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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。

39 不快な何か

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 西の空の色が濃くなり始めた頃、森からギルマスたちが戻ってきた。
 ギルマスはとても元気そうだし、にこにこしてる。けど、魔法師たちは、顔色も悪くて肩で息してる…。

「殿下、婚約者殿と十分触れ合えましたか?」
「ええ、それはもちろん」

 って、ギルマスとクリスが胡散臭い笑顔で話してる後ろから、息も絶え絶えな人たちがようやく追いついてきた。

「レイランド魔法師長の魔法は素晴らしいの一言でしたよ!あれほどの不穏な魔法が一瞬で消されました。しかも無詠唱で!!それに、キラーアントの巣穴まで見つけてくださるとは!30匹はいませんでしたが、クイーンとキラーアント数匹を、魔法だけで仕留めてくださった!いやぁ、噂通り優秀な方々ですね!!」

 ギルマスのよく通る声が、野営地に響いた。……ああ、ごめんなさい。色々笑えるわ。
 と言うか、クイーン、いたのか。びっくり。

「それほどのご活躍とは…。やはり近くで見たかったですね。それで、レイランド魔法師長?討伐の目的も果たされましたし、これから城にお戻りになられますか?」

 にこにこと。
 暗に「帰れ」とクリスが言ってる。

「い、いや、殿、下。我々、は、まだやることがあるので、ふー…、我々もこちらで休ませていただきます」

 え。帰らないの?

「ですが、貴殿らの野営準備はこちらには何一つありませんが」
「ご心配なさらず。我々も軍属ですからね。野営の準備はしてきておりますよ。流石に粗暴な者たちの近くにいては気も休まらないので、少し離れた場所に設置させていただきますがね。ああ、夜は騒がしくされませぬように。艶を帯びたあられもない声が聞こえてきては、私はともかく若い者には苦痛でしょうからな」

 あー、はい、俺のことですね。この人は全くブレないですね。
 隊員の皆さん、いいですよ。そんなに殺気立たなくて。俺、達観したからね!
 ま、クリスに抱えられたままの俺を、舐め回すような目で見られるのはそれこそ苦痛ですけど。

「……それにしても」

 酷く低い声に、魔法師長と合わせたくもない目が合ってしまった。

「っ」

 その途端、身体中を不快なが駆け巡った。

「アキ?」
「クリス……キスっ」

 無理やり何かが入ろうとしてる。
 それが嫌で嫌で、クリスに縋った。

「くりす……っ」

 クリスは俺を横抱きにして、強請ったものをくれる。
 震えていた唇に確かな温もりが重なって、ようやく胸の中のざわざわしたものがなくなっていった。

「ん……っ、んん」

 口の中をかき回されるのが嬉しい。

「んぅ」

 喉の奥のものを飲み込む。その度に身体中が温かくなる。

「は……ぅ」
「落ち着いた?」
「ん……ぅん」

 あの、無理やり入り込もうとしていた何かは感じなくなった。
 魔法師たちの方を見たら、皆さんやたらと顔が赤い。魔法師長のニヤニヤ顔は、威力を増してるようにも見える。

「全く…。ご婚約者殿は場もわきまえない奔放さですな。王家の品格を損なわぬうちにさっさと手放してしまうのが良いと思いますけどね…殿下。まあ、殿下もそのうち目が覚めることでしょうに」
「生憎とアキを手放すつもりはないのでね」
「その身体が余程気に入ったと見える…。人の心を惑わす術でも身につけているのでしょうかねぇ」

 魔法師長の笑い声の方が品がないと思う。
 ひとしきり笑い、魔法師長は背筋を正して、クリスとギルマスを見る。 

「では殿下、統括殿。私共は野営の準備にとりかかりますので」
「ああ」
「ゆっくりお休みください」

 恭しく頭を下げ、上げる瞬間にまた俺をにたにたと笑いながら見て、魔法師長たちは俺達の前から立ち去った。
 どの辺りに野営地設置するんだろうと思ってたんだけど、ほんとに結構な離れた場所に馬車も誘導してて、ぽんぽんと天幕を張り出した。そう。ぽんぽんと。そっかー。魔法師団にも収納魔法かけられた箱か何かがあるのか。
 天幕は二張。うち一つは、なんかごてごてして装飾過多。機能性ないだろ、あれ。魔法師長が使う天幕らしい。まあ、そうだよね。わかってた。

「さっき何かあったのか?」

 クリスが心配そうな目で俺を見てきた。

「なんか…ね、うん、よくわかんないんだけど、俺の中に勝手になにかが入り込んできた気がして…、クリスじゃなきゃやだって思って…」
「もう大丈夫なのか?」
「うん」
「そうか…」

 クリスは俺を抱く手に力を込めてた。
 ギルマスは俺達の会話を、魔法師長たちが去っていった方を見ながら聞いている様だった。

「……さってと」

 ギルマスは彼らがしっかりと視界から消えたことを確認してから、グーッと伸びをする。

「クリストフ、また夜にな」
「ああ」

 ぽんっと肩を叩き、ギルマスはひらひらと手を振り、冒険者さんたちの方に向かった。
 夜に打ち合わせですね。はい。了解です。

 真っ暗になる前に、明かりの確保とか焚き火の準備とか終わらせなきゃならない。俺もなにか手伝おう…と思ったんだけど、クリスが離してくれない。

「何もしなくていい」
「でも」
「暴走をおこしかけたんだ。おとなしくしてろ」

 それを言われてしまうと何も言い返せない。魔力自体は、大分落ち着いてきてるんだけど。熱もないし。

「無理したらだめですよ。はい、どうぞ」

 苦笑気味のオットーさんが、果実水をくれた。
 周りの隊員さんもうんうん頷いてる。
 それなら……甘えてよう。

 クリスは焚き火の近くの丸太椅子に座って、俺は膝の上に横向きに座らされる。
 ゆっくり果実水を飲んでいたら、クリスの指が俺の項を触り、そのまま後頭部に這わされた。ゾクリ…と快感が走ってしまい、ん、って、唇を結んだんだけど。
 さっきのキスでもちょっと敏感になっちゃってるから、あんまりそういう触り方、しないでほしい…。
 クリスだってわかってるはずなのに、クリスはわざわざ俺の耳元に口を寄せてくる。

「艶を帯びたあられもない声、か」

 同じことでも、クリスの声で言われると、なんかドキドキするよ。

「レヴィのあれ借りて、出してみるか?」

 ……って、耳元で低めの甘い声で囁かれて……、心臓がバクバクしました。




 勿論、お断りしましたけどね!!!


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