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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。

49 仕事しないならキスしません!

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 報告書をめくる指が止まった。

「やはり西だな」

 報告書を読んでいるクリスの声が硬い。

「オットー、ザイル、二日後に西の森に行く。準備を急がせろ。全員呼び戻せ。オットー、西町の『暁亭あかつきてい』に魔物討伐の依頼を出しておいてくれ。俺名義でいい。書状は今用意する」
「至急手配いたします」

 二人の表情が引き締まった。

「ザイル、兄上に二日後、西の森まで遠征申請を」
「承知しました」

 ザイルさんは再び部屋を出ていった。
 クリスは俺をじっと見つめてくる。

「…アキ。行けるか?」

 低い、静かな声。

「うん」

 考えるまでもない。…足手まとい感半端ないけど、クリスが、そう言ってくれるなら。

「危険かもしれない」
「スライムとどっちがやばい?」
「スライムだな」

 って、クリスは笑う。

「なら、全然平気」

 クリスが判断することなら、そうなんだろう。だから、心配なんてない。

「アキがアキでよかった」

 って謎の言葉を言われて、額に唇が触れてくる。

「オットー、アキの制服の手配を」
「はい。手配は済んでいます。明日には仕上がる予定です」

 ニコリと笑うオットーさん。制服…って、クリス隊のだよね?準備してくれてたんだ。びっくり。いつか、もしかしたら、の、話だったと思ってたのに。

「あ、でも、俺まだ一人で馬に乗れない」

 執務室に行けなかった間、乗馬の練習はしていた。こんなすぐに必要になるとは思ってなかったけど、やりたいことが多すぎて、とにかく時間を有効に使いたくて。

「ヴェルなら二人で問題ない」
「でも…一人でついていけないと迷惑だよね?」
「アキがいても速度は落とさないから心配するな。大丈夫。俺とヴェルと、自分を信じればいい」
「…ん。わかった」

 この世界に来たばかりの俺じゃないんだから、全くの素人じゃなくなった…はず。髪の毛一本くらいの差かもしれないけど!
 それでも、馬のリズムに合わせるとか、バランスの取り方とか、俺なりに一生懸命やったわけで。

「明日は最終確認だな。タリカにむかったときほど急ぐものでもないし」
「あ」

 明日…って聞いて、唐突に思い出した。

「明日、昼過ぎにティーナさんとお茶会だ」
「ああ。そういえば予定が入ってたな」
「えっと…やめたほうがいい?」

 二日後…明後日には出発だよね。明日は準備もあるだろうし、俺ももうちょっと乗馬に慣れたいし。

「いや、楽しんだらいい」

 クリスからは意外にもお茶会の許可が降りた。

「フロレンティーナ嬢も楽しみにしているようだからな。ただ、あまりはしゃぎすぎて体調崩すなよ?」
「…俺、そんなに小さい子供じゃないんだけど。はしゃぎすぎたりとか、しないんだけど」

 ちょっとふくれてたら、クリスが笑う。オットーさんまで笑う。

「可愛いな」

 こめかみにキスされた。
 クリスは上機嫌で、手元の書類に何やら書き込んで、オットーさんに渡した。

「では、西町に行ってまいります。殿下、取り急ぎ、こちらの書類は片付けておいてください」
「わかってる」

 オットーさんの妙な念押しに、クリスは苦笑。それを見て少しため息をついたオットーさんは、それでもそれ以上何も言うことなく、礼をしてから部屋を出ていく。西町…っていうことは、『暁亭』とやらに行くのかな。

「クリス、暁亭って………っ、んっ」

 ……オットーさんがいなくなったら、二人きりなんだよ。誰かがいても遠慮しないクリスが、二人きりなのに遠慮するわけもなく。

「くりす、しごと……っ」

 流されちゃだめだって思ってても、絡まる舌が心地良い。口の中を丁寧に舐められて、どうしても息はあがってしまう。
 ベストの下に潜り込んできた指は、ドレスシャツの上から胸元を弄り始めて…、ビクビク身体が震えてしまった。

「っ、んぅっ」

 頭のなか、くらくらする。

「も……っ」

 ようやく唇が解放された。離れ際、濡れた唇を舐められる。

「ベッドに行こうか?」
「っ、んっ」

 耳元の甘い声。
 耳朶を舐められて、甘噛みされて、背筋がゾクゾクして……、慣らされた身体は、素直に快感を拾っていく、けど。

「仕事!!」
「アキ」
「仕事しないならキスしない!!」

 半分涙目。
 そして、こんな脅し文句しか思い浮かばない…。
 それでもクリスは困ったように笑う。

「それは嫌だな」
「じゃあ、仕事してっ」
「終わらせたらキスしてくれる?」
「……終わったらっ」
「それなら頑張らないと駄目だな」
「うん」

 クリスはまだ楽しそうに俺の額にキスをして、羽根ペンを持ち直した。…俺を膝の上に、座らせたまま。
 ザイルさんもメリダさんもそのうち戻ってくるだろうけど。

 色々諦めて、目を閉じてクリスの胸元にまた寄りかかった。
 頭を優しくなでてくれるのが気持ちよくて。結局、そのままクリスの膝の上で、俺は眠りに身を委ねていた。


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