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第2章 お城でも溺愛生活継続中です。
21 皆さん、よろしく!
しおりを挟むクリスはどんどん進む。
訓練場、って、結構遠いのか。
いくつかの角を曲がり、直進して、また曲がり、ようやく足を止めた。
クリスは目の前の扉を器用に開ける。
そこはちょっとした執務室のようになっていた。
大きな机と書棚があって、机の前にローテーブルを挟んでソファが向かい合わせに置かれている。
大きな窓の向こうは、グラウンドのような広場になっていた。
「ここ…?」
「ここは俺の執務室。…書類が溜まってるな…」
大きな執務机の上には、高さ30センチくらいの書類の山ができていた。
「…もしかして、これ、クリスの仕事だったりする?」
「……くそ」
クリスは俺をソファに座らせると、立ったまま書類に手を伸ばす。
文句を言いながら一枚ずつ目を通してる。座ればいいのに。
なんとなく手持ち無沙汰で、部屋の中を歩いてみた。
特に止められなかったので、あちこち扉を開けてみる。
「…仮眠室?」
「ああ」
書類から目を話さないまま、クリスが答えてくれた。
それほど大きくはないベッドが一台。それから、小さめのチェストがベッド脇に置かれていて、小ぶりのランタンも用意されていた。
ぐるりと見渡して、扉を閉めた。
別の扉を開けたら、多分、簡易キッチンみたいなものが。使い方が全くわからないけど。
はめ込まれてる棚には、茶葉らしきものが入った瓶が何個か置かれてる。
手にとって見たものの、ラベルに書かれてる文字は読めない。
香りを嗅げばもしかしたらわかるかもしれないけど、俺はそこまで紅茶に詳しくないからどちらにしても無理だ。
部屋に戻って書棚の本を手にとって見るけれど、まあ、わかるわけもなく。これは本格的に文字の勉強をしなければ…。
なんとなく窓から外を眺めたら、ちょっと離れたところに別の建物があった。
「むこうにあるのが兵士の隊舎だ」
…クリスは、あれですか。至るところに目がついていたりするんですか。
次から次へと書類に目を通してるはずなのに、俺の動向が把握されているばかりか、何を見てるのかも知られてしまう。
「クリスって…もしかして、千里眼もち?」
「あるわけ無いだろ」
って、口元に笑みを浮かべた。
そりゃね。そんなことはないだろ…って思うけどさ。
「あ」
グラウンドに人が集まってきた。
先頭には、オットーさんともう一人、よく見る人がいる。
「来たか」
いつの間にかクリスが横に立っていて、こめかみにキスを落とされた。……外から丸見えじゃないですか?
ちょっと狼狽えていたら、グラウンド側に通じる扉がノックされ、オットーさんが顔を出した。
「殿下、全員揃いました」
「ああ。アキ、行こう」
「うん」
頷いたら抱きあげられた。
外に出ると温かい陽射しに包まれる。…外に出たのも久しぶりだ。
クリスはみんなの前に立つと、その場で俺を立たせてくれた。
オットーさんは、揃った兵士さんたち……というかクリス直属の兵士団の人たちだから、団員さん?隊員さん?の前にいるもう一人の人の隣に戻って、腰を落とし片膝をつく。その動きに倣うように、全員が同じ姿勢を取った。
「忘れた者はいないだろうが、アキラ・スギハラだ」
ぐいっと腰を抱かれる。
「俺の婚約者として迎え入れることになった。今後、お前たちの手を借りることが多くなるが、よろしく頼む」
「あ、あの、よろしくお願いします」
って、わたわたと頭を下げたら、ぽんぽんと頭を撫でられた。
「殿下、アキラさん、ご婚約おめでとうございます!!」
俺が顔を上げたタイミングで、オットーさんが声高に言った。
「おめでとうございます!!」
それを皮切りに、みんなからおめでとうコールが始まる。
ここにいる兵士さんたち(じゃなくて、直属隊の隊員さんだな!)は、みんな、祝福してくれてる。
そうだよ。タリカでだって、みんなすごく優しかった。
「泣くな」
「ん」
嬉しすぎて目尻に溜まった涙を、クリスが唇で拭ってくれた。
「護衛の件については各自再確認しておいてほしい」
「承知いたしました」
「アキ、ここが訓練場だ。魔法や乗馬の練習はここでやる予定だから」
「わかった」
頷いたら抱きあげられた。あ、移動するのか。
「オットー、確認の終わった書類を処理しておいてくれ。明日続きをする」
「はい」
クリスはそのまま踵を返して戻り始めた。
ちょっと体を伸ばして後ろを見ながら手を振ったら、みんな笑顔で振り返してくれた。いい人たちだ。うん。
執務室を出て、また長い廊下を戻る。
「クリス、歩きたい」
「…わかった」
ちょっとむすっとした表情で、おろしてくれる。その顔が面白い。
「手をつなぎたいから」
クリスの右手をとった。剣を扱うからか、たこができてるし、すごくがっしりしてる。
手のひらを重ねて、指を絡めるようにぎゅっと握る。
嬉しくなって腕に寄り添いながら歩いていたら、クリスも嬉しそうに微笑んで、手に力を込めてくれる。
「悪くない」
「ふふ」
「だが、お前を抱いてないと違和感があるな」
「違和感て…。あ、まさか、腕の訓練兼ねてたとか?」
「そうじゃなくて」
困ったように笑って、体をかがめて一回唇にキス。
「全身でアキを感じながら歩くのは楽しいんだ。ぬくもりも、鼓動も、息遣いもわかる」
はぅ。
なんか恥ずかしい。
「それに…アキの重さがいいんだ。…ああ、訓練、という意味ではなくて」
二回目の唇へのキス。
「心地良いんだ。お前が俺のものだと実感できる」
三回目のキスは、繋いでいる手の甲に。
「…愛しているから触れたいんだ」
「……うん」
俺も同じ。
四回目のキスは鼻の頭に。
二人、自然と足が止まった。
五回目のキスは、唇に戻ってきて…深く深く重なっていく。
クリスの左手は俺の頬に。
俺の右手はクリスの背中に。
離れたくない。こうしていたい。
「くりす…」
唇を離したらすぐに抱きあげられた。
「急いで戻ろうか」
クリスが思ってること、よくわかる。
「うん」
そしてクリスは足早に廊下を進んで、部屋につくなりベッドに直行した。
俺も抵抗はしない。
クリスの服のボタンを外す。
クリスは俺の服のボタンを外す。
脱いだ服はテーブルの上に。
やっと、触れられる。
クリスの首に腕を巻きつけ、自分からキスをしながら、目を、閉じた。
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