【SS】とある日常の小噺

ゆずは

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舐める?舐めない?…俺は舐めたくない!

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「なぁ、明日の休みだけどさ」
「ん。どっか行きたいところでもある?」
「んー…とね」

 夕飯の支度をしながら、久しぶりの二人揃っての休日が楽しみでならなくて。
 シャキシャキのレタスを細く切って、薄く切ったパプリカと合わせて、割いたサラダチキンを混ぜ合わせる……予定。
 鼻歌まででそうなくらい気分は明日に飛んでいたけど。

 サクサク
 サクサク

 丸めたレタスの葉を切って、切って、余所見したわけじゃないのに、スパン、と。

「!?」

 自分の指の皮を削いでいた。

「うぎゃああああ!!!!」
「え、なに!?」
「切った……切ったぁ!!!」
「ちょ、落ち着けって」
「ううう……血ぃ出てきたぁ……」
「見せろよ。舐めときゃ治るだ………」

 って、多分俺の切ったところを咥えようとしていたあいつが、俺の左手を持ち上げてままフリーズした。
 だって、そこ、凄いぱっかり開いてるんだもん……!!

「う」
「血、血…!!止まんない……!!え、俺、死ぬの!?このまま出血多量とかで死ぬの!?」

 『レタスを切っている最中に――――』

 とか、ニュースで流れたら凄いみっともないんだけど!!

「お、おちつけ、だ、大丈夫だ、これくらい、あ、そうだ、傷口を押さえれば」

 って、手近な布巾で指を押さえてくれたけど、その布巾がみるみる赤く染まってく。

「うぎゃあ!!!」
「と、とまんないぞ!?」
「やっぱ、死ぬ、俺、死ぬ…!!やだ……死にたくない……!!」
「救急車か!?消防か!?10か17か、どっちだ!?」
「痛い……あ、なんか、目眩が……」
「おい!!気をしっかり持てよ…!!」

 スマホ片手に、俺の指を押さえてて。
 気が遠のく……。

「あ………だめ………。ごめん……俺、お前とずっと一緒に……って、約束したのに……」
「縁起でもないこと言うなよ!?」

 だって、手元の布巾はどんどん血濡れになっていくし。

「――――あ、姉貴!?救急車って何番だっけ!?――――だから!!あいつが、血が、止まんなくて……!!!――――おい、姉貴が今からくるって…!だから、お前は気をしっかりもてよ!?」

 ……あ、姉さんに電話したんだ。
 うう。姉さんごめん。こんな殺人現場みたいなところに来てもらうなんて…。
 気持ち悪い。
 ふらふらする。
 立ってていいのか座ったほうがいいのかよくわからないまま、あいつの胸に体を預けてた。






 ………そして、現在、市内夜間救急病院の、診察室待合の廊下で、俺とあいつはぐったりと身を投げだして座ってる。
 俺の左手の人差し指には、包帯がぐるぐる巻。

 ちー…………ん

 って感じの俺たち。

「ほんっと、ばっかじゃないの!?あんたたち!!指を切ったくらいで救急車呼ぶとか呼ばないとかいい加減にしなさいよ!!」
「……だって、あんなに血が………」
「はぁ…っ、ほんっと情けないったら……!」

 あいつの姉さんの剣幕が凄かった。
 姉さんが家に来てから、車に乗せられてあれよこれよとこの病院に連れてこられ、看護師さんが俺の血まみれの手を洗った。ぎゃあああ!って叫ぶ俺をにこやかにスルーする看護師さんプロは、容赦なかった。
 それから、お医者がニコニコと「ああ、ぱっくりいったねー。縫うからねー。麻酔するよー?」って言って、俺の指にブスブスと注射針を刺していったが……、それがまた痛くて暴れそうになったら、ニコニコ笑う看護師さんに押さえられた。
 ……そして、二針、縫われました。
 あいつは既にリタイアしてて、廊下でぐったりしてたけど。

 まあ、そんな夜間病院で俺の叫びを轟かせつつ、今に至る。

「……俺さ……」
「……ん、なに……」
「恋人がさ、俺のために料理してくれてさ」
「うん」
「ちょっと手を切って、それをパクって舐めてやる…、その時の照れた恋人の顔を見るのが夢だったんだよ……」
「……ああ。よくあるよね……」
「でも流石に……、俺、あれは舐めれなかった……」

 そう言ってたもんなぁ。

「俺が逆の立場だったとしても、俺も舐めたくない……」
「だよなぁ」
「そもそも、血を舐めるのはヤダなぁ……」
「あぁ……うん。そうだな。よくよく考えたら」
「せめて、『味見してー』って指でつまんだものを指ごと咥えるくらいにして……」
「……じゃあ、今度それやって」
「……暫く料理担当お前になるけど」
「……まじかぁ……」

 そんなどうしようもないことを話しながら、なんとなく頭の中が回り始めた頃、俺たちの代わりに会計を終わらせてくれた姉さんが、迎えに来てくれた。
 俺たちは姉さんの車に乗って家に帰り着いたわけだけど。

「「ぎゃあああ!?」」

 台所が血まみれの惨状で、思わず叫び声を上げていた。






(おわり)








*****
真面目にレタス切ってたときに、ザックリいきまして。皮膚を切り落としました。月曜日に。そのとき、もう現実逃避のようにどうしようもない話ができたので投下…。
そして26日は、家族全員休みだったので中心街に出て、気温と湿度にやられ、ぐったり…。
予約入れてるもの以外、完全休みになってしまいました……。
……まだ指は出血してるし、痛いし……。散々です……><
ほんと夏は嫌い……。
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みんなの感想(1件)

こゆきねこ
2022.07.27 こゆきねこ

お大事に…

2022.07.27 ゆずは

ありがとうございますm(_ _)m

解除

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