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第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

11 これは吊り橋効果ですか?

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 その日の夜は、タリカで過ごす。

 片付けが進んだとは言え、まだあちこちに瓦礫が散乱している村の中、宿屋など当然あるわけもなく。村の一角に兵士さんたちがテントを張っている。流石である。手際がいい。

 村のあちこちに松明が設置された。
 赤い炎は意外と明るい。

「騎士様、こちらをお召し上がりください」
「兵士さん方の分もこちらに」

 この惨状の中でも、村人が食料を提供してくれる。皆、笑顔で。

「ありがとうございます」

 お兄さんは満面の笑顔でそれらを受け取った。
 兵士さん達は、野営道具を常備しているのか、どこからか大きな鍋を出してきて料理を始めている。

「そろそろ温かいスープができるので、皆さんも来てください」

 つまり、あれだな。被災地への炊き出し。

 村の人たちは、それほど大人数ではない。けど、丸太やレンガで座るところを確保したり、焚き火の数を増やしたり、やることは多い。
 30分くらいがすぎた頃、野菜が沢山入ったスープが出来上がった。
 広場には、村の人たちと兵士さんたちが勢揃いしている。
 熱々のスープと、瑞々しい果物。何かの肉を干したものと、少し硬めのパン。
 給仕は率先してやった。場所作りには一切貢献できなかったし。これくらいはしないと。

「お疲れ様。よく動いてたな」

 輪の中心から少し離れた場所に、クリスは陣取っていた。
 配膳してた人に、何故かクリスの分の器も渡されたからクリスのところに来たけども、なんだかクリスの横に座るのが自然というか、違和感ないというか、すんなりと、『俺の場所だ』って認識できてしまって、ちょっと焦った。おかしいな。俺、こんなにクリスに靡いてた…?
 スープの器を渡してから、もやもやしながらも、クリスの隣に腰掛ける。

「クリスもお疲れ様。なんていうか…その…格好よかったよ」

 ニヤリと笑うクリス。

「惚れ直したか?」
「そもそも惚れてない」

 即座に答えたら面白そうに笑った。
 ……事実だもん。

「俺はお前のこと愛しているがな」
「………は?」

 唐突に言われて、スープの器を落とすところだった。危ない。
 え。何。何言われてるの、俺。

「一目惚れだ。どうしようもないほどにな」

 静かに、とても静かに言葉にされる。

「こんな時に不謹慎だと自分でも思ったが」

 頬に手が添えられて、思わず顔をそむけてしまった。
 ほんと、何を突然言い出すのか。…顔が、熱くなる。

「魔法師としてのお前がほしい。それは本当だ。この国には今、魔法師が不足している。お前ほどの魔法師がいれば、今日埋葬した人々を助けられたかもしれない。理不尽に命を奪われることはなかったかもしれないんだ」

 なるほど…と思った。
 魔法は確かに存在している。けれど、それを操る者が少なければ、「存在する」という概念だけで終わってしまうのだろう。

「じゃあ、クリスが昼間に言ってた『俺のものになれ』って、魔法師としてクリスに仕えろ、ってこと?」

 自分で言っててあれだけど、凄く胸が痛い。
 クリスはすぐに答えることはなかった。その様子に、やっぱり胸がツキンと痛みを訴える。
 けど、クリスに頭を撫でられて、そのまま抱き寄せられると、胸の痛みは高鳴りに変わった。

「最初はそう思ったよ。貴重な人材だ。手放したくはない」
「…じゃあ、今、は?」
「さっき言っただろう。愛してるって」

 苦笑された。
 …ちょっと腹立たしい。
 それに、どうしよう。嬉しい、って、思ってる。

「柔らかい黒髪も、強い意思を秘めた黒い瞳も、魔物の前に立ちふさがる無謀な勇気も、皆の為に何かしたいっていう真摯な気持ちも」

 …なぜだ。褒められてる気がしない。

「無謀で悪かったな」
「悪くない。俺が、好きなものだ」
「っ」
「拗ねて膨らませる頬も、文句ばかり紡ぐこの唇も、…魔法師としての力も、何もかもが愛しい」

 耳が、死にそうだ。
 言われたことに頭がクラクラする。
 これ、完全に口説き文句じゃないか。
 胸が、苦しくなる。

「クリスっ」
「俺を呼ぶ声も可愛い」

 近づいてくる顔。抗えない。いつものように顎を捉えられてるわけじゃない。手の中には、温かいスープの器がある。

 唇が触れる。…俺は、それを受け入れていた。

「ん……」

 何度目の口づけだろうか。
 当然のように舌が入り込む。
 俺は一瞬躊躇ったが…、自分の舌も絡めた。
 目を閉じていたから、クリスがどんな表情をしていたのかなんてわからない。俺の手の中にあった器は奪い取られ、自由になった両手を背中に回す。そしたらクリスも、俺を強く抱きしめてきた。


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