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第3章 遠征先でも安定の溺愛ぶりです。

18 便利魔法が使えた……けど

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 手に持っていたウェストポーチは、もう温かくない。
 もしかして、もしかしたら。

「クリス」

 ウェストポーチをクリスに渡した。
 クリスは眉間にシワを寄せながら、慎重に中に物を入れ直していく。
 そうやって全部入れ直して、厚みとか重さとかを見て、更に眉間にシワが寄った。

「クリス?」

 クリスは難しい顔をしたまま、佩帯したままだった剣を鞘ごと手に取り、ポーチの口に触れさせた――――瞬間、剣は手の中から消えた。

「!」

 更に難しい顔をしたクリスが、質量無視したポーチの中に手を入れて、引き抜いたら、剣は元の形で手の中に収まっていた。

「できた!!」

 嬉しくなって叫んだら、すぐに口をふさがれた。物理的に、唇で。

「んっ」

 かき回されて、飲み込んで、ちょっと落ち着いたあたりで解放された。

「ちょっと落ち着け」
「ん……」

 落ち着いた。十分落ち着いたよ。

「アキ、説明してくれないか」
「説明……」

 うまく伝えられるかはわからなかったけど、とりあえず、考えたこととか話した。
 俺、ずっと無言だったから、クリスにしてみれば、ウェストポーチを握りしめた俺が、いきなり魔力を解放したように見えたんだとか。

「――――で、やってみたら、なんか、できたっぽい」
「……そうだな。確かに収納魔法が施されてる」
「じゃあ成功だね!これで荷物の持ち運びとか楽になればいいんだけどなぁ」
「いや、アキ」
「ん?」
「この事は公にしない」
「え?」

 浮かれてる俺とは正反対で、クリスはずっと厳しい表情だった。え。なんで?

「どして?」
「アキの価値が跳ね上がる」
「価値……」

 その言葉は、胸に刺さった。痛みとして。だって、その言い方は、物扱いのようで。

「クリス…、俺、余計なことした?」
「余計なことじゃない。アキはすごいことを難なくやってのけただけだ。ただ、その力は利用価値が高すぎるんだ。国と国の諍いの火種にもなり得る。手っ取り早くこの国にも、お前を奪おうとする輩が増える。……あの魔法師長筆頭にな」
「……俺、クリスの傍にいられなくなる?」
「傍にいてくれないのか?」
「いたい」

 思わずクリスに抱きついた。便利だからいいよね、って思ったことなのに。俺がクリスの傍にいられなくなる原因になるなら、いらなかった。

「だから、アキ」
「うん」
「このことは、俺とお前だけの秘密だ。他の誰にも言うな。兄上にも。メリダにも。当然、俺の兵団の奴らにも」
「……うん」
「俺がもっと力をつける。お前を誰からも、どんな物からでも守れる強さを手に入れる。そしたら、お前がやること全て誇れるようになる」
「ん……」
「それから」
「なに…?」
「俺は、お前に利用価値があるから手元においているわけじゃない。……それだけは、わかってくれ。俺は、お前の全てを愛している。だから、傍にいてほしいんだ」

 少し苦しげな表情。
 そんなの、疑ってないよ。
 むしろ、クリスのためになら、俺は何でもできるしやりたい。クリスが無事でいられるなら、俺は道具のように扱われてもいい。クリスの、ためにだけなら。

「クリス」
「うん」
「クリスだけは……俺のことを『使って』いいんだからね?」
「アキ」
「だって好きなんだもん。だから、クリスが無事でいられるなら、俺、何でも使う。なんでもする。俺の力、全部使ってよ」
「アキ……」

 お互いにぎゅって抱きしめ合う。
 なんか胸が苦しい。
 ぐずぐずに崩れていきそう。
 よくわかんない。
 嬉しい気持ちじゃない。
 でも、悲しい気持ちでもない。
 ……よく、わからない。

 ただ、なんとなく、俺という存在は結局なんなんだろうな、って。ふと、そんなことを思って……蓋をした。
 好きだから、どんなふうに扱われてもいい。好きだから、何でもしたい。好きだから、好きだから――――傍に、いたい。
 傍にいられないなら、道具になってもいい。人として存在できないなら、傍にいることができる何かでいい。

 ………あ、だめだ。思考がまとまんない。

「アキは道具じゃないよ。だから、使わない。そんなふうにアキ自身のことを言わないでくれ。俺は、アキを大切にしたいだけだから」
「クリス……」

 なんでか、涙が出てきた。意味がわからない。
 胸は痛いまんまだし、頭の中はずっとぐるぐるしてる。

「……クリス、俺、なんか、変だ」
「ん…、魔力を使いすぎたか?さっき、ごっそり持っていかれてただろ?」
「あー……、うん…」

 クリスが俺の涙を拭ってくれた。
 それから、顔中にキスが降ってくる。
 唇には最後に触れられた。
 ちゅ、ちゅ、って、音を出しながら、何度も何度も角度を変えて口付けられる。舌は一つの生き物のように俺の口の中で動いていて…、気持ちがいい。喉の奥に溜まったものを一度飲み込んでも、またすぐ溜まっていく。

「んぅ……」

 舌が吸われて痺れる。交わされる吐息は熱い。
 段々、胸の痛みは引いていった。そのかわり、温かいもので満たされていく。
 俺は俺のままで、クリスの傍にいていいんだ、って、なんだかストンと理解した。

「着替えて休もう」

 唇が触れ合う距離で、クリスが告げてきた。


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