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僕の婚約者は世界一愛らしい

可愛い婚約者は何か秘密にしている

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 五歳のあの日。
 僕はジュリアンと婚約した。

「いいかい、ニール君!君がうちの可愛いジュリアンの婚約者になったっていうことは私としても大歓迎だけど、早熟な君がうちの純粋でいたいけなジュリアンに教えるんじゃないかと私は心配なんだよ…!いくら好きだからといって、すぐにキスをするなんて…!いや、照れたジュリアンは壮絶に可愛らしかったけれど…!!」
「……申し訳ありません、義父上」
「その呼び方はまだ早いと思うんだ!」
「ですが義父上、ジュリアンの可愛らしさに限界がなくて─⁠─⁠─⁠─⁠」
「それは知ってるけど、そうじゃなくて、私はまだ君の父ではないんだよ!結婚はまだ先なんだから」
「でも僕は、ジュリアンと別れるつもりはありませんし、ですから、伯爵はもう僕の義父上です」

 遅いか早いかの違いしかない。
 僕はジュリアンをお嫁さんにすると決めたのだから、それを撤回することも反故にすることもない。
 僕の意気込みをわかってくれたのか、伯爵は大きなため息をついて僕の頭を優しい手つきでたたいた。

「…よろしく頼むよ、ニール君」
「はい!こちらこそよろしくお願いします、義父上!」

 少し強引だったかも?と思いながら、婚約は認められた。
 僕の両親は何も問題ない。ジュリアンのことが大好きで、「よくやった」と言われたくらいだから。
 ジュリアンに僕と婚約が成立したことを伝えたとき、多分あまり意味がわかっていなかったと思うけれど、これからもずっと一緒だよと言うと、顔を真っ赤にしてもじもじしながら喜んでくれた。うう。可愛い。
 ジュリアンを何がなんでも守らなきゃ。
 こんな可愛い生き物、ほかの人が目にとめないわけもない。
 ジュリアンの大きな瞳に映るのは僕だけでいい。僕だけがジュリアンを幸せにできるんだ。




 ほぼ毎日をジュリアンと過ごしてきた。
 六歳になったとき僕には家庭教師がついた。ジュリアンと会う時間を減らしたくなくて、家庭教師と父が納得するくらいの成績を出せる努力をした。その結果、家庭教師には天才だのなんだのと言われたけれど、そんなことは関係ない。僕はとにかくジュリアンと過ごしたいだけなんだから。

「にーる、いそがしい?」

 最近、ジュリアンが少し寂しそうな顔をする。
 弟が生まれて家族も使用人もそちらにかかりきになることが多くなったから、僕がいないと広い部屋で一人になるらしい。

「どうしたの、寂しい?」

 ジュリアンの顔を見るのが二日ぶりになってしまった。
 ジュリアンとの時間を作るために勉強を頑張っているのに、あの家庭教師、「では次はこれを」と、次から次に課題を出してくる。終わりが見えない。あの家庭教師、僕に恨みでもあるんだろうか。
 そんないら立ちは顔に出さないように、ジュリアンを腕の中に閉じ込めた。
 ……六歳、まだ体が小さい。はやく、大きくなりたい。

「ジュリアン、好きだよ」
「うん」

 ちゅって口付ければ、ジュリアンは頬をさっと赤くそめて、おずおずと僕を見上げてくる。

「もっと?」
「うん」

 ……ああ。僕の頭の中にファンファーレが鳴り響いてる。まあ、いつも鳴り響いているけれど。

「ジュリアン、大好き」
「ぼくも、にーる、だいすき」

 その笑顔に僕の胸は限界まで高鳴った。




 僕は八歳で精通した。
 前々からジュリアンの裸を見るとペニスがむずむずする感覚はあったけれど、一緒に入ったお風呂でジュリアンの体をなでるように洗ってた時にあがった「あん」っていう艶めかしい声が引き金になった。
 精通したと同時に、妄想の中のジュリアンのエロさが増した。自分で足を広げて、お尻を自分で広げて見せて、うるんだ瞳で僕を誘ってくる。……八歳にしてこの色気はどういうことなのか。自分の妄想だというのに思わず嘆息してしまう。
 ジュリアンに精通の兆しはまだ見えない。
 僕がうっかり風呂場でペニスを大きくしていても、ジュリアンは不思議なものでも見るように小首をかしげて自分のペニスと見比べる。

「形がちがう?」
「体格が違うからね」
「そうなの?」
「そう」
「そっかぁ」

 ……ジュリアンに閨指導は必要ない。うん、僕がしっかり知識を詰め込めば、なんら問題ない。むしろ、変な知識なんていれなくていい。僕が全部教えてあげるんだから。
 そんな純粋培養みたいに育ったジュリアン。
 勃起するとか精子が出るとか、そんな生々しいことには触れさせずに数年が経ち、十二歳になった。
 僕は別の家庭教師をつけてもらった。実地指導なしの閨指導の家庭教師だ。…そりゃ、ジュリアンに気持ちよくなってもらうために、いろいろな技術を手につける必要はあると思ったけど、ジュリアンじゃない誰かの尻を弄り回すことには抵抗があって、絶対に嫌だったから実地なしの座学だけ。大丈夫。それでも十分ジュリアンを満足させられる知識は身に着けた。
 そんな勉強をしているなんてジュリアンには知られたくないから何も言ってない。
 ……言ってないし、知られてない、はず。
 なのに、最近微妙に避けられてる気がしている。

「ジュリアン、何かあった…?」
「んぇ?や、大丈夫!何もないよ?」

 そうだろうか…?
 ジュリアンが万が一にでも僕のことを嫌うことはないとは思うけど、だけど絶対何かあるはずだ。
 僕のその疑念は、ジュリアンにお風呂を断られたことで決定的なものになった。
 どちらかの家に泊まるときは、絶対二人一緒にお風呂に入っていたのに、この日のジュリアンは頑なにそれを断ってきた。

「や、ほら、僕ももう十二歳だし、こ、婚約者のニールと一緒のお風呂は……子供っぽいかな……って」
「そんなことない。婚約者だからこそ、一緒にお風呂に入って絆を深めるんだから」
「でも……」

 ジュリアンの瞳がうろうろする。
 …これは、ジュリアンが何か隠し事をしているときの表情。
 それが何かわからないまま、僕はさっさとジュリアンの服を脱がせてしまった。

「ニールっ」
「駄目。一緒に入るのは僕たちの約束でしょ?…毎日会えないんだから、お風呂だって離れていたくないんだよ」
「うー…」

 ジュリアンは顔を真っ赤にさせて、タオルで体の前を隠してしまった。
 さてどうしたものか…と考えながら、僕も服を脱ぎ捨てる。

「ほら、ジュリアン」
「ん…」

 隠してるのは前だけだから、僕に背中をむけたジュリアンの丸い可愛いぷるんとしたお尻は丸見えだ。それをじっと見てる間に僕のペニスがむくむくと大きくなりだして、魅力的なお尻から視線を外して息をつく。軽くタオルで股間を隠して、ジュリアンの背に手をあてて浴室に促した。

「ジュリアン、座って」
「僕、自分でできるから」
「だめ。僕が洗ってあげたいの」

 今にも泣きそうなほど、ジュリアンの瞳がうるみだした。
 ジュリアンはしぶしぶ…って感じで、僕に背をむけていつもの椅子に座る。タオルは体にあてたままだ。

「ジュリアン、タオル邪魔だよ」
「駄目…っ」
「なんで?いつも僕に任せてくれるじゃない」
「でも、今日は駄目…っ」

 ふむ。
 駄目といわれたらやりたくなる。

「ジュリアン」

 椅子に座ったジュリアンの後ろから、膝たちになって抱きしめた。
 とたん、びくりとジュリアンの体が震えた。

「タオルとるよ」
「や、だめ…っ」

 駄目といわれてもとっちゃうからね。
 ちゅ、ちゅ、って啄む口付けをする間に、力の抜けたジュリアンの手の中から、タオルをはぎ取った。

「あ…っ」

 びくっとしてタオルに手を伸ばしたジュリアンだったけど、今度は自分の体を隠すように前かがみになってしまう。

「ジュリアン」
「うぅ……にーるのばかぁ……」
「何隠してるの。見せて?ジュリアン」
「やだぁ……」
「なんで?」
「だって……」
「ジュリアン」
「っ」
「体を起こして見せて」

 少し語気を強めると、ジュリアンはしゃくりあげながら体を起こした。
 ジュリアンは両手で顔を覆ってしまった。すぐに宥めたいけど、それより僕の目はジュリアンの股間にくぎ付けだ。
 体格に似合って可愛いジュリアンのペニスは、自己主張するように上を向いてる。……皮は、まだ被ったままだけど。

「ジュリアン…」
「うぅ…っ、さ、最近、ニールのこと考えたり、近くにいたら、こんなふうになって……はれてるし、すこし、いたいし、………こわい」
「だから僕のこと避けてたの?」
「うん……」
「なんだ。……僕、ジュリアンのこと怒らせたんじゃないかってすごいドキドキしてたよ」
「ご、ごめんね……っ」




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