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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
46 元婚約者候補の人は厄介かもしれない
しおりを挟む部屋の扉を開け、居間を抜け、寝室に入るとすぐにベッドに降ろされた。
「アキ」
覆いかぶさるように抱きしめられる。
「クリス」
そっと、背中に手を回す。それから、よくばあちゃんにしてもらったように、何度も優しく背中を叩く。
「アキ……嫌な思いをさせた」
「俺は大丈夫だよ?」
「……俺が嫌なんだ」
ポンポンと背中を叩いて、ゆっくりなでる。
「……あの人、婚約者だったの?」
感じた疑問を素直に言葉にすると、クリスは俺を抱きしめたまま首を横に振る。
「違う。俺はまだ婚約者を決めてはいなかった。彼女はただの候補者だっただけだ」
「候補…」
「他にも数名の貴族の令嬢の名が上がっていたが、宰相の令嬢ということで無碍にできなかった」
「ああ、うん」
わかる気がする。うん。
王子様にも色々都合とかしがらみあるよね。
「俺は本当に婚約にも結婚にも興味がなかった。ただ、兄上にとって有益であればいいという認識だけだ」
うん。大丈夫。わかってる。
クリスがお兄さんのこと一番に考えてきたってこと、もう知ってる。だから、そこに嫉妬なんてしない。…絶対、しない。
「必要最低限の夜会に出たときも、宰相からエスコートしてほしいと言われて、彼女の手をとった。彼女に対する個人的な感情など何もなかった」
貴族の夜会って、女性は婚約者とか身内とかにエスコートされるって描写、どっかで読んだな。
てか、宰相、なんだろ。ものすごく必死じゃない?
「すまなかった…宰相のことなど気にせず断ればよかった」
「いやいやいや。貴族にとっての夜会って、社交場でしょ?絶対出席しなきゃならないものもあるでしょ?それに、クリスが彼女をエスコートしてたときって、俺、いなかったしね?クリスが謝ることじゃないでしょ」
「だが」
「だが、も、でも、もないの。クリスは変なところで気にしすぎ」
思わず苦笑いしてしまった。
覇気のないなんだかつらそうな表情ばかりするクリスの頭をなでて、身体の位置をずらして唇にキスをする。
「王子さまに婚約者候補がいたとか普通でしょ。クリスの年で決まってなかったほうがおかしいんじゃない?」
「……アキ」
「まあ……結果的に、俺にとっては良かったと思うんだけど」
クリスと遠慮なく一緒にいられるから。
もう一度キスをしたら、俺を抱きしめる腕に力が込められる。
「アキ」
「今度そういう夜会とか出なきゃならない時、俺のこと連れて行ってくれるよね?」
「当然だ。俺の相手はアキしかいない」
「うん。俺にも、クリスだけだよ」
背中に回した手に力を込めてしがみついた。俺にとっては、正真正銘クリスしかいないんだ。優しくしてくれる人は結構いるけど、『家族』じゃない。俺にとっての『家族』は、今はクリスだけ。
「アキ」
啄むようなキスを何度もされた。
俺が、腕を背中から首に回し直したとき、唇がしっかり重なり深くて甘いキスに変わる。
「んぅ……」
舌を絡めて熱を移し合う。
上顎をなめられて背筋に快感が走ってしまう。
これから夕飯なんだから…!って自分を戒めていたのに、のしかかっているクリスが俺の足を割り開き、ぐいぐい腰を押し付けてくるものだから、どうしたって感じてしまう。
「も………ま、って、クリス……っん」
クリスは腰の動きを止めてくれた。
これでもかってくらい舌を吸われて、唾液の糸で繋がりながらゆっくり唇が離れていく。
お互いの唇から熱い吐息が漏れ出てるのがわかるし、クリスの眼差しにも情欲の火が見える。……多分、俺も。
でも、流されるな。耐えろ、俺。
目を閉じて、荒くなった呼吸をなんとか落ち着ける。
クリスの唇を額に感じた。
また目を開ければ、クリスの細められた目が俺を見下ろしてる。
「夕飯」
なんとか絞り出した言葉。
「わかってる」
「…あと」
「ん?」
「……彼女のこと。気をつけてね。なんか、ちょっと、やばい感じがする」
そうとしか表現できない自分の語彙力に情けなくなる。
「大丈夫。十分気をつける。だから、アキも彼女には関わらないで欲しい」
「うん」
関わりたくないよ。あんな危ない目をした人。
「あ、それからクリス」
「どうした?」
「好き」
にへら…って笑ってた気がする。どうしても言いたかったから。
でもクリスはまじまじと俺を見て、盛大にため息をついてしまう。
そしてふっと笑う。
「誘ったのはお前だからな?」
「え?」
「俺も…愛してるよ、アキ」
そしてまた、逃げることが許されない本気のキスを仕掛けられた。
クリスのスイッチをまたしても無意識にいれてしまった俺は、声が枯れるまで啼かされた。
結局、夕飯を食べることができたのは、それからかなり経ってから。
ベッドの中で起き上がることもできない俺と、上機嫌なクリスを見て、メリダさんは呆れながら夕食の準備をしてくれた。けど、部屋を出ていくとき、メリダさんは何処か嬉しそうに笑っていた。
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