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第4章 怪我をしたら更に溺愛されました。
0 酷薄 ◆*****
しおりを挟む綺麗に手入れされた爪には、キラキラと光る小さな石が飾られている。ほっそりとした白い指先で、彼女は目の前の紙を一枚一枚めくっては、その口元に薄っすらと笑みを浮かべていた。
ふと、部屋の外が騒がしくなったことに気づいたが、左手にしていた紅茶の注がれたカップを置いただけで、紙をめくる手は止めなかった。
「ヘルミーネ!!!」
ノックもなしに部屋を訪れた人物を、彼女は一瞥し、興味なさそうに再び紙の束に視線を落とす。
部屋に入ってきた男は、屋敷の者たちに羽交い締めにされたが、それを振りほどき、彼女が眺めている紙の束をテーブルの上から払い落とした。
ばさばさと音を立てながら、紙の束は床に散った。
彼女はそれを冷めた瞳で眺め、嘆息する。
「一体何をなさるのでしょう」
「巫山戯るな!!!お前の仕業で私はこんな怪我を負う羽目になったのだ……!!」
彼女は、男をちらりと見やり、再び嘆息する。
「何をおっしゃっているのか、私にはわかりかねますが」
「お前がっ!!この私に持ちかけた話だろう!!アレを私が手に入れるために、城より手薄になる外で拐いやすい様に魔物に襲わせると……!!この私には一切手を出さず、私に疑いの目が向くこともないと……!!」
激高した男は顔を真っ赤にしながら吐き捨てるように叫んだ。
その様子を見ながら、彼女は小さく笑みを落とす。
「何がおかしい!?」
「何も存じ上げませんわ。誰かと勘違いされているのではなくて?」
「はあ!?」
「私、貴方とは最近お会いしてませんわ。それに、私は、殿下から自宅で待つように言われてますの。殿下が私を迎えに来てくれる時まで。なのに、何故、私が貴方にお話できるというのですか?」
「それは、手紙と、お前からの使者が…!!」
「そのようなお手紙を差し上げたこともありませんし、貴方に使者を向けたこともございません」
「まだそのような………!!!」
「おかわいそうなレイランド様…。どなたかに騙されたのですね?私を疑ったことも、無断で屋敷を訪れ、あまつさえ私の部屋に押し入ったことも、貴方の境遇を思い不問にいたしますわ。さあ、お引取りを」
「ヘルミーネ!!!」
「私に意味のない敵意を向けるよりも、ご自分の立場を守られるように動かなければならないのでは?」
赤い唇が三日月型に歪んだ。
目元は男を蔑むように細められ、その表情を見たときに、男は己の過ちに気づく。
――――自分はその手の中で踊らされていたに過ぎない、と。
男は無言で部屋を出た。彼女を批難するような、復讐を匂わせるような言葉も何もなく。
その後ろ姿を見送り、床に散乱した紙を侍女がまとめ直すのをただ眺めていた。
「殿下はいつ頃いらしてくださるかしら」
テーブルに再度置かれた紙をめくり、一枚だけを手の中に収める。
「皆、よく働いてくれたわ」
酷く嬉しそうにその紙を何度も何度も読み返す。
「婚約者を亡くし悲しみに打ちひしがれている殿下を、私がお慰みしてさしあげなければ――――」
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それを聞きながら、侍女は何も言わずに部屋を出ていった。
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