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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
27 共通語習得が目標です!
しおりを挟むメリダさんが子供用の文字表を用意してくれた。
懐かしい。どの世界にもこういうのあるんだ。
基本の文字はアルファベットよりもちょっと多い30文字。そしてこれは共通語と呼ばれるもので、大体どの国でも通用するらしい。
文法的には、日本語と似てる。
英単語を日本語の文法で表記しているような感じか。
一文字一文字、書き方と、発音の仕方。
ただ、発音の仕方は、難しい。
クリスの魔力効果で話せてしまうから、どう発音されているのかが今一ピンとこない。
これは課題だ。そのうちどうにかしよう。
「ええ、文字は、そう…、そこはもう少し丸く」
メリダさんはつきっきりで見てくれている。その都度指摘してくれて、とてもわかりやすい。
「アキラさん、文字を覚えるのが早いですね」
「そうですか?」
「ええ。それでは、単語にも入りましょう」
単語…一気にハードルが上がった。
「身近なところから入るのがいいですね…」
メリダさんは少し考えてから、いくつか言葉を書き始めた。
「いつもアキラさんが使っている挨拶の言葉です」
なるほど。
メリダさんが書いてくれた言葉の下に、日本語でそれぞれ意味を書いた。
「その文字は…?」
「あ、俺の国の言葉です」
「そうなのですね。あとは、朝、昼、よ――――」
「メリダさん?」
途中から聞き取れなくなった。
これは、もしかして。
「メリダさん、俺の言葉わかります?」
メリダさんは首を傾げ、困ったような顔だ。
「あー………、これ、あれだ。クリスの魔力切れ…」
最近なかったから油断してた。
切れて当然か。
昨夜も沢山抱かれたし、今朝も口移しで水を飲ませてくれたけど、もう何時間も経ってる。
「えっと……」
とりあえず落ち着こう。
メリダさんを見ながら、カップを持ち上げて飲む仕草をしてみる。そしたら、ぽんと手を打って、頷いたメリダさんは部屋を出ていった。
休憩してから、なんとかしよう。
文字を覚えたばかり。
単語も、挨拶程度を書き始めたばかり。
「あ、そっか」
クリスの魔力が切れてるこの状態なら、発音の練習ができるんじゃない?
それは名案ではなかろうか。
「何事も前向きに!」
クリスの魔力って便利というか、都合良すぎるというか…。少なくても、俺にとって、だけど。
あ、でも、俺にするように誰かに魔力を与えたことがあるなら、それはそれで嫌だな、とか。
「堂々巡り。思考止め」
一度、頬を叩いて気合を入れ直し。
よし。切り替えたっ。
ジェスチャーってすごい。ボディーランゲージ、万国共通で助かった。
『オハヨゴザマス』
『おはようございます』
『オハ…ヨウ』
『ございます』
『ゴザイマス。…オハヨウゴザイ…マス?』
『はい』
俺がお願いしたティータイムは、ちゃんと伝わっていた。
メリダさんが用意してくれた紅茶を飲んで一息つき、勉強再開。
メリダさんが書いてくれた言葉を指差して、なんとなく発音してみたら、メリダさんもわかってくれたらしい。
俺が聞き取りやすいように、ゆっくり、ゆっくり、発音してくれる。
それを何度も繰り返す。
挨拶の言葉、朝、昼、夜、食事。それから、部屋の中の家具とか物品の名前。
書いて、発音して、それから少し、文章にする。
気分的には、『それはペンですか?』『これはペンです』みたいな文章だけど、ゼロからスタートで、とにかくとっかかりがほしいから。なんでもいい。とにかく慣れなきゃ。
『アリ…ガト?』
『ありがとう』
『アリガトウ』
それなりに発音できていれば、微笑んで頷いてくれる。
部屋の中を二人でウロウロしながら、書いて、発音して、直してまた発音して。
…疲れないわけがない。
しばらく繰り返してるうちに、疲れ切って椅子に座り込んだ。体力より、精神的に疲れる。…英語のリスニング、もう少しちゃんとやっておけばよかったかな。
「うお…しんどい」
『アキラさん、――お昼――食事を――』
…ところどころ聞き取れる。
すごい。
頑張ってる。俺の学習能力…!
お昼、って単語を聞いて、もうそんな時間なのかと窓の外を見た。
太陽は…真上にさしかかって……いる、のかな?よく見えん。
でも、お腹の空き具合を考えると、多分お昼の時間なんだろう。
『オネガシマス』
『おねがいします』
『オネガイシマス』
『はい』
メリダさんは疲れないのかな。
お昼は…、クリス、どうするんだろう?
帰ってきてくれたら、嬉しいけど。
暫くしてノックの音。
『ハイ』
返事をすると、メリダさんが顔を出す。
でも、部屋には入らず手招きされた。
なんだろう…と思いつつ、隣の部屋に向かう。そしたら、オットーさんが苦笑しながらそこにいた。
「オットーさん?」
『殿下―――昼―――』
凄く申し訳なさそうに、オットーさんが話し始めた。メリダさんと同じくらい、ゆっくりと。
……ああ、クリス、戻ってこれないんだ。
全部聞き取れなくても、なんとなくわかった。
曖昧に笑って頷いたら、オットーさんも眉尻を下げて頷いてくれる。
『アキラさん、お昼――――?』
えーと、メリダさんが、俺と、オットーさんと、自分を指差して、食事が乗っているであろうワゴンを指差した。
あ、一緒に食べよう?ってことかな。
『ハイ』
ちゃんと笑えた。
メリダさんもオットーさんもほっとした様子で、食事を並べ始めた。
メリダさんが俺を居間の方に呼んだのは、向こうが寝室だからなのかな。侍女のメリダさんは入っていいけど、そうじゃないオットーさんは……というか、護衛の人は、ってくくりなのか、そういう人は入っては駄目とか。
…まあ、寝室にメリダさん以外の人がずかずか入ってくるのは、俺もあまりいい気がしない…。
食事が用意された応接用のテーブルを、3人で囲んだ。
『イタダキマス』
『いただきます』
カトラリーの名前を確認、料理の名前を確認。更に、食べ方、順番、音、所作。覚えることが多すぎる……!
「うあああっ」
思わず天井を仰ぎ見たら、二人に笑われた。わかってるよ。頑張るよ!行儀悪くてごめんなさい!今だけ見逃して!!
覚えることは多いけど、美味しさは変わりないし、なにより一人じゃない。
雑談ができるレベルじゃないけど、少しずつ、聞き取れる。
ジェスチャーを交えながらの昼食は楽しかった。
そして満腹になると眠くなる。
あくびが止まらない。
『アキラさん、――休み――――ベッドで――?』
少し休んだら。ベッドで横になったらいい。
多分、そんな内容。
『ハイ』
オットーさんに頭を下げて、寝室に戻った。
ブーツを脱いでベッドにダイブすると、クリスの匂いがして、ちょっと寂しくなる。
その寂しさを紛らわすのに、枕を抱き込んだ。
『おやすみなさい』
『ん…オヤスミナサイ』
メリダさんが毛布をかけてくれた。
俺はひどく疲れていたようで、すぐに眠りに落ちてしまった。
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