【完結】魔法が使えると王子サマに溺愛されるそうです〜婚約編〜

ゆずは

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第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

20 俺、甘やかされてるよね?

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 大きな手に頭を撫でられて意識が浮上する。

「起きたか?」
「…くりす?」
「昼を軽くとったら出発するぞ」

 昼…ってことは、俺、結構な時間寝てたのか。
 机の上に湯気の上がる器が2つある。あと、少し硬めのパンも。

「…クリス」

 腕を伸ばした。
 その腕はクリスにとられ、首元に促される。体を倒してきたクリスに、首に腕を巻きつけ抱きついた。

「ん……」

 唇に、柔らかくて温かいものが触れる。
 何度か角度を変えながら触れ合わせ、軽く開くとすぐに舌が潜り込んでくる。
 これ、好きだ。

「ん……っ、ぁ、ん」

 ワイシャツの合わせから手が入り込んできた。
 肌着の上からなでられ、ゾワリと体が震えた。

「アキ」
「や…っ」

 耳元の声はやばい。体中ゾワゾワする。
 胸をいじっていた手がピタリと止まった。

「やめるか?」
「………っ」

 思わず「もっと」って言いそうになった。

「…お昼食べたら、出発する、って」
「そうだな」

 クリスの手が離れたことが、少し…寂しい。
 名残惜しそうに額に口づけられた。
 それから、首筋に吸いつかれる。

「…クリス?」

 チリッと痛みを感じた。クリスは無言のまま、唇を離すと俺を抱き上げてくる。

「日が沈むまでには宿場町に到着する予定だ」

 そう説明してくれながら、簡易ベッドに腰掛け、足の上に俺を座らせた。…昨夜と、同じように。

「ん?アキ、果実水飲んでないのか」
「あ…。んー、あの後すぐ寝ちゃったから…」

 うんうんうなずいていたクリスが、果実水をコップに注ぎ、口をつけた。
 一口くらいだろうか。コクリと喉がなる気配はないままに、唐突に口づけられた。

「っん!?」

 強引に流し込まれる果実水。
 柑橘系の爽やかな香りがするけど、味わってるような余裕はない。

「もっと飲むか?」

 口移しで飲ませてきた本人は、やたらと嬉しそうに笑う。

「そのコップをくださいっ」

 顔、真っ赤なんだろうなぁ。
 クリスは笑いを隠そうともしない。
 上機嫌のまま、俺にコップを手渡してくれた。

「村の片付けって…」
「ああ。まあ、昨日の今日で瓦礫を撤去し終わるとは思ってなかったが、かなり残ってるな」

 小さく千切ったパンにスープを染み込ませ、俺の口に入れてくれる。あ、これ、美味しい。

「…スライム2匹でここまで被害が出るとは、思ってなかった」
「デカかったけどスライムだしなぁ…」
「恐らく腐蝕液の影響だろう。レンガ自体が脆くなったせいかもしれない。……お前、スライムのこと知っているのか?」

 って、ちょっと驚いた顔をされた。

「知ってる、って言うか、この世界のスライムがどんな生態系なのか、とかはもちろん知らないけど、物理攻撃が効きにくくて魔法攻撃が有効だ、とか、そんなもんだよ。俺が知ってることなんて」

 ゲームの知識しかありません。ゲームの説明自体が面倒だから、そこは省略。

「だから、昨日さ、クリスたちが剣で応戦してるの見て驚いたんだよね。……まあ、でも、自分の手から魔法みたいなのが出た時が一番驚いたけど…」

 パンの次はスープの具をスプーンで口元に運ばれた。野菜がトロットロでこちらも美味しい。

「あのとき叫んでいたのは呪文か何かか?」
「へ?」
「魔法を使う前になにか言ってただろう」

 そう聞かれて考え込んでしまった。

「……『剣じゃだめ』だったかな?緑色だから火とかききそーだ、とか」
「……それだけ?」
「うん。そもそも呪文とか詠唱とか、恥ずかしくて無理…。どうせ魔法使えるなら、絶対無詠唱習得するっ」

 言い切ったら、クリスがくくくくって笑い出した。

「城の魔法師に聞かせてやりたいな。長い詠唱こそが正統で正義!って奴らばかりだ」
「あー…」

 目を泳がせてしまった。
 アニメとか小説とかで読むにはいいと思うけど。まあ、ほら、格好いいし?でも、現実で俺自身がするとしたら、悶死間違いなし。

「クリス」
「ん?」
「俺さ、ちゃんと魔法の練習したほうがいいよね?」
「アキ?」
「クリスも言ってたでしょ。もしかしたら、助けられたかもしれない、って」
「………ああ」
「俺にどこまでできるのか全然わかんないけどさ、助けられるなら助けたいって思う。そりゃ、俺は部外者かもしれないけど…、駄目かな?」

 考えてみれば、こんなに真面目に話したのは、初めてかもしれない。昨日から怒涛のごとく時間が過ぎていて、それどころではなかったし。
 俺は出すぎたことを言っているだろか。
 あまり意識したことはなかったけど、クリスとお兄さんはこの国の王子で、お兄さんは王太子。色々考えているだろうし、そもそもこの国の人間ではない俺の手などいらないかもしれない。

「お前な……」
「うん…」
「どうしてそうやって……」
「ん?」

 思ってた反応と違う。
 クリスは額に手を当てて、天井を仰ぎ見た。

「これ以上好きにさせてどうするつもりだ?」
「へ?」

 言われたことが理解できない。
 クリスは大きくため息をついて、俺と視線を合わせてきた。

「俺が言ったこと、覚えてないのか?」
「クリスが言ったこと?」
「俺は、お前の力ごと欲しいと言っただろう」

 目元に手が触れる。

「城に戻ったら全部お前に教える。この国のことも、俺達のことも、魔法のことも、……すべて、だ」
「……うん」
「お前を他の誰かに任せる気はないんだ。お前は俺のためだけに力を使う術を覚えればいい」
「うん」
「それから、夜のこともな」
「っ!!」
「この体に…覚え込ませるから覚悟しとけ」

 言われてる内容がわかりすぎて困る。
 至って真面目な会話してたはずなのに。

「アキ」

 口づけられる。

「何があっても俺が守るから。アキは…俺を守ってくれ」
「……っ、うんっ」

 クリスが笑う。その笑顔に、俺も笑い返した。


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