上 下
69 / 560
第2章 お城でも溺愛生活継続中です。

21 皆さん、よろしく!

しおりを挟む



 クリスはどんどん進む。
 訓練場、って、結構遠いのか。

 いくつかの角を曲がり、直進して、また曲がり、ようやく足を止めた。
 クリスは目の前の扉を器用に開ける。
 そこはちょっとした執務室のようになっていた。
 大きな机と書棚があって、机の前にローテーブルを挟んでソファが向かい合わせに置かれている。
 大きな窓の向こうは、グラウンドのような広場になっていた。

「ここ…?」
「ここは俺の執務室。…書類が溜まってるな…」

 大きな執務机の上には、高さ30センチくらいの書類の山ができていた。

「…もしかして、これ、クリスの仕事だったりする?」
「……くそ」

 クリスは俺をソファに座らせると、立ったまま書類に手を伸ばす。
 文句を言いながら一枚ずつ目を通してる。座ればいいのに。

 なんとなく手持ち無沙汰で、部屋の中を歩いてみた。
 特に止められなかったので、あちこち扉を開けてみる。

「…仮眠室?」
「ああ」

 書類から目を話さないまま、クリスが答えてくれた。
 それほど大きくはないベッドが一台。それから、小さめのチェストがベッド脇に置かれていて、小ぶりのランタンも用意されていた。
 ぐるりと見渡して、扉を閉めた。

 別の扉を開けたら、多分、簡易キッチンみたいなものが。使い方が全くわからないけど。
 はめ込まれてる棚には、茶葉らしきものが入った瓶が何個か置かれてる。
 手にとって見たものの、ラベルに書かれてる文字は読めない。
 香りを嗅げばもしかしたらわかるかもしれないけど、俺はそこまで紅茶に詳しくないからどちらにしても無理だ。

 部屋に戻って書棚の本を手にとって見るけれど、まあ、わかるわけもなく。これは本格的に文字の勉強をしなければ…。

 なんとなく窓から外を眺めたら、ちょっと離れたところに別の建物があった。

「むこうにあるのが兵士の隊舎だ」

 …クリスは、あれですか。至るところに目がついていたりするんですか。
 次から次へと書類に目を通してるはずなのに、俺の動向が把握されているばかりか、何を見てるのかも知られてしまう。

「クリスって…もしかして、千里眼もち?」
「あるわけ無いだろ」

 って、口元に笑みを浮かべた。
 そりゃね。そんなことはないだろ…って思うけどさ。

「あ」

 グラウンドに人が集まってきた。
 先頭には、オットーさんともう一人、よく見る人がいる。

「来たか」

 いつの間にかクリスが横に立っていて、こめかみにキスを落とされた。……外から丸見えじゃないですか?
 ちょっと狼狽えていたら、グラウンド側に通じる扉がノックされ、オットーさんが顔を出した。

「殿下、全員揃いました」
「ああ。アキ、行こう」
「うん」

 頷いたら抱きあげられた。
 外に出ると温かい陽射しに包まれる。…外に出たのも久しぶりだ。

 クリスはみんなの前に立つと、その場で俺を立たせてくれた。
 オットーさんは、揃った兵士さんたち……というかクリス直属の兵士団の人たちだから、団員さん?隊員さん?の前にいるもう一人の人の隣に戻って、腰を落とし片膝をつく。その動きに倣うように、全員が同じ姿勢を取った。

「忘れた者はいないだろうが、アキラ・スギハラだ」

 ぐいっと腰を抱かれる。

「俺の婚約者として迎え入れることになった。今後、お前たちの手を借りることが多くなるが、よろしく頼む」
「あ、あの、よろしくお願いします」

 って、わたわたと頭を下げたら、ぽんぽんと頭を撫でられた。

「殿下、アキラさん、ご婚約おめでとうございます!!」

 俺が顔を上げたタイミングで、オットーさんが声高に言った。

「おめでとうございます!!」

 それを皮切りに、みんなからおめでとうコールが始まる。
 ここにいる兵士さんたち(じゃなくて、直属隊の隊員さんだな!)は、みんな、祝福してくれてる。
 そうだよ。タリカでだって、みんなすごく優しかった。

「泣くな」
「ん」

 嬉しすぎて目尻に溜まった涙を、クリスが唇で拭ってくれた。

「護衛の件については各自再確認しておいてほしい」
「承知いたしました」
「アキ、ここが訓練場だ。魔法や乗馬の練習はここでやる予定だから」
「わかった」

 頷いたら抱きあげられた。あ、移動するのか。

「オットー、確認の終わった書類を処理しておいてくれ。明日続きをする」
「はい」

 クリスはそのまま踵を返して戻り始めた。
 ちょっと体を伸ばして後ろを見ながら手を振ったら、みんな笑顔で振り返してくれた。いい人たちだ。うん。

 執務室を出て、また長い廊下を戻る。

「クリス、歩きたい」
「…わかった」

 ちょっとむすっとした表情で、おろしてくれる。その顔が面白い。

「手をつなぎたいから」

 クリスの右手をとった。剣を扱うからか、たこができてるし、すごくがっしりしてる。
 手のひらを重ねて、指を絡めるようにぎゅっと握る。
 嬉しくなって腕に寄り添いながら歩いていたら、クリスも嬉しそうに微笑んで、手に力を込めてくれる。

「悪くない」
「ふふ」
「だが、お前を抱いてないと違和感があるな」
「違和感て…。あ、まさか、腕の訓練兼ねてたとか?」
「そうじゃなくて」

 困ったように笑って、体をかがめて一回唇にキス。

「全身でアキを感じながら歩くのは楽しいんだ。ぬくもりも、鼓動も、息遣いもわかる」

 はぅ。
 なんか恥ずかしい。

「それに…アキの重さがいいんだ。…ああ、訓練、という意味ではなくて」

 二回目の唇へのキス。

「心地良いんだ。お前が俺のものだと実感できる」

 三回目のキスは、繋いでいる手の甲に。

「…愛しているから触れたいんだ」
「……うん」

 俺も同じ。
 四回目のキスは鼻の頭に。

 二人、自然と足が止まった。

 五回目のキスは、唇に戻ってきて…深く深く重なっていく。
 クリスの左手は俺の頬に。
 俺の右手はクリスの背中に。
 離れたくない。こうしていたい。

「くりす…」

 唇を離したらすぐに抱きあげられた。

「急いで戻ろうか」

 クリスが思ってること、よくわかる。

「うん」

 そしてクリスは足早に廊下を進んで、部屋につくなりベッドに直行した。
 俺も抵抗はしない。
 クリスの服のボタンを外す。
 クリスは俺の服のボタンを外す。
 脱いだ服はテーブルの上に。
 やっと、触れられる。
 クリスの首に腕を巻きつけ、自分からキスをしながら、目を、閉じた。


しおりを挟む
感想 541

あなたにおすすめの小説

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!

棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

処理中です...