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閑話 ①

布教してみました。

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*2章あたりのお話です








 この世界には娯楽が少ない。
 うん。少ない、じゃなくて、ない、だ。

 例えば、身分の高い人たち定番の『狩り』なんかは、やってる国もあるらしい。けど、ここエルスターでは行われない。
 貴族の人たちは何をして過ごしているのかといえば、優雅にお茶会を開いたり、領地内の仕事、王城内での仕事……うん、仕事ばかり。
 夜はそれなりに夜会が開かれているらしいけど、クリスはそういう話はしない。俺が来てからクリスが夜に出かけることはないから、『参加しなくてはならない夜会』ってのは開かれてないんだろう。

 まあ、それは貴族の話で。
 一般の国民さんはどう過ごしてるんだろう……って思ってオットーさんに聞いてみた。
 そしたら、これと言った遊びはないんだそうで。

 トランプに似たものくらいあるんじゃ…と思ったけど、それもない。
 子供の頃、何して遊んでたの、って聞いたら、オットーさんは大真面目に、「木剣を振っていた」と言った…。
 オットーさん、それ、遊びじゃなくて訓練だと思う…。
 でも、クリスに聞いても、同じ答えが返って来る気がした。

 これは由々しき問題じゃなかろうか。
 俺は、自他ともに認める廃ゲーマーだったのだから。
 TVゲームがしたいとか、オンラインで遊びたいとか、フリーゲームをDLしたいとか、そんなことは言わない。
 でもさ、せめて、簡単なカードゲームとか、ボードゲームがしたいと思ってしまうわけだよ。

 トランプなら布教しやすいのでは…と思ったけど、厚紙は難しそう。それに、やっぱり絵もほしい。俺は絵は描けないから、誰か絵師さんを……この場合、画家さん?を紹介してもらわなきゃならない。……これは、今後考えよう。肖像画とかは普通にあるから、絶対画家さんはいるはず。

 それなら、簡単なボードゲームは?
 準備が楽で、あまり物を使わないもの。
 んー…、カタンとか面白いけど、準備しなきゃならないものが結構多い。ドミニオンはほぼカードゲームだし…、オーソドックスにモノポリー?地名をエルスターの地名にしたらどうだろう…。……あ、サイコロ作らなきゃならないのか。

「あ」

 忘れてた。とっても簡単なやつ!!
 ちょっと面倒は面倒だけど、簡易的なものなら、紙だけでなんとかなりそうなやつ!

 思いついたので、朝食後の学習時間に早速作り始めた。
 メリダさんに必要なものを用意してもらう。
 用意された少し大きな紙に、8✕8のマス目を書いて、紙を丸く切り抜こう……と思ってハサミがないことに気づいた。
 メリダさんに聞いてみたら、散髪用のものはあるけど、紙を切るようなものはないんだって。……うーん。髪を切るのも紙を切るのも、変わらない気がするんだけどなぁ。
 あまり我儘を言うのもあれなので、まぁ、丸くなくてもいいや、ってことで、紙を四角く切りそろえた。小さな紙片が64枚。
 片面を、羽根ペンで軽く塗りつぶして、あまり透けないことを確認して、それを64枚分。
 メリダさんも手伝ってくれた。不思議そうな顔してたけど。

「できた!」

 とっても簡易的な手作りのリバーシ。
 紙オンリーだから、耐久性は全くないけど。

「これはどういったものなんですか?」

 メリダさんは完成したものを見て、やっぱり首を傾げている。
 俺はメリダさんに簡単に説明した。
 そしたら、うんうん頷いてくれて、納得してくれたみたい。

 それから、メリダさんはどこからか箱を持ってきてくれた。とっても助かります。なんせ、少し風が吹いただけで飛ばされるので…。

 クリスが楽しんでくれたら、なんとか広めたいな。広い場所や、特別必要なものも殆どないから、きっと、子供たちのいい遊び道具になると思うんだけど。






 その日の夜、夕食もお風呂も済ませてから、俺はクリスにお手製リバーシを見せた。

「これは?」
「えーとね、俺の国でみんなが知ってる遊びなんだけど、リバーシっていって、相手のコマを挟んで自分の色に染めていって、最後にコマの数が多いほうが勝ち!っていう、遊び?」
「アキの国の?」
「うん。ちょっと思い出して作ってみたんだ。やってみない?」
「ああ。いいな。教えてくれ」

 あ、よかった。
 クリス、興味持ってくれた。

 それから、説明しながら、やってみた。
 クリス黒、俺白。
 コマを置くルールとか説明しながら、初戦は俺の圧勝。まあ、当然だよね。
 クリスは顎に指を当てて、なんだかとっても真剣に考え込んでいた。

「する?」
「ああ」

 酷く真剣。
 いや、待って、これ、遊びだからね!?

 クリスはとても真剣な顔で、でも長考することなく、コマを置いていく。
 途中、「なるほど」とか「いや、違うな」とか、独り言をつぶやきながら。
 何回か繰り返しやった。
 俺は俺で、久しぶりのゲームがちょっと楽しかった。
 回を重ねていくうちに、勝てるは勝てるけど、最初のような圧勝にはならなくなってきた。
 お互いが考える時間も増えた。
 でも、覚えたばかりの初心者に、ゲーマーな俺が負けるわけに行かない!って、気合い入れまくった。

 クリスってさ、ハイスペックなんだよ。うん。知ってたけどさ。
 一度、クリスが勝ってから、俺の勝率がどんどん下がっていったんだ…。

 もう五分五分…ってところで、俺がギブアップ。

「駄目……もう疲れた……」
「ああ……。思わず夢中になってたな。もう夜中だ」
「え」

 時計があったなら、時間を確認したところだけど。
 そっかー。夜中か。

 簡易手作り紙リバーシは、すでによれよれだった。

「んー、木とかで作れたらいいのになぁ。あと、やっぱり丸いのがいい…」

 ブツブツ言いながら箱にしまっていたら、クリスがリバーシの作りを事細かに聞いてきた。
 それで、詳しく説明した。
 しっかり聞いて納得したクリスは、俺が目を擦り始めたのを見て、部屋の明かりを落として腕の中に俺を抱き込んで、おやすみのキスをくれた。






 その後、クリスから別の遊戯はなにかないかと聞かれたので、将棋とトランプの説明をした。
 紙に絵を描いたりして説明してみる。
 ふむふむと頷いたクリス。
 本当なら、将棋よりチェスの方が国に合ってると思うんだけど、俺、そういう方面には詳しくないんだよね。詳しくない、という理由で、囲碁も無理…。
 本当なら、もっと他のボードゲームやりたいんだけど……、再現できないから無理。まずはサイコロだね。何はなくても。
 でも、どうしてクリスはあんなに詳しく聞いてきたんだろう?
 あれからも寝る前に時々紙のリバーシをする。もうほとんどクリスに勝てない。なぜだ。




 そして数日後。
 クリスの謎の行動の意味がわかった。

 俺のもとに届けられた物。
 木で作られた、ほとんど変わらないリバーシ(当然丸いコマ!)と、文字だけ置き換わった将棋。それから、紙を加工して厚紙になったトランプ…!
 え、何これ。なんで、どうして!

 すぐにクリスが作る手配をしてくれたんだって気づいたけど、嬉しくて仕方なくて。
 仕事から帰ってきたクリスに、挨拶よりも先に抱きついた。

 それから、リバーシの他に、将棋のルールも説明する。クリスは将棋のほうがお好みらしい。3回くらいで、俺はすでに勝てなくなった。……まあ、将棋はあまり得意ではなかったから、仕方ないけど。

 今度、機会があったらみんなでトランプで遊ぼう。そうしよう。




 そして余談だけど。
 クリスが試作で作ってくれたリバーシセットは、何だか沢山作られて、地方の教会や王都内の冒険者宿に配られたらしい。ちゃんとルール説明込みで。
 ついでに、王城の兵舎にも、リバーシと将棋セットが配置されたとか。
 …陛下もリバーシが気に入ったとかで、お兄さんとかクリスが相手してるとか……。
 おかしいな。なんか大事になってない?
 でも、布教したかったんだから、結果オーライ……………なのかな?


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