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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。

28 頑張ったな、って褒められた。

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 優しい夢を見た。

「アキ」

 大きな手で頭をなでてくれる。
 額に口づけられる。
 それから、唇に、キスをしてくれる。

「頑張ったな」

 …って。
 また、頭を撫でてくれる。
 手を伸ばしたら捕まえてくれた。
 やだ。
 行かないでほしい。

「ん…」

 口づけ。
 乾いた地面に水が染み込むように。
 俺の中が満たされていく。
 身体の中がポカポカで、心地がいい。

「おやすみ」

 また、額にぬくもり。
 口元に、笑みが浮かんでしまう。
 ああ。
 やっぱり、大好きだ。





「ん……」

 ぐいーっと伸びをした。
 よく寝た…って思ったけど、窓の外がまだまだ明るい。

「目が覚めました?」
「あ、はい」
「紅茶でよろしいですか?」

 って、メリダさんが準備を始めてくれる。

「……あれ?」
「アキラさん?」
「………もしかして、クリス、来てた?」

 ……だって、言葉がわかる。
 メリダさんはにこりと微笑んで頷いた。

「ええ。どうしてもアキラさんに会いたいから、と」
「…起こしてくれればよかったのに…」
「とても気持ち良さそうに眠っていましたからね。幸せそうに見てましたよ。アキラさんの寝顔」

 それは…それで、恥ずかしい。

「あ、そうでした。今のうちに、ちょっとよろしいですか?」

 メリダさんが、隣の部屋に促してくれた。

「あ、じゃあ、紅茶も向こうでいただきます」
「はい。わかりました」

 メリダさんはポットやカップをワゴンに移すと、隣の部屋に向かった。

「…あれ?」

 そこにいたのはオットーさんじゃなかった。

「えと…」

 よくオットーさんと一緒にいる人。

「アキラさん、あー、オットーから聞いているので、『さん』と呼ばせていただきますね。殿下直属の兵士団副団長の任についているザイル・リクシーと申します。昼からは私がオットーと交代することになりました」

 ……ああ。だから、『今のうちに』なんだ。
 クリスの魔力効果がある間に自己紹介とかすませないと、今のザイルさんの台詞、ほぼほぼ理解できなかっただろうから。

「アキラです。よろしくお願いします。あの……クリスは」
「殿下はこちらに残りたいと仰られてましたが、すみません。オットーが無理やり連れていきました」

 これには笑うしかない。
 仲がいい…とは、ちょっと違うか。



 『最も信頼できる者達』



 以前、クリスはそう言っていた。だからこその容赦のなさ。

「さ、紅茶をどうぞ。ザイルさんも」
「いただきます」
「私にまで…。ありがたくいただきます」
「そうそう。アキラさん、小さな子供向けですが、絵本をお持ちしたので、それを読んでみてはどうでしょう」

 なるほど。絵本なら文章も短いし、簡単な言い回しを理解しやすいかも。

「はい。読んでみますね」
「わからないところは私がおおし――――」

 紅茶を飲む手が止まった。
 うん。わかってる。
 時間切れ、だ。
 俺の反応を見て、メリダさんも理解したようで、苦笑しながら頷いた。

 紅茶と、クッキー。
 3時のおやつだね。
 クッキーを食べ終わったあたりで、メリダさんは一冊の本を手渡してくれた。

 うさぎのような動物が表紙になっている絵本。
 内容は…うさぎの男の子が冒険にでて、魔物と戦いながら、うさぎのお姫様と結ばれる、というもの。
 …あえてうさぎなのか。まあ、可愛いけど。
 それほど厚みのない絵本を、一文字一文字、確認しながら読みすすめる。
 声に出して読むから、すぐに訂正が入ったり、わからない単語を教えてくれる。
 ザイルさんもゆっくり話して、魔物退治のところなんか、寸劇まで見せてくれた。
 そんな風に楽しんでいたから、覚えるのも早い。
 短いとは言え文章の構成だとか、会話的な言い回しだとか。
 何度も声に出したおかげか、発音にも慣れてくる。

『発音が綺麗になりましたね』
『はい』

 そして2冊目にとりかかった。
 …これも登場人物がうさぎ。でも別に、シリーズもの、ということでもなさそう。2冊目のうさぎは魔法使いになりたいらしい。
 一冊目と同様に読みすすめる。
 かなり夢中になっていたようで、メリダさんがランプに明かりを入れて、カーテンをひいたのをみて、陽が落ちたのに気づいた。
 それから、部屋にノックの音がする。

『はい』

 俺が返事をして、メリダさんが開けてくれる。そこには、ザイルさんと同じ騎士服を着た人がいた。
 ザイルさんはその人のところに行くと、何やら早口に話し始めた。んー…その早さはまだ俺には聞き取れない…。ただ、『殿下』ってところだけは、聞こえた気がする。
 その人はザイルさんと話して戻っていった。

『殿下が、夕食は先に食べていてほしい、と』

 一言一言、ゆっくりと、丁寧に。
 言われた内容は昼と一緒だ。そして、オットーさんと同じように申し訳なさそうな顔をするザイルさん。

『わかりました』

 顔、普通かな。こわばったりしてないかな。

『アキラさん、夕食をお持ちしますね。ザイルさんもご一緒に』
『おねがいします』
『ありがとうございます』

 その後はしばらくザイルさんと二人で絵本を読みすすめる。
 途中、ザイルさんがぽんっと手を打った。

『?』
『明日は、魔法の勉強を、―――どうですか?』
「!」
『――――であれば、魔物のことも勉強できますし』

 ところどころわからない言葉が入っていたけど、ザイルさんが言おうとしてることは理解できた。
 魔法を学ぶならクリスがいないとならない。魔物のことなら、あの執務室で教えてもらえる。……つまり、クリスの傍にいれる、ってことで。

 手放しで喜びそうになって、踏みとどまった。

『クリスに、聞いてから………キメマウ?』
『決めます』
『きめます』

 二人でうんうん頷いて、笑いあった。
 その後、夕食は三人で囲み、お昼同様楽しく食べた。

 ここにクリスがいないことに、寂しさは感じたけど。周りの人が優しくて、あったかくて。本当に、心から感謝した。


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