、8日~10日はかかる計算。むしろ、急いでいるなら、まずは近隣の冒険者ギルド……もとい、冒険者宿に依頼を出したり、各地に駐屯してる兵士団に連絡を入れるほうがいい。だって、そのほうが早いもの。
ちなみに、王都から離れた村や街のために、各地に駐屯している兵士団があるんだって。タリカ村を最初に守ってたのも、この駐屯している兵士団のみなさんたちだった。
こういう言い方はあれだけど、田舎になればなるほど、魔物に関する被害は多くなるし、助けを呼ぶにも時間がかかってしまうから、各地に散らばるように配置されてる駐屯兵士団の方々の役割って、すごく大事なんだって。
うん。タリカのことを思うと納得できるよね。
だから、ここまで移動に時間がかかる王城に書状を出すことは……。
「現実的じゃない」
「うん」
「往復で半月以上かかるのに、わざわざここに相談する内容じゃないと思うんだけど」
「そうだな」
「魔物被害っていうのもよくわかんない。具体的なこと書かれてないし」
「ああ」
「村の人が被害にあったのか、森が荒らされたのか、家畜が襲われたのか…、調べないとわかんない」
「うん。なら、放置するか?」
「放置はだめだと思う。もしかしたら、冒険者にも駐屯してるはずの近隣の兵士団にも、何かしらの理由で相談できないのかもしれないし。だから、信頼できる人に調査を依頼、かな?……電話とかあれば、連絡取りやすいんだけどなぁ。距離がありすぎて、調査にもかなり時間がいるよね」
「でんわ?」
「うん。…あ、俺の…………国でね。遠く離れた人と会話できる道具」
「それは……、便利だな」
「でしょ」
魔法でなにか作れないかな。
念話とか、ありそうなのに。ないのかな、この世界。今度ギルマスに聞いてみよう。
「んー…」
現実的ではないけど、完全放置も駄目。信頼が置けて、鍛えていて、馬の移動にも耐えられる存在。
……クリス隊の人しか思いつかない……。
「ディックに行かせましょうか。北の方の出身でしたし」
「ああ。そうだな。ディックに行ってもらうか」
ディックさん…って、愛想のいい隊員さんだ。
「早急に」
「すぐに準備をさせます。早馬で……、四日後には現着できるかと」
「ああ。任せた」
「御意」
オットーさんは一礼すると、詰め所の方へ行くようで、訓練場の方に繋がる扉から出て行った。
「クリス、早馬、って、そんなに早いの?」
「ああ。距離や目的地にもよるが、大体は半分ほどの日程で到着できる。近い駐屯地を経由して、馬を替えていくんだ。疲労がたまらないから足が速い。……まあ、乗ってる人間は疲労もたまるから、完全無休にはならないが。俺の団員なら問題ないだろう」
…なんか、クリス、さらっと言うけど、かなり過酷なのでは…。でも、オットーさんも止める様子ないし……、もしかして、これがクリス隊の平常運転?
「調査結果の連絡をまとうか。報告が来たらまた一緒に聞こう」
「うん」
クリスはその書類に、調査中と書き込んで、書類の束と別にした。
「じゃあ、次はこれ」
示された書類を眺めて、むむむと眉が寄る。
「……これ、完璧クリス狙いじゃんっ」
助けてー魔物が出たよー強いよーうちの娘も怖がってるからー殿下に助けてほしいよーよければうちの自慢の湯にもつかって行ってー数日でも滞在していいよー娘がお世話するよー
………的な!!
「……まさか、クリス、行くつもり……?」
クリスはクククと笑った。
楽しそう。
あれ。でも、比較的優先度の高い書類を振り分けてる的なこと、オットーさん言ってなかったっけ?だったら。なんでこんなのがあるんだ?
「行こうかと思う」
「え」
クリスの思っても見なかった返事に、呆然と見てしまった。
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