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親友をオカズにシてしまった side:征人
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しおりを挟む瀬川智大は、今年の4月に転校してきた。
同い年にしては色白で華奢で、でもなんか可愛くて。多分、俺よりもかなり背が低かったから、余計可愛く見えたのかも。
用意されていた机は、丁度俺の隣で、あいつは最初から警戒心なんて何もなく俺に笑いかけてきた。
『よろしく』
ってはにかむ笑顔がまた可愛いかったんだよな。
親しくなるのに時間はかからなくて、その日から俺と智大は一緒にいることが多くなった。
4月の終わりには、智大の家に行ったし、俺の家にも遊びに来た。
俺の家族は両親も、姉も、智大がお気に入り。素直で可愛くて、俺と何一つ接点ないのになんで友達なんだ、って、俺が問い詰められた。
その頃にはなんとなくだけど、友達っていうより、もう『親友』って気がしてて、俺があいつのことを騙してるとかそんなふうに言う家族に本気で苛立った。
5月にあいつん家に行ったとき、本当に偶然、……偶然、見てしまったんだ。
智大の父親の奏汰さんと、『けい君』と紹介されてた同居人のお兄さんの、濃厚な、キスシーンを。
男の人同士で――――そういう関係があるっていうのは当然知ってたことではあるけれど、こんなに身近に…ってことに驚いた。不思議と嫌悪感は沸かなかった。
それから、もしかしたら智大は何も知らなかったんじゃないかと思って慌てて智大を見たら、あからさまに「やらかした」って顔してて、ちゃんとこいつも知ってたんだな、ってほっとした。
それで、二人のことを知ってしまったし…ってことで、奏汰さんと啓さんから、謝られて、改めて自己紹介された。
奏汰さんはお医者さんで、啓さん――――荒木啓さんは、看護師。別々の病院で勤務しているんだって。
2人は5年くらい前から付き合っていて、もともと、啓さんはゲイで、ノンケの奏汰さんを猛烈アタックで落としたらしい。なんとまぁ……情熱的というかなんというか。
ついでに……って感じで教えられた内容は、軽く言われたにもかかわらず、かなり重い内容だった。
奏汰さんはバツイチで、別れた奥さんとの間の子が智大なんだけど、実は智大は、まだ付き合ってた頃、元奥さんが他の人と浮気してできた子で、それを奏汰さんとの子供ができた…って偽って、結婚を迫ったのだそう。
奏汰さんはそれをわかっていながら、結婚を了承して、奥さんと生まれた子供をとても大切にしたけど、智大が1歳くらいのときに、「好きな人ができました。別れます」って身勝手な書き置きと離婚届と智大をおいて出ていってしまったんだって。
奏汰さんはでもあまり悲しむことはなかったみたいで、淡々と離婚手続きを終わらせて、男手一つで智大を育てたんだって。
……これ、俺が聞いちゃってよかったの?
というか、智大も聞いてるけど、よかったの!?
っていう俺の心配は杞憂に終わった。
奏汰さん、早々に智大にはちゃんと説明したんだって。
どうしたって自分と智大は似ていないから、他人からどうこう言われるより先に、ちゃんとホントのことを説明しよう、って。
でも、奏汰さんが智大のことを本当の子供として愛してるんだ、って。
……聞いてて、俺が、だばーっと涙を流してしまった。
えぐえぐ泣く俺に呆れて、智大は笑うし、奏汰さんも啓さんも笑う。みんなよく笑う…。
そんなことがあって、俺は瀬川家に受け入れられて…、居心地のいい時間を過ごしている。
今まで仲良くなった友達がいても、智大は家に呼ばなかったそうだ。そりゃ、これだけ複雑な家庭環境だと、誰にでも言えることではないよな。
そのころから、智大は俺のことを『まさ』って呼ぶようになった。
ハニカミ笑顔が可愛いのは変わらない。『まさ』って俺を呼ぶときの、ちょっと照れたところも酷く可愛かった。
………そういえば、その頃から、か。
俺の息子の調子が悪くなったのは…。
意識の浮上は突然だった。
ふと、頭の中がすっきりする。
思い切り開けた目の先に、俺を覗き込む智大のドアップな顔があって、息が止まるかと思った。
「ご、ごめん…っ」
「んー……あ、いや、大丈夫……。てか、智大が大丈夫か?」
智大、顔が真っ赤で。
「熱?」
「ふぇ!?」
額に手を当てたら、余計に挙動不審になった。
「熱、ないな?」
「ないよ!」
……怒ってるように見えるけど、これは、智大の照れ隠し。あーあ。耳まで真っ赤だ。
「んー……智大、今何時?」
「……そろそろ8時」
「え!?」
「パパが、いい加減起こしてこいって言うから…」
「そりゃそうだろっ。あ、まさか、夕飯、待ってるとか?」
焦って聞いたら、智大が頷くもんだから、はぁぁぁって盛大なため息をついてしまった。
「もっと早く起こせって」
「でも、気持ちよさそうに寝てたし…」
「だからって、奏汰さんと啓さんに迷惑かけんの駄目だろ」
「……ごめんなさい……」
7時頃には帰ってくるって言ってたよな。
「いこ、智大」
「うん」
なんとなく伸ばした手を、智大が握った。
それをなんだか嬉しく思いながら、ダイニングの方に向かう。
「あ、手」
「いいよ。なんか、智大逃げそうだし」
「自分の家の中で逃げるなんてしないよ!?もー……」
ダイニングのドアを開けたら、いい匂いがしてきた。
「お、眠り姫。おはよう」
「啓さん…姫ってやめてくださいよ…。すみません。かなり寝過ごしたみたいで。おかえりなさい、奏汰さん、啓さん」
「うん。ただいま。さ、征人君も早く座って。智大、お茶を出してくれないかな」
「うん」
智大は俺の手を離して冷蔵庫の方に向かった。
…あ、思わず今の今まで手を繋いだままだったな。
「あ、啓さん、すみません、服勝手に借りてます」
「ああ、うん。いいよ。もう今度から征人の着替えも置いておけばいいのに」
「え、いいんですか」
「いいんじゃない?ね?ちーちゃん?」
「……僕は、いいけど……。まさが嫌じゃないなら……」
「なんで俺基準?……じゃ、今度何着か持ってくるから、智大んとこ置いておいて」
「うん」
……あ、ほら。
また、あの俺の好きなはにかみ笑い。
……好き、な??
「じゃあ食べようか」
思考は、奏汰さんの声でストップした。
「いただきます!」
思い思いに挨拶して、味噌汁から。
それからは普通の食卓。
いつの間にか、俺用の食器とか箸とか用意されてて、嬉しい。
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