【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!

ゆずは

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僕の婚約者は世界一愛らしい

可愛い婚約者は何か秘密にしている

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~レナルド視点~

剣の稽古の最中、打ちどころを誤って腕を骨折してしまったオレは、入院することになってしまった。
父上は、こどもたちのなかで、一番「つよい」者を認める、って言っていた。
オレは、ずっと父上に認めてもらいたくて、剣の稽古を頑張っていた。
それなのに、怪我をしてしまった。こんなところで寝ている場合じゃないのに、じいも病院のやつらも動くなって言ってきて、オレは苛立っていた。
兄上たちはこうしている間にも、稽古を続けているというのに。
しかも、同室はブラックウェル家のやつだって言われて、オレはさらに苛立った。

ブラックウェルはレッドグレイヴと同じ公爵家のくせして、皇室に協力しない〝はんらんぶんし〟だって父上が言っていた。
そんなやつと同室なんて冗談じゃないと思っていた。

でも、そいつ――ミハルと話して、考えが変わった。

剣の稽古は好きだったけど、兄上たちみたいにうまくできないこともあって、それも焦りに繋がっていた気がする。
だけど、「できないなら、できるほかのことをやったらいい」って言われて、なんだかほっとしたんだ。

それに、ミハルとチェスとかするの……楽しかったし。
こういうふうに遊ぶのが、『友達』ってやつなのかな。
今まで、自分と同じ立場の同じくらいの歳のやつって、近くに居なかったから、ミハルとのやり取りは新鮮だった。
それに、ミハルも、そう思っていたみたい。

ミハルはブラックウェル家のやつだけど、父上の言ってた〝はんらんぶんし〟ではないと思った。
だって、ミハルはいいやつだもん。

――それに、ミハルはつよいやつだ。
ミハルは、オレみたいにケガしたわけじゃなく、身体が弱くて入院しているようで、具合が悪そうにしているところを何度も見た。
そういうときのミハルは、すごくつらそうだ。でも、オレはミハルが「つらい」って言っているところを見たことがない。それどころか、オレに心配かけまいとしてくる。
きっと、ミハルにとってはそれが当たり前で、だから「つらい」なんて、わざわざ言ったりしないんだろう。

オレはずっと「つよい」って、どんなやつのことだろうって考えてた。

父上は、剣の腕がすごい。兄上でさえも勝てたことない。皇帝陛下にだって、負けたことないって言っていた。
だから、オレは、父上みたいに剣の強い人が、「つよい」ってことなんだって思っていた。

その基準だと、ミハルは「つよい」ではない。
でも、違う「つよい」もあるんだって、ミハルと接することでわかった気がする。

――オレは、剣だけじゃなくて、ミハルみたいな「つよさ」を持った人間になりたい。


気が付いたら、入院して一か月が経っていた。

「レナルド様、一か月間よく我慢なさいましたね。もう退院して大丈夫ですよ」
「え……」

オレは退院できると主治医に言われた。

「どうなさいました?嬉しくないのですか?一か月前はあんなに退院したがっていたじゃありませんか」
「え、あ、うん。うれしい。うれしいけど……」

退院できると聞いて、頭に浮かんだのはミハルの顔だった。
ミハルは、どうなんだろう。

「ミハルは?」
「え?ミハル様ですか?ああ……彼はまだできないと思います。もう少し良くならないとね」
「……そうか」

それを聞いて、オレは気持ちが重くなった。
おかしい。退院できるのに、なんでこんな気持ちになるんだろう。


診察室から病室に戻り、カーテンで仕切られたミハルのベッドを覗いてみると、眠っていたミハルが丁度目を覚ました。
最近、ミハルはあまり調子が良くないみたいで、一日の大半は眠っていたから、目を開けている姿は久々に見た。

「……ん、……あ、レナルド……。どうしたの、なにかあった……?」
「……あ、うん。オレ……退院できるって」
「そうなんだ……おめでとう。よかったね……これで、剣の稽古に戻れるね」

ミハルは、笑って祝福してくれた。

「……ミハル、おまえ……」
「ん……?」
「オレだけ、先に退院するのに……なんか、ねえの」
「なんかって……?あ、退院祝い……?そうだね、なんか用意したいな……。今度お父さまに頼んで……」
「そ……そういうことじゃなくて!」
「……ちがう?」
「お前だって退院したいだろ!なのにオレだけ先に退院で……その、くやしくねえのかって!」
「……ああ、そういうことか」

ミハルはやはり笑うだけだった。

「悔しいとかはないよ……。それより、レナルドが退院出来てうれしいし……。僕も、いつまでも、ここに居るつもり、ないから……。ちゃんと退院して、レナルドに会いにいくよ」
「ほんとに……?」
「うん……。だから……さみしがらなくて……いいんだよ」

……さみしい?オレが?
言われたことを反芻していたら、ミハルがオレに向かって手を伸ばしてきた。オレはその手に誘われるがまま、いつもボードゲームをやってたときのように、ミハルのベッドサイドに置かれた椅子に座り、彼の顔へ耳を寄せた。

「ぜったいに、ぼくも、すぐ、退院するから、まってて……。こんどは、そとで、あそぼうね」

そう言われて、どういうわけか、急に目頭が熱くなった。

――ああそうか。くやしいのはオレのほうだったんだ。
オレは退院できるのに、ミハルはまだできないのが。
それがくやしくて、さみしかったんだ。だから、あんな気持ちになったんだ。

ぽろぽろと涙が溢れる。オレに向かって伸ばされている手を掴む。
オレより一つ上のはずなのに、オレよりも細くて小さい手。

――よわくて、でもつよい彼を、オレは一人にしたくなかったんだ。

「やくそくだぞ。絶対に退院して、オレに会いに来いよ」
「うん、やくそく、ね……」

ミハルはそう言って、再び眠りについた。
――こうしてこの日、オレ達は再会の約束をしたのだった。


その次の日。オレは迎えに来たじいと共に、退院した。
ミハルはその日も眠ったままで結局、最後の別れの挨拶はできなかったけど。また会うって、約束したから。
だからもうさみしくない。

――必ずまた会える。そう、オレは信じている。

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