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第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

8 黒髪黒目…もしや定番のアレですか!?

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 クリスが馬を止めた。
 そこはタリカ村の一角で、沢山の兵士さんがいた。
 怪我人が多い。よく見れば、足元の地面にも血痕が見える。

「手を」

 唇を噛み締めて叫びたくなる衝動をこらえる。
 差し出されたクリスの手を取り、馬上から降りた。
 …少しふらついたけど、多分大丈夫。

「クリストフ!!」
「兄上」

 奥の方からクリスに似た、全体に青銀がかった髪色の青年が現れた。クリスと同じくらいイケメンさんです。

「増援に向かうところだった」
「兄上ならそう判断すると思ってた」

 兄弟らしい気軽さで、背中や肩を叩いている。

「兄上、村から逃げたスライムは問題なく退治した」
「ああ。こちらのスライムも片付いた。…これから犠牲者の埋葬を行う。………この少年は?」

 お兄さんの視線が、クリスの後ろにいた俺に注がれた。
 クリスとは別種の迫力がある。

「逃げたスライムに襲われたところを保護したんだ」
「スライムに…災難だったね」
「あ、いえ、でも、クリス……さん達が助けてくれたので、怪我とかもなくて」
「間に合ってよかった」

 お兄さんはそう言って、俺の頭をなでた。
 とても綺麗で格好いい笑顔。
 申し訳ないけど少しドギマギしてしまう。

「アキ」

 そしたら傍らから、不機嫌そうな声が聞こえてきた。
 似ていると思ったのに、似ていない。クリスはなんだか大型犬のようだ。

「私はギルベルト・エルスターだ。君は?」
「あ、杉原瑛…えーと、アキラ、です」
「アキラか。……珍しい色だね。黒髪黒目……染めたりしてないんだよね?」
「え?あー、はい?」
「……そう」

 髪と目の色がどうしたって言うんだ。日本人の特徴的な色だけど。俺、染めたりもしてないしね。あ、ちなみに、ピアス穴もないよ。痛そうだから嫌い。
 は!?
 あれか!?
 よくわからないけど、異世界だし、黒髪信仰があるとか?それか、ほら、異世界から召喚された聖女…は、女の子だから、神子?枠とか?あるよね、そういう設定!それで、国を守ってくれとか、清めてくれとか、言われちゃうやつ。
 正直、そんな壮大なことを言われても俺にはわからないし、そんな気概もない。「ゴブリンから村を守ってくれ!」と言われたら、戦士ファイター2人と神官プリースト魔法使いソーサラー連れてきて!ってお願いするよ。本気で。

 あまり深く考えなかったけど、どうなんだろう。クリスは俺を城に連れて行くって言ってたけど、それって、枠じゃない?そういう枠なら俺、辞退したい。

 お兄さんは、なんだかずっと難しい顔しながら俺を見てた。多分、俺をどうするか、って色々考えてるんだろうな。偉い人ぽいし。

 俺がそんなふうにいろいろ考えていたら、クリスは俺の頭をなでて、お兄さんに言った。

「兄上、アキは、魔法師だ」

 クリスが告げた言葉に、お兄さんは一瞬言葉をなくした。てか、そんな紹介されてもなぁ。俺、何もわからないんだけど。あ、でも、魔法師っていった。よかった。聖女でも神子枠でもなかった。

「…魔法師?」
「魔法力はかなりあると見ている。スライムを一撃で葬った。ほぼ、無傷のやつを、だ」
「………まさか、いや…、でも、お前が言うなら…本物、か?」

 なんでしょうか。この空気。
 魔法師は魔法師で問題ありですか?聖女や神子より?

「このことは」
「わかっている。同行していたのは俺の部下たちだ。他言はしない。ここが片付いたら、城に連れて行こうと思う」
「それがいいな。陛下の判断を仰ごう。一応、書状も出しておくから」

 魔法が使える、って、そんなに大変なことなんだろうか。
 異世界で、魔物がいて、剣があるなら、魔法はセオリーだと思うんだけど。
 でもこの場で聞ける雰囲気ではない。

「明日にはここを立つ予定だから」
「ああ」

 兄弟二人で小難しい話を始めたんだけど、聖女神子問題が俺の中で解決したから、当初の目的を果たしたかった。だって。時間が勿体ないでしょ?

「あのっ」

 こらえきれなくなって、俺は二人の会話に割って入った。
 2人は、どうしたんだ、と、目で訴えてくる。

「俺にできることないですか?えええっと、そんなに力持ちじゃないし、体力もないとは思うんですけど、でも、何かしたくて」

 周りは瓦礫だらけ。
 目の前には傷ついた兵士さんたち。
 この状況で自分が何もしていないのが心苦しくて。
 でも、何をしたらいいのかわからない。わからないから聞いた。指示を出してくれれば、なんとかそれを実行しようと思うから。

「アキ」

 クリスの手が俺の頭をなでた。表情は…何故か苦笑している。なぜそんな顔?……あ、兄弟の会話をぶった切ったから?
 でもクリスは怒るとかしなくて、不機嫌そうな顔もしていない。むしろ、目を細めて嬉しそうに俺を見つめてくるから、なんだか胸がざわつく。はぁ。イケメン怖い。

「それなら、向こうに井戸があるから、水を汲んできてくれないかな?傷の手当にも片付けにも水が足りてないんだ」

 お兄さんも俺の不作法については、何も指摘してこなかった。子供に言い聞かせるような優しい声で、俺の肩をぽんっと叩いて、指を指して井戸の位置を教えてくれる。

「わかりました!」

 確かに水は大事だ。傷だってきれいに洗わないとならないし、飲水もいる。料理だってできない。

 とにかく、自分にできることを1つずつ…と思いながら井戸まで来て、愕然とした。
 俺、水汲みの仕方、わかんないですけど!?
 確か、井戸って、桶を落として水を入れて、滑車で引き上げるんだっけ!?

「……初っ端から躓いた」

 なんてこった。
 ため息をついたら、横から笑う声が聞こえてきて、備え付けの桶が井戸の中に放り込まれた。


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