19 / 20
お付き合いを始めることになりまして side:征人
4
しおりを挟むそれでどうしたと問われた時、すでに頭の中は真っ白で何の話かと思考することさえ億劫だった。
淡く照らされた寝室。
途中記憶は飛び飛びだが、苦痛を覚えるような防衛反応はとうに収まっているようである。
いつものような激しさはなかったはずだが、何度達したか覚えていない。
今夜の哨戒を気にしてくれているのだろうが、こんなに快くてはあまり意味がないのでは。
上体はベッドに投げ出したまま辛うじて腰を支えられて、まだゆるゆると中を擦られている。
でも出来れば後ろからじゃない方が良いな、とアトリは音のする息を吐きながら思う。
いつもより奥まで挿って来るせいだろう。
怖いくらいの絶頂が襲って来るし、何よりユーグレイの顔が見えない。
ただ突っ込んでいる方は変わらず愉しそうだから、今日のようになるべく早く済ませるには良いのかもしれなかった。
「ーーぃ、それっ、も、痛いって、ば」
背後から回された手が、胸の先端を弄る。
何が楽しいのか、散々刺激されたそこは指先で優しく摘まれただけでもぴりぴりと痛い。
それが快感とごっちゃになっている辺り、救いようがないのだが。
ユーグレイは見透かしたように小さく笑った。
「今日は、君らしくもなく神経質になっていただろう?」
「ん、あ? そ、うッーー!」
そうでもない、とアトリが言い切る前に胎の中の熱が弱い所をぐうっと押し上げた。
微睡むような快感が、一気に弾ける。
止めようもなくユーグレイを締め付けて達した。
防衛反応は収まっているのに、馬鹿馬鹿しいほど気持ち良い。
「はぁっ、あっ、うぅーー……」
啜り泣くような声が、喉から漏れる。
僅かな快感も拾おうと中が貪欲に収縮するのがわかった。
もっと動いて欲しい。
もっと奥まで来て欲しい。
けれどユーグレイは答えを促すように、酷く緩慢な動きに戻ってしまう。
ああ、わかってやってんな、こいつ。
「や、ってる最中に……、難しい話、すんなってぇ!」
「やっている最中だから、だろう。君が誤魔化す余裕がない方が、僕としては都合が良い」
「お前、なぁ、あっ!」
そっと胸の先を撫でていた指先が、膨らんだそこをぎゅうっと押し潰す。
一瞬視界が白くなって、アトリは反射的に自身の性器を押さえた。
「んっく、ーーーーっ」
自分で擦って達したかったのか或いはイってしまうのを止めたかったのか、よくわからない。
混乱したまま触れた熱は、とろとろと勢いなく白濁を吐き出している。
アトリ、と耳元で囁かれて呻く。
まあ大体ユーグレイには敵わないから、早く諦めた方が身のためだろう。
肩を震わせて、アトリは息を吐く。
「あんま、良くない、夢を……、この間」
重い頭を少し持ち上げて、背後を振り返った。
ほら大した話じゃないと言いかけて、眉を顰めたユーグレイと目が合う。
「それは、海で僕が襲われる夢か?」
「……あれ、俺、話したっけ?」
あの時は確かにユーグレイを起こしてしまったし、夢見が悪かったことはバレていたようだったけれど。
彼はゆっくりと首を振った。
宥めるようにアトリの背中に触れる手。
そうか。
魔術の構築を任せるために神経を繋ぐようなことをしていたのだから、夢の共有くらいは起きて当然である。
「あ……、なるほど。変な夢見てなくて、良かった」
笑いながらそう言うと、ユーグレイは怪訝そうな表情をしてアトリの腰を掴む。
ゆったりと揺さぶられて、内腿が痙攣した。
「変な、とは」
「は、だから、こういうことしてる、夢、だろ」
彼はふっと耳元で笑った。
そして不意に背後からアトリを抱き締める。
触れ合う肌が心地良くてアトリは目を閉じた。
「君も、ああいった悪夢を見るんだな」
僅かに驚きを孕んだ言葉。
アトリは手を回して、首筋に押しつけられた彼の頭を撫でる。
指の間を擽る銀髪を、確かめるように何度も梳いた。
「見るよ。ユーグに何かあったら、怖い。だから、結構、あのパターン」
「………………そうか」
「防衛反応、壊れて、良かったかもな。少なくとも、俺の力不足で何かあるって可能性は、低くなっただろ?」
この状態が、致命的な損傷を負った結果なのだとしても。
それによって生み出せるものでユーグレイを守れるのなら、それはアトリにとって決して悪いことではなかった。
ユーグレイは顔を上げると、黙り込んだままゆっくりとアトリの中から出て行く。
敏感になった粘膜がずるずると擦られて、びくりと身体が跳ねる。
「んあ、ぁっ、ユーグ、待っ」
ぐい、と肩を掴まれて仰向けになる。
熱を失った後孔が喪失感を訴えていた。
じわりと滲んだ視界に、どこか切羽詰まったような顔をしたユーグレイが映る。
「僕は」
乱れた銀髪が、彼の肩から滑り落ちる。
痛みを堪えるような碧眼は、ただ綺麗だ。
「アトリ。君に触れることが一生叶わなかったとしても、君がこうなったことを『良かった』とは、言えない」
何だか、泣きたいような気分だった。
唇を噛んだユーグレイに、アトリは手を伸ばす。
その頬に触れて、唇に触れて、ただ否定の意味ではなく首を振った。
溢れそうな感情が身体を満たして、堪らない気持ちになる。
「ユーグ」
でも、それなら尚更。
こうなって良かったと、アトリは思う。
こんな風にユーグレイに触れることが出来るのだから、防衛反応なんて壊れてしまって、良かったのだ。
すまないと言いかけた彼の言葉を遮って、アトリは「もう一回」と強請った。
「もう一回、しよ。ユーグの、顔見て、したい」
「アトリ」
少し腰を浮かせて、まだ閉じ切っていないそこに触れる。
柔らかく、呼吸をする度に震える縁。
幾度か注がれたものが指先を伝うのがわかった。
ユーグレイが僅かに息を詰める。
挿れて、とアトリは微笑んで言った。
20
お気に入りに追加
276
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)

代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

多分前世から続いているふたりの追いかけっこ
雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け
《あらすじ》
高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。
桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。
蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。


楽な片恋
藍川 東
BL
蓮見早良(はすみ さわら)は恋をしていた。
ひとつ下の幼馴染、片桐優一朗(かたぎり ゆういちろう)に。
それは一方的で、実ることを望んでいないがゆえに、『楽な片恋』のはずだった……
早良と優一朗は、母親同士が親友ということもあり、幼馴染として育った。
ひとつ年上ということは、高校生までならばアドバンテージになる。
平々凡々な自分でも、年上の幼馴染、ということですべてに優秀な優一朗に対して兄貴ぶった優しさで接することができる。
高校三年生になった早良は、今年が最後になる『年上の幼馴染』としての立ち位置をかみしめて、その後は手の届かない存在になるであろう優一朗を、遠くから片恋していくつもりだった。
優一朗のひとことさえなければ…………

告白ゲームの攻略対象にされたので面倒くさい奴になって嫌われることにした
雨宮里玖
BL
《あらすじ》
昼休みに乃木は、イケメン三人の話に聞き耳を立てていた。そこで「それぞれが最初にぶつかった奴を口説いて告白する。それで一番早く告白オッケーもらえた奴が勝ち」という告白ゲームをする話を聞いた。
その直後、乃木は三人のうちで一番のモテ男・早坂とぶつかってしまった。
その日の放課後から早坂は乃木にぐいぐい近づいてきて——。
早坂(18)モッテモテのイケメン帰国子女。勉強運動なんでもできる。物静か。
乃木(18)普通の高校三年生。
波田野(17)早坂の友人。
蓑島(17)早坂の友人。
石井(18)乃木の友人。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる