僕は伯爵様の抱きまくら………だったはず?

ゆずは

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本編

僕はファビ様の抱きまくら兼………?

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 少しだけ足に力が入りにくかったけど、そんなの気にしてる場合じゃない。
 ファビ様がなにか言っていたけど、今はファビ様のためにいかなきゃ…!!
 小走りになるとお尻から注がれた子種がとろりと落ちてきたけど、気にしてる場合じゃない。
 廊下をペタペタと走り抜けて、厨房近くでふぅ…って息をついて、少し壁に背中を預けた。

『シュリ』
『可愛い』
『一生私の抱きまくらだ』

「はう」

 ファビ様の言葉が頭の中一杯になって、顔がどんどん熱くなってく。
 僕が奥方様。
 ずっとずっと、ファビ様のお傍にいていい。
 愛してくださらなくても、ファビ様が僕を必要としてくれてるなら、僕は嬉しい。体だけでも御慰みできるなら、僕は幸せ。

「…大好きです」

 僕の言葉が届かなくてもいい。
 だって、僕の気持ちは、たくさんたくさん溢れているから。

「……はっ、朝食……!」

 僕はシーツを巻いた格好で厨房に飛び込んで……、僕を見て慌てふためいた料理人さんたちが、執事様を呼びに行って、執事様は笑顔で僕を浴室に連行して、昨日の侍女さんがこれまた笑顔で僕の体を洗ってくれた。
 急いでいるから僕のことは後回しでいい、って言ったのに、執事様も侍女さんも、誰も『はい』とは言ってくれなかった。

 巻き付けてたシーツは当然のように取られて、昨日と同じようにお尻の中も綺麗に洗われた。
 手触りのいい下着をつけられて、やっぱり手触りのいい服を着せられる。…まるで、貴族の子供のような格好。
 身支度を終えて浴室を出たら、執事様が待っていた。

「シュリ、旦那様の下にお送りいたしますよ」
「え」
「こちらです」

 今更案内されなくても大丈夫なのに…って思ったけど、大人しくついていった。
 執事様が案内してくれた部屋は、やっぱりファビ様のお部屋だった。
 何がなんだかわからなくて執事様のお顔を見たら、「大丈夫ですよ」って微笑まれた。
 執事様がドアを開けると、椅子に座って項垂れてるファビ様と、ファビ様の隣に腕を組んでとっても怖いお顔の弟君のラウドリアス様が立っていらした。

「え、と…?」
「おはよう、シュリ」
「お、おはようございま…す?」

 ラウドリアス様は僕にはとっても優しい笑顔を向けてくれた。

「さ、シュリ様はこちらにおかけください」
「え、は、はい」

 執事様がファビ様の真向かいの椅子を引いてくれて、座るように僕を促した。
 僕はよくわからないまま、椅子に座ってファビ様に向かい合った。

「シュリ」
「は、はい」
「シュリは、今の自分の立場は何だと思ってる?」
「立場…?」

 ラウドリアス様は、優しくて労るような視線だ。
 なんだろう。何かあったのかな。

「あの…」
「うん。いいよ。何をいっても咎めることはしないから、正直に話してご覧?」
「はい……、えと、僕は、ファビ様の抱きまくら…です」

 ファビ様…って言ったとき、ラウドリアス様の目元がぴくりと動いた。

「抱きまくら?」
「はい。ファ……、旦那様が、僕は一生、旦那様だけの抱きまくらだ、って……。僕がいないと眠れないから……って」
「うん、それで?」
「あの……、奥方様ができたと思ったのですが、でもそれは、抱きまくらの僕の役目で」
「う、ん?」
「旦那様はご婚姻されてませんから……、奥方様というのは、旦那様が安眠されるために抱きまくらの役を果たすという意味なのだと……」

 僕は奥方様の代わり。
 でも、一生って言われたから、きっとファビ様はご婚姻される予定はないんだと思う。
 だから、僕は傍にいていい。ファビ様には僕が必要だから。

「はぁ……」

 ラウドリアス様の盛大な溜息に、僕の肩がびくりと揺れた。
 でも、ラウドリアス様の視線は項垂れたままのファビ様に向けられてた。

「兄上、これでわかりましたか?」
「………ああ」
「シュリには何一つとして伝わっていません。…二日連続で毛布やらシーツやら纏っただけの姿で屋敷の中を走らせることになるなんて……、伯爵家始まって以来の醜態です。おわかりですか?」
「………わかって、いる」
「何故駆け出す前に捕まえるなり誤解を解くなりしないのですか。なんのための魔力なんですか。行動を阻害することなど、宙を飛ぶよりも遥かに簡単なことではないですか」
「……ああ、そうだ」
「では兄上。私と執事がしっかりと監視して見守っていますので、今ここで、シュリの誤解を解いてください」

 なんか、ファビ様が怒られてる。
 僕のほうがドキドキしてしまうのだけど。
 僕の誤解…って、なんだろう…?

「……シュリ」
「は、はい」

 ファビ様が僕を見た。
 …とっても、泣きそうなお顔。
 どうしてファビ様がこんなお顔をされてるんだろう。
 緊張してきた。
 ズボンを握りしめてる手が、じわりと汗ばんでくる。

「シュリ」
「………はい」
「愛してるんだ」
「はい。………ええ?」
「愛してるんだ、シュリ」

 愛してる、って、なに?
 や、言葉はわかる。
 でも、ファビ様は僕に愛してるなんて一度も言ったことがない。
 愛されなくても、でも幸せだから、それでいいと思ってて。
 え、どうしたらいいの。
 おろおろしてたら、ファビ様の手が伸びてきて僕の頬を撫でた。

「シュリ、愛してる。私と婚姻を結んでくれ」
「え、え」
「今日にでも神殿に提出したい。私の名前はもう書いてある。あとはシュリが名を書いてくれれば、すぐに提出してくる」
「あ、の」

 ファビ様が僕の前に金字で装飾された用紙を出した。
 細部まで見る余裕がなかったけれど、一箇所だけ『ファビラウス・アーデルグレイス』とファビ様のお名前が書かれてた。

「うそ」
「シュリ、私はお前を愛してるんだ。抱きまくらとしても感謝してる。シュリを抱いて眠ると本当によく眠れるんだ。だがな、シュリ。それだけじゃ足りないんだ。お願いだから頷いて。私の生涯ただ一人の伴侶になって欲しい」












*****
弟と執事に監視されながらじゃないと、求婚も満足にできない旦那様……。
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