【2話目完結】僕の婚約者は僕を好きすぎる!

ゆずは

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僕の婚約者は世界一愛らしい

僕の可愛いジュリアンと最初のキスをする。

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「ニール、お待たせ!」
「お疲れ様、ジュリアン」

 同じ制服を着ているのに、ジュリアンは眩しいくらいに可愛らしい。
 クラスが離れてしまったから終わる時間が違うけれど、ジュリアンはいつも大急ぎで僕の馬車まで戻ってきてくれる。
 学院に入学した頃は、クラスの前で待っていたけれど、「ニールに見られてたら恥ずかしくて仕事にならない…」と顔を真っ赤にしてもじもじしながら言うジュリアンに危うく理性がどこか遠くへ羽ばたいていきそうになったから、そのときから馬車で帰りを待つことにしたんだ。
 もちろん、お互い同じ時間で学院を出られるときは、馬車停まりまでゆっくり肩を並べて、手を絡めあって繋いで戻るけどね。
 こうやって真っ赤な顔で「はやく会いたかったから」って全身から伝えてくるジュリアンを見るのも僕の楽しみだ。
 朝はばらばらの馬車。だから、二人きりになれる─⁠─⁠─⁠─⁠屋敷につく短い時間ではあるけれど─⁠─⁠─⁠─⁠この時間は、僕の至福の時だ。

「おいで、ジュリアン」
「うん」

 腰を引き寄せて僕の足の上に座らせる。
 身長差があるから、僕の足の上に座っても、ジュリアンの視線はまだ少し下にある。
 静かに走り出した馬車の中で、僕はぷるんとしたジュリアンの唇に何度も口付ける。それは回数を増すごとに噛みつくようなものになっていくけれど、ジュリアンの潤んだ瞳に煽られた結果だから仕方ないはず。

「にーるぅ」
「ん?」
「…ぼく、ねむぃ」

 疲れていたんだろうジュリアンは、そう言うと僕の首すじに顔を押し当てて、すんすん匂いを嗅いでるうちに体から力が抜けていった。
 僕は少し笑って、ジュリアンの体を抱き直す。

「寝付きがいいのは子供の頃から何も変わってないね」

 背中から腰を、何度もゆっくり撫でた。

 僕の父とジュリアンの父親は、学院生だった頃とても仲のよい級友だったらしい。
 その関係で両家の親交は続いていて、今も仲の良さを保っている。
 うちは侯爵家。ジュリアンの家は伯爵家だけれど、身分がどうというのはあまり気にしていないらしい。
 そんなわけで、同い年の僕とジュリアンは物心がつく前から一緒に遊んだり学んだりすることが多くて、初めて一緒に遊んだのが何歳かなんて覚えてもいない。
 でも、これだけは確実に言える。
 僕の初恋の相手はジュリアンで、ジュリアンの初恋の相手も僕だってこと─⁠─⁠─⁠─⁠。




_______________





「ジュリアン」
「にーる?なぁに?」

 つぶらな零れそうなくらい大きな瞳が、僕を見てる。
 僕はそれだけで胸がドキドキして、たまらない気持ちになる。
 同じ歳なのに、ジュリアンは僕よりも幼く見えた。同じことをしても、ジュリアンのほうがうまくできないことが多い。
 …鬼ごっこをしたとき、とたとた歩くような走り方をしてた鬼のジュリアンがその場で転んでしまって、僕は思わず駆け寄った。そしたら、「つかまえた」ってほっぺに少し泥をつけたジュリアンが僕に抱きつきながら笑うから、可愛すぎて胸が苦しくなった。
 同じ歳なのに、なんでこんなにジュリアンは可愛いんだろう。
 僕は周りから「可愛い」とは言われたことがない。まだ五歳だというのに、お父上に似て精悍さがおありですな─⁠─⁠─⁠─⁠みたいなことは何度も言われるけど。茶会に出ても、同年の子たちから「格好いい」と言われ、その親から婚約の打診もされるけど、僕の心は動かない。
 たった一人だけ。
 ジュリアンがとても嬉しそうに、「にーる、かっこういいね」と言ったときだけ、僕の顔が真っ赤になることはわかってる。
 可愛いジュリアンが、僕のことを格好いいと言ってくれた。ジュリアンのこの笑顔は僕だけのものだ。

「ジュリアン」
「うん??」
「大好き」
「ぼくも、にーるすき!」

 ほら、またこの笑顔。
 僕の中で『好き』が膨れ上がる。
 ジュリアンがこんなにいい笑顔を向ける相手は僕だけでいい。僕だけが、ジュリアンの可愛らしさを知っていればいい。

「結婚、しよう。ジュリアン」
「けっこん?」
「僕の、お嫁さんになって」
「およめさん」
「父上と母上のようになるってこと」

 具体的に教えてあげると、ジュリアンはようやくわかったようで、可愛い笑顔を更に可愛らしくして、うん、って頷いた。

「なる!ぼく、にーるのおよめさん!」

 えへへ、って笑うジュリアンの可愛らしさに色々がまんできなくて、僕はジュリアンの可愛いふっくらした唇にキスをしてた。

「ふえ」

 びっくりして目がまんまるになるジュリアン。

「大好きの証だよ」
「ほわ」

 ぽぽぽと真っ赤になるジュリアンの顔。
 それがまた可愛くて、僕はまたキスをする。『ちゅ』ってわかりやすい音を出して。

「はわ」
「大好き。大事にするからね。ジュリアン」

 僕が微笑みかけると、ジュリアンはきょろきょろと視線を泳がせた。
 それからちらりと僕を見上げて、「ぼくも、すき」って小さく言いながら、ぶつかるように僕の口にキスをしてくれた。
 僕は体が硬直した。
 ぎゅって目を閉じたままのジュリアンだから、ジュリアンのふっくら唇は僕の口の端っこにあたったけど、こんな返しをされるなんて思ってもいなくて、僕の頭の中は一瞬大パニックになった。
 でも、それは本当に一瞬。
 僕はすぐに我に返って、ジュリアンの小さな体を両手でぎゅって抱きしめた。
 ……僕の手も体もまだ小さいけど、そんな僕よりもまだジュリアンは小さい。
 瞳に涙をためたジュリアンにもっと触れたい気持ちが沸き起こる。
 僕たちはお風呂も一緒に入るくらい仲がいいから、洗いっこもしてる。お風呂で、いつも、お互い裸で。

「…っっ」
「にーる!にーる!?」

 ……『好き』って思ったら全部が特別になった。
 同じ子供同士の体なのに、僕のとは全然違う体。好きな子の全裸。特別な裸。

『にーる、ぼくのおちんちん、なめて……?』

 ……そんな妄想に、僕の頭は許容範囲が超えたらしい。

「にーる!」

 ジュリアンの僕を呼ぶ声に、人が来るのがわかる。
 けど僕はそこで意識を手放した。
 ……ジュリアンの足にしがみつきながら。



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