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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
45 元婚約者候補が襲来しました。
しおりを挟む目が覚めたらクリスの部屋だった。
なんでここで寝てたんだ…って思いながら起き上がり、寝起きで働かない頭の中を整理する。
今日はクリスから、魔法について教えてもらって、午後からは魔物のことを教えてもらった。
魔物はどちらかというと、神話とかそっちがベースな感じだった。
魔物の本を見ながらクリスに意味不明な感心をされて……、なんでか仮眠室で抱かれて。
「あ」
思い出した途端顔が熱くなった。
この部屋でならまだしも、クリスの仕事場でしてしまうなんて。
「ううう」
最後の方なんて、自分から「もっと」って言ってた気がする。
だめすぎる。ちゃんと抵抗できるスキルを身に着けないと、恥ずかしさで死ねる…。
盛大なため息をついてから窓の方に視線を流した。空は暗くなってきている。
「どれくらい寝てたんだろ…」
夕方、なのかな。
テーブルの上のランプをつけた。部屋の中はすぐに明るくなる。
椅子にかけられていたベストを着なおして、ブーツを履いて部屋を出た。居間の方には誰もいなくて、廊下に出る扉を開けたとき、すぐ側に立っていた人が俺を見た。
「アキラさん」
その顔には見覚えがあって、尚かつ制服はよく知ってるクリスの直属の人たちのもの。
「えっと」
「ディックと言います。よろしくお願いします、アキラさん」
「ディックさん…ですね」
「はい。アキラさんはこれからどちらに?」
あまり深く考えないで部屋を出たけど、まずかっただろうか。
「えと…クリスのとこに行こうかな、って」
「ああ。では行きましょうか」
ディックさんはニコリと笑うと、俺を促してくれた。よかった。怒られなかった。
クリスの執務室までの道のりは覚えたけど、護衛さんってことだよね?ディックさんは俺と並んで歩き始めてくれた。本当なら後ろからとかなんだろうけど、話しやすくてこの方がいい。
「クリス、仕事終わったかな…?」
「そうですね…恐らく、そろそろ終わる頃ではないかと」
ディックさんは、そう答えながらも、周囲に素早く視線を流している。身体からは緊張感が漂っているのに、答える声は優しい。
「そういえば、団長から聞いたのですが」
「はい?」
「アキラさんはいずれ我々の団に所属されるとか」
「あ」
そんな話したなぁ。
どこかに所属するなら、絶対クリスのとこがいい。
「もしかしたら、かな」
「いつでも歓迎しますよ」
嘘かホントか。
ディックさんのニコニコ顔からは、本心はわからなかった。
「その時はよろしくお願いします」
まあ、いいや。素直に受け取ろう。
俺も笑って返すと、ディックさんも嬉しそうに頷いてくれた。
それから少し話して角を曲がったとき、廊下の少し先に見慣れた姿があった。
嬉しくなってかけだそうとしたとき、ドレスを着た綺麗な女性と話しているのに気づいた。
自然と、歩く速さが遅くなる。
ディックさんは何も言わずに、俺の一歩後ろについた。
よく見ると、女性は笑顔なのに、クリスの表情は……なんというか、見たことないもので。口元にだけ薄っすら笑みを浮かべていて、目は全く笑ってない。むしろ、怖くなる視線。
声をかけるべきかどうか悩んでしまったけど、迷ってるうちにクリスの後ろに控えていたオットーさんと目があってしまう。
オットーさんが頷くと、クリスも気づいたようで、俺を見た。
「アキ」
その途端、甘い笑顔を向けてくれる。さっきまでの表情は何だったの…って言いたくなるほどの変わりっぷり。
「えーと…ごめん。そろそろ仕事終わったかな、って、思って…」
「ああ。さっき終わったところだ。夕食にしよう」
クリスは自然に俺の肩を抱き、女性の方を向いた。
「ヘルミーネ嬢、こちらが私の婚約者であるアキラ・スギハラです」
一瞬、刺さるような視線を感じた。
「そう…この方が。父から伺っております。とても優秀な魔法師殿であると。――――ヘルミーネ・デリウスと申します。スギハラさま」
デリウス、って、宰相の娘さんってこと?
「あ、えと――――」
「本来であれば私が殿下の婚約者となるはずでしたのに…。貴重な魔法師を留置くためにこのような手段をとられるなんて」
え?
なに、どういうこと?
「ヘルミーネ嬢、何度もお伝えしていますが、貴女を婚約者にと望んだことはありません」
「そうでしょうか?何度も夜会にお連れくださったのに。殿下の手のぬくもりを私は忘れたことがございません。またいつでも私をお召くださいませ」
「ヘルミーネ嬢」
「……あら、私としたことが。申し訳ありません、殿下。このような場所でお話することではありませんでしたわね…。スギハラさま、どうかお許しくださいな」
ヘルミーネさんの口元が、笑みを形取る。
…背筋に、何か嫌なゾワっとしたものが走った。あ、あれだ。魔法師長が浮かべていた笑みに似てる。
「アキ、行こう」
「…ん」
俺の肩を抱くクリスの手に力が込められ、そのまま抱きあげられた。
「もう直、陽が落ちます。ヘルミーネ嬢、早く帰られたほうがいい」
「まあ…!私のことを案じてくださいますのね。お優しい殿下。ご心配をおかけしないよう戻らせていただきます。殿下。失礼いたします。またお伺いいたしますわ」
ヘルミーネさんは優雅に挨拶をした。
クリスはそれに答えずに、俺を抱きかかえたまま部屋へ向かって歩き始めた。
「オットー、ディック」
「はい」
「あとはいい。戻れ」
「……は」
クリスの声が硬い。
すごくイライラしてる。
二人もそれは感じているようで、特に反論することなく、立ち止まり頭を下げていた。
「クリス」
「早く二人になりたい」
「…ん」
クリスは宣言どおり早足で廊下を進んだ。
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