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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
0 届けられた書状
しおりを挟む「どうやらスライムは問題なく退治することができたようだ」
「おお、それは喜ばしいことでありますな」
エルスター王国王城の執務室。
早馬で届けられた王太子ギルベルトからの書状を読みながら、国王であり父であるカルディス・エルスターは、同室にいる宰相ゲラルト・デリウスにその内容を伝えた。
「ふむ……」
それを読んでいたカルディスの表情が変わるのを、ゲラルトは討伐成功の祝賀会として開くことになるだろう夜会について考えながら見ていた。
――――陛下の耳にも届いている。次の夜会でヘルミーネをエスコートしている姿を見れば、陛下のお心も決まるだろう。
己の仄暗い内心は隠しながら、ゲラルトは目の前のカルディスを、見続ける。見る者が見れば、その視線は臣下のそれではないと進言したかもしれない。
「ゲラルト、スライム討伐の折に魔法師が見つかったようだ」
「魔法師…ですか?タリカ村に届け出なかった者がいたということでしょうか」
「いや、どうやら異国の者らしい。クリストフが保護したとある」
「……クリストフ殿下が?」
ゲラルトの表情が僅かに動いた。
「異国の魔法師が、何故この国に?他国の間者である可能性が高いのではないでしょうか。今回のスライムも、その者の手による事だとも考えられますが」
カルディスもその言葉には頷いた。
「私もそう感じたがな」
そう応え、再び書状に目を落としたカルディスを見て、ゲラルトは不審な目を向ける。
「ギルベルトはそうは思っていないようだ」
「……聡明な王太子殿下ともあろうお方が……」
「どうやら、クリストフがその魔法師を見初めたらしい」
「は?」
「黒髪黒目の魔力の高い魔法師の少年だそうだ。まだ幼さがあるが見目もよく、人柄も好ましいと書かれている。……間者ではない、と、断言すらしている」
カルディスは冷静にその書状を眺めていた。
――――あのクリストフが見初めた少年か…。早く会ってみたいものだ。
父から子にむける信頼は確かなもので揺るぎない。その二人が、この少年は間者ではないと判断したのだから、カルディスもその少年についての疑いはなくなった。
ただ一つ、クリストフの心を動かしたらしいその少年が気になっている。
「ここに連れ帰るそうだ。早く会ってみたいものだな」
穏やかにそう告げるカルディス。
そんな主君の様子とは裏腹に、ゲラルトの内心は嵐のように荒れ狂っていた。
――――見初めた、だと?
「……ええ、そうですね。帰城されたらすぐにでも陛下にご報告していただきたいものです」
――――認めない。認めるわけがない。殿下には娘を妻にしてもらわねばならない。もうすぐそこまで手が届いていたというのに。
「魔法師…ということであれば、ブルーノにも意見を聞く必要があるな。魔法師長である彼なら、少年の力量もわかるだろう」
――――ああ、そうだ。レイランドがいるではないか。その少年を軍属魔法師にさえできれば、あとはレイランドがどうにかするだろう。いなくなったことを問われても、殿下にはどうとでも説明ができる。
「ええ。レイランド魔法師長であれば適任でしょう。その者が本物かどうかも見極められます。そして本物の魔法師なのであれば、軍属にするのが、よいかと。現在我が国では魔法師が不足しておりますから」
「ああ。たしかにそうだな」
カルディスはその意見に同意した。
他国との争いはないだろうが、魔法師の減少は国力の低下にも繋がる案件だった。
このまま減少が続けば、万が一他国からの侵攻があっても、防ぎきれない可能性がある。
他国からの侵攻のみならず、国内での魔物討伐に関しても苦戦を強いられることが多くなる可能性すらある。今回の、スライム討伐のように。
国民の平和な暮らしを守るためならば、今回保護された少年は軍属とするのが正しい…と、カルディスは考える。
しかし、それと同時に、クリストフが見初めたのだから、任せてしまってもいいのではないか、という思いも過る。
「まずは会ってみよう」
「ええ。レイランド魔法師長には、私から連絡を入れておきますので」
「ああ、頼んだ」
カルディスは書状を封筒に入れ直し、執務机の引き出しに片付けた。
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