3 / 16
本編
旦那様は抱きまくらが必要じゃなくなった
しおりを挟む毛布を巻いただけの格好でシュリが屋敷の中を駆け抜けたのは、弟の耳にもはいったらしい。
直後に部屋を訪れた弟はひとしきり爆笑し、それが落ち着いた頃には今度は執事まで部屋を訪れ、こんこんと説教された。
「兄上は頭がいいのにこういうことに関しては完全に抜けてるんですよね」
「そうでございますね。まさか、『旦那様と呼べ』が、婚姻の言葉になると思われていたとわ……。この爺、情けなくて天国のご両親に顔向けできません……」
「だが、可愛いとも伝えたし、婚姻を結んだら『旦那様』と呼ぶものだろう?」
「兄上、そこは、可愛いの他に『愛してる』とか『好きだ』とか、愛の言葉を囁かないと」
「……旦那様、私達使用人も旦那様のことを『旦那様』とお呼びしておりますよ?旦那様の仰るとおりなのであれば、私達全員が旦那様と婚姻関係にあるということになりますが、よろしいので?」
「……よくない」
「シュリは天然すぎるから、はっきりと婚姻して伴侶にする、って言わないと誤解したまんまだよ?」
弟と執事に諭されて、頭を抱えてしまった。
「……愛してる、とは口にした」
「本当に?」
「旦那様、それはしっかりとシュリが起きているときに、でしょうか?」
「…………いや、眠っていた……ときだ」
「兄上……」
「旦那様……」
二人から向けられる憐憫の視線に、どんどん頭が下がっていった。
「兄上、愛の言葉は起きてる時に、しっかりと目を見て言わないと伝わらないですよ」
「睡眠学しゅ」
「兄上?今すぐ屋敷から叩き出されたいですか?」
「いや……」
笑顔なのに弟のこめかみには青筋が浮かんでいた。
「魔法の天才、魔法師団総帥を最年少で努めている鬼才、魔法の申し子…、色々いわれてますけど、魔法以外のことはからっきしなんですから……。とにかく今夜にでもシュリの誤解を解いてくださいね?いいですか?しっかり、はっきり、愛してるってことと、正式にきちんと婚姻を結びたいっていうことを説明するんですよ?」
「わ……わかった」
「できなければ、当主代理の権限でシュリは私が預かります」
「それはっ」
「屋敷の中を毛布一枚で駆け抜けるなんて……。そんな可哀想なことをさせた兄上に対する罰です。い・い・で・す・ね?」
「……………わかった」
弟の圧に負けた。
今夜……間違うわけにいかない。
シュリを奪われるなんて、考えただけで暴走しそうだ。
*****
焦った。
焦って……逃げてきちゃった。
「んっ」
お尻はまだなにか違和感がある。
毛布を巻いただけの僕を最初に見つけた執事様は、侍女の人に僕のことを託してどこかに行ってしまった。
「シュリ様、まずは湯浴みをしましょう」
「……『様』?」
「ええ。奥様ですよね?」
「奥方様?……誰が?」
「え?」
「え?」
仕事仲間の侍女の人と話が合わなくて少しの間見つめ合ってしまった。
「奥方様……決まったの………?」
「えーーーっと」
「決まったんだ……。僕が知らなかっただけ…?」
「うーーーーん。ん、シュリさ……ちゃん、まずはお風呂に入ろうね?」
「うん…」
ご主人様……旦那様に、いつの間にか奥方様が決まってた。じゃあ僕の夜の役割はもうない…よね?
そっか……。
嬉しいことのはずなのに、すごく胸が痛い。
侍女の人に手を引かれて、お風呂場に行った。
侍女の人は躊躇うことなく僕の毛布を剥ぎ取って、自分もスカートの裾を縛ったり腕まくりをしたりして、僕と一緒に浴室に入ってきた。
「シャワーは熱くない?」
「うん……大丈夫……」
一人で入れるよ……って、言うべきだったんだけど、旦那様に奥方様ができたってことにショックを受けすぎてて、何も考えなかった。
「ちょっと失礼しますね」
「ん」
突然お尻に指を入れられた。
ビクッて体が震えて、嫌な感じが背中を駆け上がってくる。
「や……」
「ちょっと我慢。……ああ、もう。こんなに中に入れたまま……っ、ん、傷はないみたいね。腫れてもいない」
なにかがとろとろと足を伝った。
侍女の人が僕のお尻の中を洗ってくれた…ってことを理解したのは、念の為…って軟膏を塗られたときだった。
「あ、あの…」
「なに?」
「ありがとう…ございます」
「こちらこそごめんなさい。嫌だったでしょう?でも必要なことだから。さ、しっかり体を拭いて。着替えたらお夕食の時間だわ」
「夕食……」
ふわふわのタオルでしっかりと拭かれた。
髪もゴシゴシじゃなくて、パタパタって感じで、痛くない拭き方。
「僕……今日お休みしちゃ駄目かな……?」
「旦那様にお食事をお持ちするのはシュリちゃんの仕事でしょ?」
「そう……なんだけど」
顔を合わせられない。
奥方様の姿を見たくない。
奥方様がいるってことは、僕はもう抱きまくらじゃない。ただの……使用人。あの腕の中で眠れない。旦那様の近くにいることができない。それはすごく……辛い。
うまいお休みしたい理由も思いつかなくて、厨房に向かうことになってしまった。
厨房に置かれたいつものワゴンのところには執事様がいて、僕に気づくとにこりと笑ってくれた。
「シュリ、今夜は奥方様の分もあわせて二人分の配膳をお願いします。場所は旦那様のお部屋ですよ」
「……わかりました」
結局、理由は思いつかなくて。
お料理が冷めないように、足早にお部屋に向かった。
*****
もうちょっと続きます
旦那様、ヘタレすぎ(笑)
55
お気に入りに追加
627
あなたにおすすめの小説
【BL】婚約破棄されて酔った勢いで年上エッチな雌お兄さんのよしよしセックスで慰められた件
笹山もちもち
BL
身体の相性が理由で婚約破棄された俺は会社の真面目で優しい先輩と飲み明かすつもりが、いつの間にかホテルでアダルトな慰め方をされていてーーー
浮気をしたら、わんこ系彼氏に腹の中を散々洗われた話。
丹砂 (あかさ)
BL
ストーリーなしです!
エロ特化の短編としてお読み下さい…。
大切な事なのでもう一度。
エロ特化です!
****************************************
『腸内洗浄』『玩具責め』『お仕置き』
性欲に忠実でモラルが低い恋人に、浮気のお仕置きをするお話しです。
キャプションで危ないな、と思った方はそっと見なかった事にして下さい…。
敏感♡ナース♡凌辱物語♡♡
松井すき焼き
BL
斉藤要のもとに、姉の婚約者の西園寺清から体験型ゲームVRが送られてきた。
ゲームなんぞ興味はない要だったが、ゲームの名前は、『敏感♡ナース♡凌辱物語♡♡』と書かれていることに、要は目をとめ、やり始めることにしたのだが、ゲーム内で要の姿は少女になっていた。
頬に触れる指も頬もリアルで、ゲームないだととても思えない。ゲームの設定のせいか、異様に敏感な体になってしまった要は、ゲーム中の患者になど凌辱され輪姦されながらも、ゲームクリアを模索する。
なおこの作品は小説家になろうと、アルファポリスの二つに記載させていただいています。
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
ご主人様に幸せにされた奴隷
よしゆき
BL
産まれたときから奴隷だったエミルは主人に散々体を使われて飽きられて奴隷商館に売られた。そんな中古のエミルをある日やって来た綺麗な青年が購入した。新しい主人のノルベルトはエミルを奴隷のように扱わず甘やかしどろどろに可愛がってくれた。突然やって来た主人の婚約者を名乗る女性に唆され逃げ出そうとするが連れ戻され、ノルベルトにどろどろに愛される話。
穏やかS攻め×健気受け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる