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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。

42 嬉しいことが起きたので調子に乗ったら

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 目が、覚めた。

 いや、朝なんだから、目が覚めるのは当然なんだけど。
 最近ではなかったんだよ。こんなにすっきり目が覚めること。
 それに。
 クリスの腕の中だ。

「………」

 素肌が触れ合ってる。薄い肌掛けだけで、汗ばんでもいないから、さらさらしてる。
 俺の右手はクリスの胸元に触れてた。規則正しく上下を繰り返す、ハリのある胸筋。筋肉大好き!ってわけじゃないけど、クリスのはすごく好き。

 じ…っと、寝顔を見た。
 ……これは、たぬきじゃない。絶対。

 相変わらずまつ毛長い。
 唇の形、綺麗。
 たくさんキスした。あちこち舐められたし、吸われた。首筋や、胸元にも、最近は消えてた痕がついてるはず。

 穏やかな寝息。
 閉じた瞼。

 綺麗な碧い瞳が見たい。
 起こしたくないけど、クリスの顔に触れた。で、そっと、の縁を撫でる。
 胸に触れていた手には、心音も感じる。とくん、とくん、って、心地のいい振動が、伝わってくる。
 目、開けてくれないかな。

「クリス……」

 何度も
 ぐいっと。サラサラと、指の間を髪が流れ落ちてく。
 自分の方に引き寄せて、唇にキスをしようとして………、止まった。

 ただただ、呆然とした。
 涙が次から次に流れ落ちる。
 身体が震える。
 心臓がばくばくする。

「……アキ?」

 うっすら開いた瞳は、俺を見るとすぐに見開かれた。

「どうした、どこか苦しいのか!?」

 クリスは俺のを自分から引き離して、胸の中に握り込んで――――固まった。

「アキ」
「クリス……どうしよう。左手、動いたぁ……っ」
「ああ…、動いたな」
「よかったぁ……っ、よかった…!!」

 クリスが俺を仰向けにして、上から覆いかぶさり、じっと俺を見る。
 俺は、恐る恐る左手をクリスの方に伸ばして…、首に、回した。
 意識してわかったけれど、一定以上上げると痛みが走る。指先は少し震えてる。多分、まだ力は入らない。
 でも、でも、自分の力だけでクリスに抱きつける。両手で、クリスを抱きしめることができる。
 嬉しくて嬉しくて、涙が止まらない。

「アキ……良かったな」
「うん……っ」

 そのまま唇を重ねた。何度も繰り返し。
 ぐり…って、クリスが腰を押し付けてくる。そこはしっかり主張してて、ああ、いつもの朝だ……なんて、変な安心感を覚えた。

 いつもなら……って言っても、もう、かなり前のことになってしまうけど、俺が何言っても、この状況になったら後はするだけ……だったのに、クリスはあててくるだけで、それ以上してこない。

「クリス……しよ?」
「……俺が耐えてるのに、なんでアキが誘ってくるんだ……」

 むしろ、なんで耐えてるのかわからないんですけど。てか、俺にそれを押し付けておいて、何もされないほうが、俺、辛いんですけど。

「……なんでしないの?」
「昨日無理させたから。……結局優しくできなかったし。身体、辛いだろ?」
「……つらい、よ?えと、何もされないのが……」
「ん?」
「なんかね、俺元気なんだよね。左手動かせるようになったし…。よくわかんないんだけど。……昨日、クリスと、……えと、たくさん、したから、かな、って」
「それならだるくなるだろ?…前に少し触れ合っただけで、翌日寝込んでいたから」
「や、えっと、あの頃より体調はいいし、その、………えっと」

 クリス、気づいてくれないかなぁ。なんでこういうときに限って、俺の心読んでくれないんだよ…。

「アキ?」
「ううう………」

 これ、ちゃんと言わなきゃダメなやつ。

「……あのさ」
「ああ」
「昨日、した、とき、その……、クリスの、いっぱい、俺の中に、だ、したよね…?」
「ん?……ああ。それなら、アキが眠ったあとに綺麗にしておいたが」

 ああ、うん。そうだよね。朝起きたとき、身体、サラサラだったし、中から流れてくることもなかったしネ!

「えと、そういうことじゃなくて、クリスって、体液に魔力があって、俺、出されたら、その分魔力回復するでしょ?」
「そう、だな?」
「うん。……でさ、クリスの神官としての力の源も、やっぱり体液なわけでしょ?」
「………ああ、なるほど」

 ここまで言ってクリスにも俺が何を言いたいのか伝わったみたい。ほぼ、全部言ったけど…。

「仮定、の、話だけど、……魔力と一緒に癒やしの力も、俺の中に注がれた分だけ、身体に入ったなら、俺がこんなに元気なのも頷けるかな……って」

 抱かれて元気になるとか、どうすればいいの、俺。
 そもそも、昨夜だっておかしかった。
 前なら、気絶するように…というか、ほぼほぼ意識失って終わってたのが、昨日は、「眠い」から、寝た。かなりイってたのに、意識は飛ばなかった。

「………」

 クリスは色々考えているようだった。
 少し難しい顔をして、俺の左手をとって、口元に運ぶ。

「左手を動かせるようになったのも、それが理由だろうか」
「……もしかした、ら?クリスの魔力って、俺にとっても馴染みやすいんだよね?だったら、癒やしの力も、そうなんじゃないのかな、って…」

 でも、多分、俺にそれなりの体力が戻ってきたからだと思うんだ。
 瀕死なときに抱かれても、多分それはなんの効果もなかったと思うし、そもそも、嫌だ。
 俺を想うクリスがいて、受け止めたい俺がいて、始めて成立しそうな気がする。

「……キスなんかより、よほどたくさんここに、注いだからな」

 クリスの手が俺のお腹に触れてきた。…丁度、昨夜散々俺が触ってたところに。

「クリス、恥ずかしい…っ」
「さっきまでアキから誘ってきてたのに」
「……だって」

 クリスはくすくす笑うと、俺の左手を下ろした。ベッドに縫い付けるように両手を握られる。

「……一日中抱いたら、普通に動かせるようになるか?」
「っ」
「俺の持つものは、全てアキの物だからな。俺の力、全てお前のために使いたい」
「…贅沢だね」
「なにが?」
「クリスの、全部使っていいとか……。みんなに妬まれそう」
「伴侶の特権だな」
「……うん!」

 恥ずかしかったけど、とりあえず言ってよかった。


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