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第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。
32 帰る場所
しおりを挟む朝食のパン粥、美味しかった!
甘くてトロトロで、いくらでも食べれそうだった。クリスの分の肉料理も美味しかったけど、早朝から重たいものを食べれるほど胃は丈夫ではないと自覚してるから丁度よかった。
「あ、俺の服って」
「ああ。アキは捨てたくないだろう?そこの麻の袋にまとめてあるから、城についたら綺麗にしてもらおう」
「…うん。ありがと」
捨てられるわけがない。
ちょっと焦げたり穴があいたりしたけど、俺と、日本を繋ぐもので。よかった。クリス、俺のことちゃんと、考えてくれたんだ。
大きな手がベッドに座る俺の頭をなでた。
……ほんと。クリスって、大雑把に見えるのに、こういうところだけは細かい、というか、気づいてくれるというか……。
…俺、もしも日本に戻れるとしたら…戻ることを望むんだろうか?
「どうした?」
家族のことは忘れてない。
相変わらず直前の出来事は思い出せないけど、家族のことも、ばあちゃんのことも、ばあちゃんのとこの神棚も、学校のことも、友達のことも忘れてない。
会えるなら会いたい。
……けどそれは、クリスとは離れ離れになるということで。
「………」
クリスを選ぶ、って、断言できたら、こんなに悩まないんだろうな。でも、俺にはそんな決断できないから。どちらも大切で、なくしたくないから。……俺、欲張りなのかな?
「……くりす」
涙声になってしまった。
こんな俺のこと、クリスはどう思うだろう。
クリスを選ぶ!って、断言できないこんな俺のことを。
やっぱり俺、情緒不安定なのかな……。こんなことで涙が落ち始めた。
「アキ?」
クリスの声が優しい。
涙が流れてしまった目元に、唇が触れてくる。
「何か心配か?」
「えっと……ホームシック?」
家が恋しいわけじゃないとは思うけど、帰りたいとか、会いたいっていう気持ちは、この言葉が一番しっくりくる気がした。
「ほーむしっく、てのは、どういう意味だ?」
あ、こっちにはなかった言葉か。
「えっと…家が恋しくなったり、帰りたくなって悲しくなったり寂しくなることかな?」
そう説明すると、クリスの眉間にシワが寄った。……初めての表情だ。
「……帰りたいのか?」
クリスの表情に胸の奥がチクリと痛んだ。
「…ちょっと、家族のこととか思い出しただけだから」
「……アキ」
捨てられた仔犬のような、縋るような目。
「アキが、帰りたいと言うなら」
「ちょっと待って。そりゃ、ここに来た時は、帰れるなら帰りたい、戻りたいって思ったけど」
「それなら……」
「クリスは俺がいなくなってもいい、ってこと?」
俺も困った様な顔をしてるんだろうな。ここまで深刻な雰囲気にする予定なかったんだけど。
「……アキと、離れたくないんだ。離さないと、決めている」
「最初からそう言ってたでしょ、クリス」
「だが……」
「『どうしても戻ると言うなら、俺も一緒に行く』くらいのこと言ってよ」
クリスならそう言うかな、って。
「そもそも、俺、帰り方知らないしさ。クリスの傍にいたいけど、だめ?」
元気のない目元に触れて、笑いかける。
「……傍に、いてくれ」
クリスが弱気だ。あのクリスが。
もう!!
一度拗ね始めたら手に負えないな!
「っとにもう…」
いつまでもらしくない顔をしているクリスの首に両腕を巻きつけて、そのまま強引にベッドに押し倒した。
…まさか俺が、クリスを押し倒す日がこようとは…。
「クリス、好きだよ」
特に抵抗もしないクリスに覆いかぶさって、自分からキスをする。
おずおずと背中に腕が回ってきた。……なんだこれ。ほんっと、厄介な男だな!
「クリスっ」
つい、声を荒げてしまった。
「今すぐにでもクリスが欲しいんだけどっ」
「アキ」
「いつまでもそんなうじうじしてるなら、俺、いい加減怒るよ!?」
って言ったら、クリスが静かに笑い始めた。
「もう怒ってるだろ」
「そりゃね!!でも、もっと怒る!!」
原因は俺だけどね!?そこは棚上げで!!
「怒ったらどうなる?」
「お兄さんの馬に乗せてもらう!!」
……所詮、この程度なんですけどっ!
でもそれは、クリスには結構いいダメージが入ったらしく。
「それは駄目だ」
…って、いつもの表情が戻ってきた。
うんうん、それでいい。
「アキが俺の傍から離れることは許さない。アキの居場所も帰るところも全部ここだけだ。俺が、お前の全てだ」
「うん」
嬉しくなる。
クリスは俺を求めてくれて、傍にいろ、って言ってくれる。打算とか、そんなものなしに、俺を、愛してくれる。
…戻る方法が見つかっても、きっと俺はクリスを選ぶんだろうな。どちらも選べない、って思ったけど、この人をどうにか出来るのは俺だけのような気がするし。
……やっぱり……離れたくないし。
それなら、グダグダ考えるのはやめ。
とにかく、クリスの傍にいる。それが、俺の選択なんだから。
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