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第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。

16 眠れぬ夜 ◆クリストフ

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「ところで、アキラのことだけど」
「ん?」

 兄上の表情はがらりとかわり、真剣さが加わった。

「陛下には大雑把に報告の文を出しておいた。向こうでも対応が協議されているかもしれない。この国に魔法師が不足していることは明確だ。だから」
「兄上は、陛下がアキを軍属させるかもしれないと思っているということか?」
「ああ」

 硬い表情で頷かれた。
 …あり得ないことではないと思う。
 魔法師としての力を一番欲しているのは軍部だ。
 周辺諸国とは良好な関係を保っているから戦争という危惧は今はない。しかし、魔物はこちらの事情など理解しない。特に近年、魔物の被害は増大している。

「アキを軍部には行かせない」
「そうだな。クリストフの目の届くところにいたほうが良い。異国の者ということで、あらぬ疑いをかけられることになるかもしれないし」

 他国の間者と思われても仕方がない、ということ。

「………あり得ない」
「そのあり得ない事を考えるのが、人間だよ」
「………」
「軍部に配属されてお前の目が届かなくなったら、………秘密裏に処刑されることもあるだろう」
「…っ」
「貴重な魔法師だからこそ、彼らは非常に誇り高い。時としてそれが障害になる。そこに身分もない、身元もはっきりしない黒髪黒瞳の目立つアキラが入ったら、他の魔法師たちはどう思うだろうね?」
「…兄上」
「お前がどんなに寵愛していたとしても、軍部に入り浸るわけに行かないだろう。アキラのあの容姿だ。本人の意思など関係なく、上官たちの慰み者にされる可能性だってある」

 思わず、拳で書き机を殴っていた。

「ギルベルト…それ以上はやめてくれ」
「うん。ごめん。あまりにも極端すぎたかもしれない。けど、わかるだろう?あそこは、そういう場所だ。少なくとも、今は」
「……俺は、アキを手放す気はない」
「じゃあ、それを押し通すために、どうしたらいいと思う?」
「アキを俺の婚約者として陛下に伝える」
「……うん」
「俺の婚約者という立場があれば、誰も文句はないはずだ」
「私もそれがいいと思うよ」

 兄上は満足そうに笑うと、グラスの中身を一気に飲み干した。

「まあ、私がこんな話をしなくても、クリストフは、アキラのことを自分の婚約者だ、って、陛下に紹介したと思うけどね」
「…違いない」

 確かに、そう報告する予定だった。

「ま、そんなわけで」
「ん?」
「そろそろ戻って、さっさと既成事実でも作っておいで」

 にこやかに勧めてくる兄上に、しばし言葉が出なかった。





 なんとも言えない気分で、自分の天幕に戻った。
 寝台に横たわるアキは、背中を丸くして眠っている。
 あと数刻もすれば空が明るくなる。

「アキ…」

 目元に口づけてから、耳朶を軽く食んだ。

「ん……」

 くすぐったいのか体の向きが変わる。
 兄上にたきつけられたから、というわけでもないが、――――触れたくて仕方ない。

 唇を軽く触れ合わせ、覆いかぶさるように寝台に上がった。
 あどけない寝顔が可愛い。
 外で触れるのを拒まれた胸元に手を這わせた。
 シャツのボタンをいくつか外し、肌着の上から触れる。
 僅かなしこりを指先に感じ、円を描くように撫でた。

「ん…」

 身動いだが起きる気配はない。
 そのうち、指の下のしこりが硬く尖り始める。少しつまむとまた吐息が漏れ出る。
 肌着をまくしあげ、ここに直接触れたい。舌で愛撫し歯を立てて、赤く熟れるまで吸い付きたい。
 己の半身がズクリと熱を持ったのがわかる。
 胸元から手を離し、アキの下肢に添わせた。
 太腿を撫であげ、中心部分に触れる。
 ズボンのあわせはボタンではなかった。つくりがよくわからず、服の上から撫でるにとどまった。
 手に触れる柔らかな膨らみは、何度か撫でるうちに硬く張り詰めていく。

「……ん…くりす………?」

 舌足らずな声に、ビクリとなりながら手を離した。

「くりす……」

 アキは俺に手を伸ばしてきて抱きつき、自分から唇を重ねてきた。

「!!」
「ん……くりす……きもちいい………」
「アキ………?」
「もっと……」

 腕に力が込められ体が重なる。
 腰をわずかに揺らせば、互いのものが触れ合い、硬さを増していく。

「アキ……アキ……」
「ん…くりす……」

 手が離れた。
 どうしたのかと覗き込むと、再び気持ち良さげな寝息を立てている。

「え…?」

 しばし呆然。

「…寝言?」

 全身が一気に脱力した。

「アキ……それはないだろ……」

 体の熱が引いていく。苦笑せざるを得ない。
 色々諦めてアキの隣に横たわった。
 左腕をアキの頭の下に差し入れると、アキがこちらをむいてすり寄ってくる。

「……っ、アキ…」

 抱きしめつつ、ため息が出た。
 あと少しで夜明けか。
 俺は腕の中の愛しい存在に翻弄されて、眠ることはできないんだな…と、自嘲気味に笑った。
 まさか、自分が、眠れぬ夜をすごすことになるなんて。

「アキ…どんな夢を見ていた?」

 目が覚めたら聞いてみよう。
 顔を真っ赤にして恥ずかしがっても、必ず聞き出してみせるから、覚悟してろよ?


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