10 / 560
第1章 魔法を使ったら王子サマに溺愛されました。
9 それは衝撃の事実
しおりを挟む「あ」
「わからないんだろ?」
クリスはまだ笑いながら、ロープを引いている。
「…わかってたし」
現に、今クリスがやっていることは、俺が思い浮かべていたことだし!
「そうか?」
「そりゃ、現物見たのは始めてだったけどさ…」
「アキの住んでたところでは、水はどうやって運ぶんだ?」
「どう、って…、蛇口からでてくるから、それを鍋とか薬缶とかバケツで…」
桶を引き上げたクリスの手が止まった。
「ジャグチ?」
「ああ、うん。蛇口。ひねったら水が出てくるんだ」
身振り手振りで、イメージを伝えたら、クリスは難しい顔になった。
「随分と便利だな…。ジャグチに刻印魔法でも使われているのか?」
「魔法じゃないよ…」
…俺だって詳しい構造はわかっていないんだから、あまり突っ込んでほしくない。上水道のシステムとか技術とか、知らん。ただの高校生だからね!
あ、神棚の掃除とかお供えとかお参りはできるよ。こっちに神棚なさそうだけど。
「魔法じゃない、か。面白いな」
クリスは笑いながら、持ってきたバケツのような取っ手のついた桶に水を移していた。
…ああ、そうか。運ぶのに別の桶が必要だったんだ。
「持てるか?」
「多分」
水がなみなみと入った桶はかなり重い。それに、結構な大きさがあるから、歩きにくい。
クリスはそうこうしているあいだにも、あと2つの桶を満たし、軽々と持ち上げすたすた歩き始めた。
力の差が歴然。筋肉とか凄いんだろうな…。
「…理不尽だ」
ぼそっと言ったら、また、笑われた。
「アキ」
「なにっ」
からかわれるのかと思って口をへの字にして噛み付くように答えたんだけど、クリスの目は真剣そのもので、声を飲み込んだ。
「笑顔でいろ」
唐突すぎて、クリスの顔をまじまじと見上げてしまった。
「この状況だ。村人たちも兵士たちも疲弊している。自分たちに接してくれる者も同じ顔をしていたら、誰もが辛くなる」
「あ…」
「だから、せめてお前は笑顔で接しろ。笑え。…俺達は間に合わなかった。だから、笑うことは許されない。この村の皆も、助けが間に合わなかったのに、俺達が笑っていたら腹立たしく思うだろ」
「でも、俺も同じじゃ」
「そりゃ、最初は反発もあるだろうが、お前は兵士じゃない。服装を見れば………って、平民にも見えないな」
…って、俺の格好を見て苦笑した。
日本の学校の制服ですからねぇ…。
「まあ、兵士じゃない子供が無邪気に笑いかければ、そのうち村の皆も心を開いてくれる。静かに微笑んで、背中を擦るだけでもいい」
強引なキス魔のセクハラ男なのに、その言葉はコトン…と、胸の中に落ちてきた。
俺が辛くて悲しかったとき、ばあちゃんは無言で、穏やかな笑みで背中をなでてくれた。たったそれだけで、落ち着くことができた。
だから、かな。
ああ、そういうことだったのか、って、素直に思う。
「わかった」
頷いたら、クリスの足が止まった。
どうしたのかと俺も足を止めたら、桶を地面に置いたクリスが、右手で俺を引き寄せて、また、唇を重ねてきた。
「ちょっ」
またか!!
「クリスっ」
「だめ」
なにがっ!?って悪態をつこうとしたら、遠慮なく舌が唇を割ってきた。
「んっ」
体が震えてしまう。
嫌悪とか、は、ないけど。
右手に持っていた桶を取られた。ああ、よかった。こぼすところだったから。
「クリス…っ」
歯列を辿られる。
上顎をなめられる。
絶妙な加減で舌を吸われる。
縋るものが欲しくて、自由になっていた手を、思わず背中に回していた。
「…ん」
気持ちがいい。
暖かくて、柔らかくて。
閉じていた目を薄っすら開いたら、碧色の瞳が俺を見ていた。
心臓が、うるさい。
……うっかり、ね。うっかり抵抗らしい抵抗もしないまま、受け入れちゃったけど。しかも、抱きついてね?しかもしかもね?またしても飲んだよ。喉の奥に溜まったやつ。飲まないと苦しくなるしね!仕方ないよね!?だけど、これは流石にね、長いと思うんだ…!
「クリス!!!!」
思い切り突き放したら、体がぐらついた。クリスから離れたかったのに、その腕に抱きとめられてしまった。……キスで足腰に力が入らなくなるとか、悪夢ですか…。
「俺のものになれ、アキ」
「っ」
耳元の甘い声。体がゾクリと波打つ。
声……嫌いじゃないんだよ…。
「アキ…」
耳朶に、舌のザラつきを感じる。口からはため息のような吐息が漏れてしまった。
「俺、物じゃない」
なんとかそれだけを口にしたら、喉の奥で笑われた。
「アキはそのままでいい。俺は、もう決めた」
「…勝手に決めないでくれるかな…」
「嫌じゃないだろう?」
ニヤ…っと笑ったクリスが、また口づけてくる。
「……は…」
「気持ち良さそうな顔をしている」
「っ!」
多分、俺、顔真っ赤なんだろうな。
そりゃね。キスが気持ちいい、ってことは、認めるよ。認めますとも!!
「もしかして、兄上の方がいいのか?」
「は?」
「撫でられて、嬉しそうにしていただろう」
どうしてそうなるのか。
そりゃあ、イケメンな甘いマスクに、ちょっとドキッとはしたけどね?
でもそれをどう言えばいいのか。
真正直に言ったら、何か誤解されそうで。
「嬉しかったけど、それがお兄さんの方がいいとか……そんなことにはならないよ」
お兄さんはお兄さんだ。
「それに、『いいのか』って、要は『好きなのか』ってことでしょ?俺、女の子のほうが好きなんだけど」
暗に、クリスのものにもならないと告げたのだけど。
何故か、クリスは笑った。
「なら、いい」
「何が?」
「アキが兄上を取るというのなら、俺は身を引くしかなかったが、そうでないならば、やはりお前は俺のものだ」
「なんでっ」
「俺が決めたことだからな」
「……そういうことじゃなくて。大体、男同士なんて無理に決まってるでしょうが…」
そうため息をついたら、クリスはまたニヤリと笑った。
「そんな心配をしていたのか。全く問題ない。世界共通の認識だが、どこの国でも同性婚は認められている。まあ、一部例外はあるがな」
「は?」
「そもそも兄上にはすでに婚約者殿がいる。すでに婚儀の日程も決まっているからな。この国の王太子は兄上なのだから、俺が子をもうけなくても何も問題はない」
「……………は?」
「だから、安心して俺のものになれ」
「いや、待って。そうじゃなくて」
なんだか大事なことを聞いた気がする。
「誰が、王太子だって?」
「兄上だ」
「この国の?」
「ああ」
「え、じゃあ、クリスって…」
「ん?言ってなかったか。俺はクリストフ・エルスター。この国の第2王子だ」
「………………………………は?」
今日一番の驚きだったかもしれない…。
キス魔ことセクハラ男は、まさかの王子サマだった…。
333
お気に入りに追加
5,495
あなたにおすすめの小説
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!
天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。
なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____
過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定
要所要所シリアスが入ります。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる