42 / 560
第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。
41 クリスの匂いがするよ
しおりを挟むクリスの魔力が体の中を駆け巡る。
最初は温かく感じていたそれは、今は炎のように熱く俺を支配しようとしている。
「放て…!」
クリスの声は力強く俺の中に響く。
この人が傍にいてくれるなら、何も怖くない。
3匹目のヘルハウンドに止めを刺すために兵士さんが動いた。風の魔法は威力が足りなかったようだけど、かなりの深手を負わせることは出来たみたいだった。
そして、クリスの手が離れた。
それと同時に、俺の中で異変が起きた。
熱く渦を巻く魔力。
魔法を使ったのに、何故か高まるばかりのように感じる。
クリス、俺の身体がおかしい。
ねえ、怖い。クリス、怖いよ。
俺、どうなってしまうんだろう……?
身体の中の熱が熱くて熱くて仕方がなくて、それがピークに達したとき、俺の意識は底に沈んだ。
ずっと、夢を見ていた気がする。
白くて狭い箱のような部屋の中。
そこに身体が引きずり込まれるような感覚。
『おいで』
何本もの白い手に身体が掴み取られる。
『戻っておいで』
離して。
嫌だよ。
そっちには行かない。
俺は、クリスの傍にいたい。
俺を掴んでいた白い手が、ぼろぼろと崩れ落ちていく。
そして、俺も。
落ちては浮上して、浮上しては落ちる。
そんな夢を、繰り返し繰り返し。
――――アキ
呼ばれて答えたいのに、声が出なくて。
早く、抱きしめてもらいたいのに――――
「アキ……アキっ」
クリスの、切羽詰まったような、ホッとしたような、複雑な声は覚えてる。
ぼんやりと、なんでそんな顔してるんだろう……って、思ってた。
でも、なんだか眠たくて。
目を開けていることができなかった。
眠りと覚醒を繰り返して、そのたびにクリスの顔を見て、なんだか胸が苦しくなる気がした。
でも、しっかり記憶してるわけじゃない。とても断片的なもの。もしかしたら夢だったのかもと思ってしまうほどの。
はっきりと覚えているのは、馬車の中から。
記憶から切り取られたおよそ一日の間。
俺はかなり朦朧としていたようで、時折瞳を開けては、閉じることを繰り返していたらしい。……まあ、なんとなくそんな気はしていたけど。じゃあ、夢だと思っていたことも、現実だったってことかな。
馬車の中でのこともはっきりと覚えているのかと問われれば、かなり、自信がない。
ただはっきりしているのは、目を覚ますとそこにはクリスがいて、ずっとずっと抱きしめてくれていたこと。
キスをしてほしくて手を伸ばしたら、クリスは望みを叶えてくれた。
鮮明な記憶として思い出せるのは、外が暗くなって窓の外に松明やランタンの明かりが見え始めた頃から。
それからうとうとしている間に城についていた。
ちょっと感動した。
想像を遥かに超えた勇壮さで。
………でも、暗い。
「…くらくて、よくみえない」
そう言ったら、笑われた。
「そうだな。明るいときに案内するよ」
「うん」
その後、お兄さんに促されてクリスに抱かれたまま城に入ったけど、誰にも会わない。
クリスの後ろには、よく俺に飲み物とか渡してくれた人がついてきてる。
それにしても、城、って、ほんとにこんなに閑散としてるものなのかな?
城の中は明るい。
ランタンの光りでこんなに明るくなるのかと、感心してしまうくらいに。
クリスが扉の鍵を開けたとき、後ろの二人が膝をおった。
「殿下、今夜は私達が護衛に付きます。何かあればお声掛けください」
「頼んだ」
…ってやり取りしてて、リアル主従関係を目にしてちょっと興奮した(あくまでもクリスには内緒)。あの二人のこと、後で教えてもらおう。
部屋の中は灯りがなく暗い。
でも、カーテンをしていない窓からは、柔らかい月の光が入り込んでいた。
「…ここ、くりすの、へや?」
まだ舌がもつれる感じがする。
「ああ」
クリスは短く答えると、月明かりだけの部屋の中を迷うことなく進む。まあ、自分の部屋だからね。
クリスは俺を抱いたまま、もう一つ扉を開けた。
そこはさっきの部屋と同じくらいの大きさの部屋で、多分寝室なのかな。
一人で使うには大きすぎるベッドと、ベッドサイドに置かれたテーブルと椅子。それから、クローゼット、かな?月明かりの中で見るにはそれくらいが限界。
「今明るくする」
俺をベッドにおろしたあと、テーブルの上に置かれているランタンに、クリスが明かりをともした。
途端、広い部屋なのに全体が明るくなった。
ランタンにも色々種類があるのか。
タリカで使っていたものは、ここまで明るくなかったと思う。
「おなかはすいていない?」
「…すこし」
「なにが食べたい?」
「えと……、パン粥……とか…?」
「わかった」
クリスは俺の額にキスをすると、もと来た扉の方に向かっていった。
部屋の中を観察しながら、枕からクリスの匂いがしてることに気づいた。そしたらちょっと我慢できなくて、枕を抱きしめてしまった。
戻ってきたクリスが、俺を見て柔らかな笑みを浮かべる。
「どうした?」
「…クリスの匂いがする」
なんか恥ずかしいことを言っているような気もするが、ここにはクリスだけだし。
「アキもきっと俺の匂いになってる」
「……そう、かな?」
「ずっと俺の腕の中にいたからな」
おう。
耳元の声は破壊力がすごい。
それに、確かに馬車の中では、ずっとクリスの膝の上にいて。
移り香、ってやつかと自覚したら、妙に恥ずかしくなってしまった。
……でも、もっと傍にいたい。
抱きしめられたい。
キスされたい。
……クリス、気づいてくれるかな?
263
お気に入りに追加
5,496
あなたにおすすめの小説
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
俺の義兄弟が凄いんだが
kogyoku
BL
母親の再婚で俺に兄弟ができたんだがそれがどいつもこいつもハイスペックで、その上転校することになって俺の平凡な日常はいったいどこへ・・・
初投稿です。感想などお待ちしています。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる