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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
15 どうやら婚約者として認められてたみたいです。
しおりを挟む時間が経つと呼吸は少し整ってきた。
クリスは気づいているようで、俺を抱きしめたまま、離さないでいてくれる。いろんな人が見てるけどね!
もうそろそろ終わろうよ…と思っていたら、また、レイなんちゃらさんの怒鳴り声が…。
「陛下、そんなことはありえません!!報告も何もあがってきていない…四属性を操るなどと、戯言にすぎない。殿下の魔力を増幅させただけの偽物であります!!」
「ほう」
…一気にクリスの怒気が高まった。
「レイランド殿、陛下がお認めになられた私の婚約者が、偽物魔法師だと、そうおっしゃいますか」
一触即発ってこんな感じ?
そういえば、この謁見が始まった頃に色々言ってた宰相さんは、すっかり空気だ。
「いいことをお伝えしましょう。私の婚約者は無詠唱にて魔法を発動させます。長い詠唱は時間ばかり使って効率的ではないと言ってましたが、魔法師の方々はどうお考えでしょうか?」
言ったけど、こんな感じだったっけ?
俺が使うには恥ずかしすぎるだけ、ってことだったと思うんですけど。
「どこまでも我らを愚弄するか…!!」
頭に血が上りやすいタイプなんだろうな…って思っていたら、事態が急変した。
「我々とて無詠唱で魔法を使うことくらい容易いわ…!!」
…って、叫びながら、杖を振りかざした。え。それ振り回すのやばくない?
部屋の中が騒然とする。
俺は何が起きてるのかすぐには理解できなくて、杖の先から生まれた火球が、真っ直ぐ俺に向かってくるのを避けられなかった。
「っ!!」
熱さを覚悟したのに、俺に届く前に火球は霧散した。……クリスが自らの血を纏わせた剣で叩ききって。しかも、お兄さんまで、俺をかばうように前に出てて、右手は剣の柄を握ってる。
不謹慎だけど、クリスが格好良すぎて心臓が跳ね上がって、剣に纏う血が結構多いことに気づいて顔から血の気が引いた。
「クリス…怪我…!!」
「アキ、動くな」
クリスに近づこうとして、固まった。
「これは一体どういうことか、レイランド殿。私の婚約者に向かって魔法を放つなど」
「……はっ。魔法師だというのであれば、あれくらいの火球、すぐにでも対処できるでしょうに」
この人、馬鹿だ。
なんでこんなくだらないことで、クリスが怪我しなきゃならないんだ。
「……くだらない」
「アキ?」
「魔法への対処なんて、そんなもの知らないよ。けど、貴方がクリスの怪我の原因ってことはよくわかる」
…なんだろう、これ。
熱い。胸の中が熱い。
多分、これは魔力。渦巻いて渦巻いて……、ゆらゆら、揺れる。
あの男はクリスを傷つけた。結果的に傷つけた。
俺にとってそれは許しがたいこと。
クリスは俺のものなのに、傷つけた――――
「アキ!!」
「アキラ!」
突然クリスに抱きしめられた。
力一倍、手加減無しで。
「俺は大丈夫だ。こんな怪我すぐ治る。気を落ちつけろ。暴走する」
「…だって、クリス、あの人」
「問題ない。全て、陛下が処断してくださる」
「でも」
「アキ」
右手だけで頬に触れられた。左手からはまだ出血してる。足元に、ポタポタ流れ落ちてる。
「クリスが傷つくのは嫌だ!!」
まるで小さな子供のようだと感じた。
大丈夫だと言われてるのに、納得できなくて、怖くて、悲しくて。感情がコントロールできなくて。
「クリス……クリス…っ」
「落ちつけ。頼むから…アキっ」
「…………クリス?」
「魔力を鎮めるんだ。これ以上は何も起こらない。だから、お前ももう魔力を使うな」
懇願のように。祈るように。
…クリスが、大丈夫、って、言ってる。
「……クリス」
「そうだ。俺はここにいるから」
「…くりす」
口づけられた。
欲しかった、温かいもの。
それに安堵を覚えて…体から力が抜けた。
そしたら、胸の奥でくすぶっていた熱いものも、すっと消えていく。
「は……」
かわりに、息苦しさに襲われる。胸が痛い。つらい。助けて…っ!
胸をかきむしっていたら、手を掴まれた。
それから、またキスをされる。
舌が絡み流れ込んできた唾液を飲んだら、少し、苦しさが楽になる。
「くりす……」
「大丈夫」
抱きあげられた。
左手、血は止まっただろうか?
頭が重い。
身体もだるい。
周りが騒がしい。
喚いてる人がいる。
「静まれ!」
凛とした声が響いた。
あんなに騒がしかった周囲が、水を打ったように静まり返る。
「クリストフ、ギルベルト以外の者たちは退室を!レイランド、お前には三日間の謹慎を申し渡す」
「な…」
「デリウス、レイランドを連れ退室せよ」
「………かしこまりました」
状況がわからない。けど、人が動いてる気配はしてる。
しばらくしたら、自分の呼吸音しか聞こえなくなった。
「くりす…?」
「苦しいか?」
「ん…、さっきより…いい」
なんとか笑って見せたら、クリスがどこか泣きそうな笑みを見せた。
「ギルベルト、クリストフ」
すぐ近くで声がして、視線を流していくと、目の前に陛下がいた。
「陛下」
「今は正式な場ではない」
「……父上」
「スギハラ殿の様子はどうだ?…この後、三人を招いて夕食を摂ろうと思っていたんだが…」
「アキラがこの状態では無理ですね、父上。…意識を保っているのが不思議なくらいです」
お兄さんの声。
あれ?俺って、そんなにか弱い認定されてた?
「あの…くりす、おれ、部屋でやすむから、いってきて…?」
「変な気を使うな。お前が部屋に戻るなら、俺も一緒だ」
「ん……」
額を重ねられた。なんとなく、嬉しくなる。
「父上、申し訳ありませんが、食事は……」
「明日でもいいよ。今日はすまなかったね。…アキラ、と呼んでも?」
小さく頷いたら、陛下は微笑んだ。
「ありがとう、アキラ殿。クリストフ、あれが魔力暴走か?」
「そうですね。今回は規模が小さく魔力嵐も起きませんでしたが」
「ふむ…なるほど。それで、アキラ殿のこの状態は?先程みせてもらった水の魔法の直後にも様子がおかしかったが」
「アキは魔力を操ることに慣れていないので、その反動だと考えてます。魔法の行使に体力がついていかないのだと」
体力ない、ってことですか。
「今回のことは…咄嗟のことで俺も加減ができなかった。だから、余計にアキを刺激してしまったんでしょう」
すみませんね。感情コントロールできなくてっ。
口に出したわけじゃない。
けど、表情にはでていたみたいで、クリスに笑われた。
「俺のために怒ってくれて嬉しかったから、気にするな」
って、また、額がコツンと触れ合う。
離れ際に見たクリスの表情が硬い。
「…父上、婚約の件、ありがとうございました」
「お前が何を言いだすかは、ここに入ってきた時点でわかっていた。これだけ自分の色に染めて自己主張していればな」
色ってすごいね。
クリスは少し笑ってから、表情をかえた。
「父上、兄上、アキの熱が上がっているので部屋に戻ります」
あ、やっぱり。
なんか熱いとは思ってたけど。
「ああ。すまなかったな。休んでくれ」
「アキラ、後で甘いものを届けさせるよ」
お兄さんの言葉に、笑って頷いた。
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【公開日2018年11月2日】
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