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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。

39 クリスの腕の中で属性の確認中です

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「体の力を抜いて。アキの身体の中に流れ込んだ俺の魔力がわかるな?」
「……ん、わかる」
「魔力の感覚を覚えるんだ。俺の魔力と混ざり合うアキの魔力があるから」





 多分、一時間くらい寝た。
 起きたらクリスは執務机に向かっていて少し険しい顔をしていたけど、俺に気づくと表情を和らげて一緒にソファに座った。

 オットーさんはすぐに紅茶を用意してくれて、ミントの香りにしっかり目が覚めた。

 それから、クリスはソファの上に横向きに座り、左足は立てた状態でソファの上にあげて、足の間に俺を座らせた。
 この位置は少し恥ずかしい…と思っても、拒むことはしない。器用に後ろから唇を重ねられても、抵抗もしない。だって、気持ちがいいから。
 俺の喉がコクリと鳴ってから、クリスは唇を離して、右手を俺の目元に当てた。後ろから抱きしめられるように、言葉は耳元でゆっくりと紡がれて、今のこの状況。





 体の中に流れ込んできたクリスの魔力を、ひたすら感じるように意識を集中する。
 いつもの身体がポカポカするやつ。これが、クリスの魔力で間違いなくて。優しくてあったかくて、俺のことをすっぽり包み込むような、そんな力強さも感じるもの、クリス以外に考えられない。

「アキ、肩に力が入ってる」
「ん…」

 目元を覆うのは、その方が集中しやすいだからだそうだ。
 俺はひたすら嬉しいだけだけど。

「……俺の、魔力、多分、これ」

 クリスの魔力に沿うように流れるものがある。絡んで、溶けて、色が変わる。……俺の心情そのままなような気がして恥ずかしい。

「休憩しよう」

 クリスの手が離れて瞼を上げると、クリスが覗き込んできた。

「薄い…青、か」

 指が目元を撫でる。

「気分は?」
「ん……大丈夫。どこも怠くない。でも、なんか緊張してたぽい」

 休憩と言われて、全身から力が抜ける感じがしたから。多分、緊張してたんだろうな、て。

 テーブルに置かれたカップに手を伸ばしたら、くらりと少しだけ目眩がした。ちょっと息をついて整えれば、問題ない。
 ただ、クリスにはバレてしまうから、ちょっと心配そうな目を向けられた。
 大丈夫、っていうかわりに、背中をクリスに預けてしまう。
 …うん、安心感半端ない。

 一口大の砂糖菓子を口に放り込んで甘さを堪能したら、休憩終わり。

「それじゃ、もう一度」
「ん」

 クリスの手が、また俺の目を覆う。その手の下で瞼を閉じて、俺の中の魔力を探す。
 …うん、やっぱり「これだ」って感覚がある。
 ただ、不安定な感じ。蔦が支柱を探してるような?……ああ、クリスの魔力が俺の中に溶けたからだ。
 でも、いつまでもクリスに頼っていられないんだよ。俺自身がちゃんと使えるようにならないと、クリスを守れないんだから。

 そう「自分」に言い聞かせる。
 そしたら、なんとなく身体の周りが、ふわふわしてきた。
 苦しくない。温かい。

「アキ」

 耳元の、大好きな声。

「魔力が漏れてる。少し抑えるんだ」
「…おさえる?」
「そう。ほんの少しだけ蓋を開けるだけでいい。あまり大きく蓋を開けていると、使われない魔力が外に漏れ出るだけになる。体力を消耗するだけだから」
「ん……」

 蓋。…蓋?
 …えーと、魔力が湧き出るものが仮に壺…鍋でもいい、とにかく器があって、そこに蓋をかぶせていく。完全に閉じるわけじゃなくて、ほんの少しだけ開けておく。
 そんなイメージ?

「うーん……」

 なんとかイメージしてみる。
 そしたら、ふわっとしていたものが引っ込んだ。

「アキ、それじゃ完全にしまってる」

 クリスの苦笑気味の声。
 おっと。少し、少し、開けなきゃ。

 眉間に力が入る。少し頭が痛い。
 多分、これが魔力制御ってことなんだろうけど、蓋のイメージが難しい。
 壺とか鍋とかがだめ?何か、俺がイメージしやすいやつ……あ、蓋じゃないけど、蛇口は?
 制御は蛇口。魔力は水。蛇口を少し開いて、水がちょろちょろ出るように。

「――――ん。それでいい。そのまま」
「蛇口効果凄い」
「ん?」
「独り言!」

 耳元でクリスが笑う。
 ちょっとくすぐったい。

「魔力はそのまま。辛くなったら『閉じて』いいから」
「うん」

 クリスの手が離れた。

「俺の方を向いて、目を開けて」

 言われるとおりに向きを変える。
 閉じっぱなしだった目に光が入り込んで、少し眩しく感じる。

 クリスは改めて俺の腰に腕を回してきた。

「魔力は――――いいな。維持できてる」
「なんとか、かな」
「十分だ」

 こつん、と、額が重なった。

「次はその魔力に属性を与える。アキ、火を思い浮かべて。放出はしなくていい。内側の魔力に色を付けるように」
「火……なら、赤……?」

 ゆらゆら揺れるローソクの火のようなものを。身体の中に流れる魔力が、炎となるように。

 クリスは額を合わせたまま俺の瞳を覗き込んでいる。
 そして小さく頷く。

「赤だな。アキ、そのまま、今度は水を」

 続けてイメージってことね。
 水はわかりやすいから大丈夫。

「淡い青……いや、水色か」
「もしかして目の色?」
「ああ。アキは水のイメージはしやすいようだな」
「うん。そうみたい」

 クリスは頷いて…、それから次々に「色」を指定していく。
 火、水、風、氷…は、前に使ったもの。他にも色々指定されて…、終わったときにはかなり息が上がっていた。

 全身から力が抜けて前のめりに転がりそうになったところを、クリスが抱きとめてくれた。

「すまない。無理をさせた」
「ん……」

 首を横に振る。大丈夫。まだ大丈夫。

 何度か深呼吸をしていると、顎の下にクリスの指がかかった。くいっと顔を持ち上げられて、目を閉じる。唇に、予想通りの感触。しっかりと重なって、口の中に紅茶が流し込まれる。

「ん…」

 飲み込むと、すぅっと身体の中にクリスの魔力が入り込むのを感じた。前よりももっと強く感じることができる。ポカポカして温かいのはいつもどおり。でも、暴れ気味だった俺の魔力に、クリスの魔力が絡んで――――溶けた。
 今なら開きっぱなしになってしまった蛇口を、閉じることができそう。
 クリスの魔力に手伝ってもらって……、ふ…っと、身体が軽くなった。

「魔力を閉じたか」
「ん……できたみたい」

 俺の瞳を覗き込んで、クリスが微笑んだ。

「俺と同じ色だな」
「え」
「アキがしっかりと俺の魔力を意識したのか」
「え、鏡、鏡を見せて…!」

 クリスと同じ瞳の色……って、めちゃくちゃ見たい!!

「……ああ。時間切れだ」

 クリスは笑いながら目元をなでてきた。
 時間切れ。つまり、黒に戻った、ってことですね…!

「うう…次からは手鏡持ちながらやるっ」

 本気で悔しくて呟いたら、クリスだけじゃなくてオットーさんにも笑われた。「用意しておきますね」って言葉と一緒に。

「そろそろ昼の時間だから。アキ、ここで食べるか?」
「えっと……昼からは俺、何したらいい?メリダさんに予定聞いてない。クリスの邪魔にならないなら、ここにいたい、けど…」

 仕事の邪魔になるようなことはしたくないから。
 クリスはくす…って笑うと、俺の目元を何度も撫でていく。

「邪魔にはならない。疲れたらいつでも向こうのベッドを使ってくれていい。アキが残ってくれるなら、少し確認したいことがあるんだ」
「確認?魔法の??」
「いや。魔物のことだな」
「うん。わかった」

 魔物の確認。何をするんだろう。
 あ、でも、そしたら、今日の魔法の勉強は終わり、ってことかな。
 んー…、あの感覚、忘れないように一人でもやってみていいかな。

「アキ」
「なに?」

 額に、キス。

「無理はだめ」

 あ、はい。
 なんか、考え読まれたぽい。
 流石クリスです…。


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