88 / 560
第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
40 お昼は甘えてます
しおりを挟むどういう手筈だったのか、メリダさんが昼食の準備をしてくれた。オットーさんは一旦隊舎に戻っているから、久しぶりにクリスと一緒の食事。
「アキと食べたほうが美味いな」
そんなことをため息と一緒に言うもんだから、どうしたってニヘラ…って変な笑みを浮かべてしまう。
「俺も、同じ。昨日一日だったけど、…寂しかった」
「アキ」
「あ、でも、メリダさんが一緒にお茶してくれたり、オットーさんもザイルさんも一緒に食べてくれたり、良くしてもらってたよ」
できる限りクリスに気を遣わせないように…って言ったのに、クリスがイラッとした表情を見せたものだから、慌ててしまった。
「えっと、クリス?なんか俺…」
「俺はアキと食事を共にすることすらできなかったのに、どうしてあいつらがアキと食事を楽しんでるんだ」
……凄く苦々しい顔で言われた内容に、一気に身体から力が抜けた。
「それは坊っちゃんが仕事を放棄していたからでしょう。オットーさんもザイルさんも、アキラさんが寂しそうにしていたから、私の提案を受けてくださっただけですよ」
…ピシリとメリダさんに指摘されて、クリスは軽く舌打ちする。
相変わらずメリダさん強い。
「アキラさんのことを思うなら、せめてお食事だけでも一緒に取れるように、時間を調整するべきです。昨日一日、アキラさんは、本当にとても頑張っていたんですからね」
「……知ってる」
クリスの手が俺の頭をなでていく。
「アキ、すまなかった」
「え」
「急ぎのものは片付けたから、これからは食事はアキと取れる」
「本当に?」
「ああ」
嬉しいな。
嬉しすぎて、食事中なのにクリスの左腕に抱きついた。
クリスは俺を離すようなことはなくて、果物を口元に運んでくれる。まあ、果物だけじゃなくて、パンも野菜も、全部食べさせてくれるのだけど。
メリダさんからは「やれやれ」って感じのため息が漏れるけど、指摘はされない。ちょっと視線が合うと、目を細めて微笑んでうなずいてくれる。
これは、思う存分甘えてていい、ってことかな。やっぱりメリダさん、俺には優しい。
自分の手を使わない食事を終わらせて、食後のお茶を飲み始めたあたりで、オットーさんとザイルさんが戻ってきた。
クリスは二人に向かい側のソファに座るよう促し、メリダさんは座った二人の前に淹れたてのお茶を出す。
「ザイル」
「はい。魔法師の数が少なくなったのは、大体三十年ほど前からです。そのあたりで、大規模な掃討戦が行われ、平民出自の魔法師が五名亡くなっています」
クリスの指示に対する報告だった。
午前中に調べてたんだ。
「以降、平民からの申告が減っています。ですが、年に数人の不審死がでてました」
「不審死……魔力暴走か?」
「記録を見る限りでは、そう考えるのが妥当かと」
そこまで聞いて、クリスは顎に指を当てて考え始めてしまった。
横顔は酷く真剣。頭の中で考えをまとめているような、そんな雰囲気。でもすぐに、ザイルさんに視線を合わせる。
「ザイル、報告書を。兄上に相談する。俺一人で動いてどうにかなる案件でもなさそうだ」
「至急用意します」
ザイルさんはお茶を飲みきってから立ち上がり、部屋を出ていった。休憩短いけど大丈夫かな?
クリスは天を仰ぎ見て、息をついてから、俺を見た。
「始めるか」
頬に手が添えられて、そのままキスが降りてくる。舌が入り込んでくれば、湿った音は出るし、吐息が漏れてしまう。
目の前のソファにはオットーさんがいるし、メリダさんもいるし、恥ずかしくないわけじゃない。けど、それ以上に気持ちが良くて拒絶することはできない。
「ん……」
俺の喉が鳴ったのを確認して、クリスの唇が離れた。
193
お気に入りに追加
5,486
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる