9 / 16
本編
僕は抱きまくらです。…この度永久就職いたしました
しおりを挟む僕はファビ様のお膝の上で、横向きに座らされて、大きな温かい手で涙を拭われる。
「食事を続けよう」
「はい」
僕用のサンドイッチは小さいから、ファビ様なら一口で食べてしまう。けど、ファビ様は、具が一番多いところを僕に齧らせて、残りを自分の口に放り込んでた。
「兄上の伴侶になっても、家のこととか領地のこととかは気にしなくていいからね?」
「?」
突然ラウドリアス様に言われたことに、首を傾げてしまった。
そんな僕を見て、ラウドリアス様は楽しそうに笑う。
「当主の妻には家内の取り仕切りとか、領地経営の手伝いとか、色々な仕事があるんだよ」
「え」
ど、どうしよう。
僕、そんなこと何にもできない。
「だから、気にしなくていいって言ったでしょ?」
僕が目に見えて落ち込んだからか、ラウドリアス様はまた笑うと、そう言ってくれた。
「跡取りも気にしなくていい。アーデルグレイス家の跡取りは、私達の子になるから」
「………」
そうだ。跡取り。伯爵家なのだから、跡取りになる子供がいなければならなかったんだ。
「う……」
僕はどうやっても子供を産めない。
「僕……捨てられますか……?」
「なぜそうなる」
「シュリはもう少しちゃんと私達の話を聞こうね?」
二人から頭を撫でられてしまった。
「もう一度言うけど、兄上が婚姻されたから、私もそろそろ婚約者と婚姻してこの家に住みたいんだよ。彼女はシュリのことも知ってる。とっても可愛がってくれると思うよ?」
「……ラウドリアス様のご婚約者様……」
何度か会ったことがある。
お屋敷に来るときには美味しい甘いお菓子をお土産にくれた。
「だから、跡取りとか、領地のこととか、家のこととか、何も心配しないで」
「あ、あの、じゃあ、僕は何を……」
今までのような侍従の仕事をしたらいいんだろうか。
ファビ様は仕事に行くのに、僕は昼間、何もしないでたった一人でこのお部屋にいることになるの…?
「抱きまくらだろ?」
「え?」
「シュリは私だけの抱きまくらだろ?」
「えと…、はい」
「正直、その『抱きまくら』っていうのはどうかと思うんだけど…、兄上にシュリが必要なのは確かなことなんだよ」
抱きまくら……は、いいんだけど。
必要って言われたから嬉しい。
「兄上は、シュリがいないと寝ないんだ。この家にも帰ってこない。王城の魔術師団詰め所で延々と魔術の研究をしていて、寝不足で同僚の人たちが何人も倒れてしまうんだ。それで、国王陛下に怒られてようやく家に帰ってくるんだよ」
「……へ?」
「シュリが来るまで本当にあった話し」
「一週間や二週間、寝なくても問題ないだろ」
「それは兄上の話でしょ。周りはそんなことしたら死人が続出するからね?」
「……ファビ様……」
「ん?どうした?」
「……僕、一日でも眠れなかったら、きっと死んじゃいます……」
「……!それはだめだ…!!シュリ、今からでも寝るか?眠れないなら私が魔法で……!」
「あ、いえ、今は大丈夫です…!で、でも、僕はちゃんとファビ様にも寝てもらいたいから……」
「シュリ…!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて、苦しいけど嬉しい。
「まあ、そんなわけで、シュリがうちに来てから、魔術師団の方々からも感謝の言葉をもらってるんだ。あの部署は兄上のせいで働きすぎのところだったから。ちなみに、国王陛下からも感謝の言葉と、秘密だけどお菓子を頂いてるんだよ。……本当に兄上はあちこちに迷惑しかかけない魔術バカだったからね……」
「失礼だな。私の研究があってこそ、この国は今平和なんだろう」
「だから、シュリがこの魔術バカな兄上の抱きまくらをしてくれるのは、とてもいいことなんだ。国のためと言ってもいいくらい。なんなら、国王陛下から『抱きまくら』の称号を頂けるよ?」
……ちょっと、話についていけない……、かな?
でもわかることは一つだけあった。
「僕はずっとファビ様の抱きまくらです」
堂々と宣言した。
そしたら、何故か二人から苦笑が漏れてくる。
「シュリ」
「ファビ様…?」
「シュリは抱きまくらの前に私の唯一の伴侶だからね?愛しい人だからね?」
「あ……」
「愛してるよ、シュリ」
「ファビ様……」
キスが、降ってきた。
嬉しい。
大好き、ファビ様。
ラウドリアス様からは、今後絶対、毛布やシーツだけで屋敷内を走り回らないこと……って、言いつけられた。
ファビ様のお仕事が気になったけど、昨日から一週間の婚姻休暇を取っていたらしい。……昨日から。僕の旦那様はとても気が早いというか……、なんというか。
ファビ様は神殿に行ったとき、婚姻式の予定も立ててきたらしい。……それが三日後って聞いて、ラウドリアス様が激怒して呆れ返っていた。
ワタワタと準備をして件の三日後。
僕はファビ様と、大勢の人から祝福された。突然のことだったのに沢山の人が集まってくれて、僕は嬉しくて泣いてしまった。
それから数日間、僕はほとんどベッドからでれなかった。
一週間の休暇が終わってからも、ファビ様は朝ぎりぎりまで僕のそばにいて、お昼になると一旦帰ってきて僕とお昼ごはんを食べて、夜はとても早い時間で帰ってきた。
僕は毎日、僕にしかできないことをする。
だから今夜も、ファビ様の腕の中で、幸福を感じながら微睡む。
大好き。
とっても大好き。
僕はずっとファビ様の抱きまくらですからね。
ファビ様も、僕を手放さないでくださいね。
(おわり)
*****
お付き合いありがとうございました!
続きを希望してくださった方々、有難うございました^^
シュリが可愛かったです……ひたすら(笑)
53
お気に入りに追加
631
あなたにおすすめの小説
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ヤクザと捨て子
幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子
ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。
ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。
執着攻めと平凡受けの短編集
松本いさ
BL
執着攻めが平凡受けに執着し溺愛する、似たり寄ったりな話ばかり。
疲れたときに、さくっと読める安心安全のハッピーエンド設計です。
基本的に一話完結で、しばらくは毎週金曜の夜または土曜の朝に更新を予定しています(全20作)


ふたなり治験棟
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!


お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる